傍観者としてこのまま傍に居る。

姿を現して、出来ることをしてやる。

究極の選択を強いられると、ただ自分の無力さを痛感する。



悩むほど頭があれば、………月ほどの頭脳があれば。
残された時間の有効な活用とか。
俺と君の望む、最善の策とか。
思いつけたかもしれないのに。



恨んでくれ。
罵ってくれ。



頭の悪い俺を。







‐2:No one can escape his destiny.‐







いつも通りに目覚ましが鳴る。
普段はおっとりしていると言われる私も、この時ばかりは素早い。
甲高い目覚ましの音を必死で止めて、私の一日は始まるのだ。


「んん………朝………かぁ。」


別段早起きが嫌いじゃない身体は、すんなりと覚醒する。
大きく伸びをして、少しだけ欠伸をして。
肩より少し伸びた髪を、ゆっくりと後ろに纏めて、ベッドから降りる。

机の上に放ったままだったはずのヘアゴムを取るために、ゆっくりとそちらに向かう。
参考書が開いたままの机。





その、真ん中に。





「…なに、これ。」


大学ノートのような、1枚の紙切れ。
そこに踊る、不恰好極まりない文字。
見慣れぬそれに、私の手はピタリと止まった。







その上、そこには『触るな』の文字がデカデカと。







取りあえず、書いてある事を読むのが精一杯。
処分するにしても何にしても。
警告というものには従うに越したことはない。





どうしてこれが此処にあるのか。

親の筆跡ではないことは確かだ。

考えることは山ほど在るけれど。

私は、どうしても先を読まなければいけない気がした。










「………俺……を?」





―俺を知りたければこの紙に触れると良い。

 ただ、責任は持てない。

 知らないほうが得をする事も沢山在る。

 俺がついたものは、不幸になる。

 それでも良ければ、触れると良い。

 再三言う。責任は持てない。

 知らぬままが良ければ、このまま部屋を出ろ。

 次に部屋に入れば、この紙は消えている。 





とにかく、要領の掴めない手紙だった。
でも、どうしようもなく惹かれる要素がそろっていることも確か。



私が知りたがったのは、何だった?

何度も、願ったのは、何だった?

そんなの、答えは1つしかないのに。



不確定要素が多すぎるせいか。
それとも、私の期待が強すぎるせいか。
手にはじっとりと脂汗が滲んでいるし。
唇だって、震えてる。
それでも。


「……………神、様?」


自分の感覚を信じるならば。
いつも感じていた不思議な空気が漂っているし。
ふわり、振り向いた先、陽炎が揺れたような気がするし。
望んでいた答えが、この手紙には隠されている気がして。


私は、何もない空間に向かって話す。
いつも、そうしてきたように。
そこに神様が居るから。
今、出来るだけの笑顔で。





「これに触れたら、…会えるの?」















は、俺の手紙を理解した。
いつもの笑顔で、手紙を指差して。
望んでいた答えに俺は緩く微笑んで。
分かっていた答えに、俺は懺悔する。


{どうなっても、責任持たないぞ。}



1歩だけ。
身を引いて。
その時を待つ。



「………構わないわ。」

{本当に、良いのか。}



声は聞こえていないのに。
会話は成り立っていて。
柔らかく笑うは、本当に嬉しそうで。



「だって、どうしようもないじゃない。」

{不幸になるかも知れないんだぞ。}

「貴方に、会えるのなら。そんなもの。」





が紙に触れると信じていたくせに。

こんなに、試すような真似をしてしまって。

に、自らの運命を決めさせてしまって。

決断を、委ねてしまったずるい俺に。

どうしては、こんなに綺麗に笑ってくれるのだろう。















運命の紙に、臆面もなく触れてくれるのだろう。















目を見開いて、それから優しく微笑んでくれたに。

俺は、上手く笑えた気がしない。


{初めまして、………。}

「初めましてじゃないわ、神様。」

{………そう、だったな。}

「でしょう?」


ガチガチに固まって、どうしようもなく緊張して。
差し出されたの手を取ると、身動きが出来なかった。

の柔らかい手が、俺の手で、傷つかないか。
それだけが、頭の中を駆け巡っていた。





ごめんな。

懺悔の言葉と、一緒に。










もう、運命は変えられない。
逃れることなんて、出来やしない。
俺も。

………お前も。







***あとがきという名の1人反省会***
ほんと、どんだけのんびり連載なんだorz
お久しぶりのリューク連載です。こんにちは。
サブタイトルはえーと、
「誰も運命からは逃れることが出来ない」です。

今回やっとリュークと主人公ちゃんが出会いました!
はぁ、これでちょっとは描きやすくなるってもんだよ!
後はちゃんとリュークが動いてくれるのを待つだけです(ぇ
がんばれ、リューク!!(人任せ

それでは、ここまで読んでいただきありがとうございました。

2006.03.20 水上 空