足に擦り寄ってきた子猫を、家に連れて帰った。 お父さんも、お母さんも。 その子猫を快く迎えてくれた。 だけど、だけど。 山羊のお乳をあげても、飲み込めなくて。 どんどん体温が下がっていって。 お父さんがお医者様を呼びにいく間に。 私の手の中で、その子猫は死んじゃった。 〜鎮魂歌〜 ゴツゴツした、家の裏の土を掘る。 手の中に土が入ったけれど、そんなのどうだっていい。 今はこの子猫が落ち着ける場所を作ってあげないと。 ぼやけてる視界を拭うと、目の周りが突っ張った。 「何してるの?」 急に落ちた影から、声がする。 少しだけ控えめに、それでいて無視できない声。 気遣わしげに声をかけたのは。 「…あ、亢宿…。」 「…ちょ、!?何で泣いてるの!?」 いつも自分より人の心配ばっかりしてる。 凄く強くて、優しい男の子。 隠した涙が溢れたのは、きっと安心したせい。 別に亢宿が悪い訳じゃないのに、私が悪いだけなのに。 細くて長い、綺麗な指が私の髪を梳いていく。 「泣かないで、。…お願いだから………。」 慣れてる、そう言ってしまえばそれまでだけど。 私を泣き止ませるツボは心得てるから。 私はいつも少しだけ甘えて、胸を借りる。 その間ずっと、亢宿は微動だにしなかった。 小さな心配りに、もう一筋だけ涙が溢れた。 「一緒に、見送ってあげよう?」 「………うん………。」 いきさつをかいつまんで話すと、亢宿は花を摘んできてくれた。 小さな綺麗な花は、色んな色をしていて。 周りに添えると、お墓らしさがぐんと増した。 亢宿は続ける。 手を合わせて、お祈りをしながら。 「と一緒に居れて、この子も幸せだったんだよ?」 「そう、かな?」 「うん。」 顔を上げると、いつも通りの亢宿の顔があった。 優しそうな微笑みは、いつも変わらない。 パンパンと、汚れた手を払って亢宿は立ち上がる。 遅れてそれに倣うと、亢宿は腰に手を伸ばす。 「僕がさ、鎮魂歌吹いてあげるから。は笑って見送って。」 あまりに優雅な立ち姿に、一瞬どう返事を返して良いか、わからなかった。 「は優しい子だから出来るでしょ?」 元気出して。 そう、言ってくれているような笑顔だった。 洗練された笛の音が響く。 綺麗だけど、悲しい笛の音。 鎮魂歌。 魂を弔う歌は、どうしてかとても淋しい。 「…ううん。」 「どうして。」 笛の音がピタリと途切れた。 亢宿のびっくりした顔が見える。 立ち上がって亢宿に並ぶ。 「亢宿と一緒に、見送りする。」 「…そうだよ?だから笑って見送れば良いんだよ?」 「違うの。それじゃ駄目。」 「どうして?」 亢宿の鎮魂歌は綺麗だけど。 「私も一緒に歌うから。」 私は亢宿の笑顔で元気になったのに。 淋しい笛の音で、あの子を送ってあげたくない。 もっと色々してやりたかったなんて、今更どうしようもない。 だったら、最後に明るい気持ちで。 ね、と出来るだけ微笑む。 泣いた後の腫れた目で笑った顔は、きっと綺麗じゃないけれど。 「…じゃぁ、元気と勇気が出る曲にしようか。」 笑ってくれた亢宿は、それはそれは嬉しそうに見えた。 「その方がこの子も喜ぶね。」 「も、だからね。」 「うん。」 私が頷くと、亢宿はまた笛を持ち直した。 さっきとは違う、軽快なリズム。 私はそこにでたらめな歌詞をつける。 今の気持ち、ありったけ込めて。 有難うの気持ち。 もっと一緒に居たかった気持ち。 きっと、いっぱいこもってる筈。 それから暫く、笛の音は辺りを包んでいた。 「有難う、亢宿。」 「…もうちょっと、ここに居ようか。」 「日が、暮れるよ?」 「…でも、あと少しだけ。」 今日はいろんなことがあった。 悲しかったこと。 嬉しかったこと。 本当に、たくさん。 でも、そこにはいつも亢宿が居る。 支えてくれる人が居ること。 ちゃんと知ったから。 亢宿の隣。 暮れる夕日を見れたこと。 きっと忘れられることはない。 胸だけ、ドキドキと早鐘を打つように。 亢宿の隣、夕日が暮れて。 ほんの少し開いた距離、亢宿から埋めてくれたことが嬉しかった。 ***あとがきという名の1人反省会*** 亢宿。青龍サイドの中では1番好きです。 書いてはみたものの、題材が微妙ですか。 …どうもすみません(汗 亢宿の「元気と勇気の出る歌」が聴いてみたくて…。 ほんとそれだけのために出来たものです。 淋しい音より、温かい音で送ってあげたい… そんな別れもあってほしいです。そう思います。 それでは、ここまで読んでいただき有難うございました。 2006.04.16 水上 空 |