時刻はとうに日付変更線を越えた後。
ホテルのキッチン…と言うのは、勝手が違って気持ち悪い。
整理されてはいるのに、段取りに思いのほか手間取ってしまう。

こそこそと薄明かりの中。
私が作ろうとしているのは…言わずと知れたチョコレートだ。
義理ではない、念のため。



心から、あげたいと思える人が出来たのだ。



その人の喜ぶ顔が見たいが為。
私はこうして睡眠時間を削りつつ、チョコレート製作に勤しんでいる。







〜バレンタイン戦争〜







やっとで必要な調理器具をそろえて、腕まくり。
さぁ、やるか。
意気込んだ瞬間。


「何やってるんですか、。」

「うわあぁ!?」


全く気配無く現れた人物に飛び上がるほど驚いた。
声の方を振り返ると、私の肩にポテッと乗ったLの顔。
思いっきり耳元で叫んでしまったせいか、Lは眉間に皺を寄せた。
耳を押さえながら、Lは身体を離す。


「…そんなに驚かなくても。」

「何よL!捜査はどうしたの…!ってか夜中よ今!」

「休憩中です。が心配すると困るので仮眠はもうとりました。」

「…いいから早く此処から出てって!」


バクバクと鳴り響く心臓を押さえつつ、力の限り叫ぶ。
驚いただけではない、心臓の鼓動の速さ。
それは、つまり。





Lにはばれたくなかったからだ。





Lの背を押しながら、キッチンから追い出しを図る。





「………解りました。」


Lは少し名残惜しそうにキッチンを覗いたが、意外とあっさりと引き下がった。
捜査の続きに行ってきます、と軽く私の手を払った。
1人で行けますよ、と。私の頭を撫でて。


「あ。そうだ。」

「んん!?何よ、まだ何かあるの!?」


これでチョコ作りに専念できる、と胸を撫で下ろしたのもつかの間。
キッチンに戻ろうとした矢先、両腕を掴まれてLに向かい合わされた。

私の顔近くに、Lは自分の顔を寄せる。
近すぎる距離に、不覚にも顔を赤くする私に、Lは一言付け足した。





「………飛び切り甘いのでお願いしますね、。」





しかも、最上級の笑顔と。



ふわりと触れるだけの、口付け付きで。







「期待して待ってます。」







軽い足音と、キッチンの戸の閉まる音だけが響いた。







「…何よ。」







それでも、私の耳に届くのは。

自分の鼓動の速さと重さ。

それと、囁かれたLの声。



期待して、待ってます。





「…頑張っちゃうからね。」





絶対、美味しいと言わせてみせるから。










明け方、Lが私に毛布を掛けに来た時。

出来上がったチョコレートをつまみ食いして微笑む。

…という、幸せな夢を見た。





それは本当に夢なのか。
翌日、Lからはほんの少し。
本当に、見落としてしまいそうなくらいに。



………チョコの匂いがした。







***あとがきという名の1人反省会***
第2回拍手夢兼バレンタイン夢のLですv

バレンタインまでが忙しかったので、
拍手でお目見えという形に相成りました。
これを読んでちょっぴり幸せを感じてくだされば幸いです。
L夢は本当に久々すぎてかなり手探りで書きました。
…これって本当にLですか?(聞くな聞くな

それでは、ここまで読んでいただき有難うございました。

2006.02.21 水上 空