子供は風の子、元気な子。

日曜日の午後。
因みに外は雪景色。
…こんな寒い日に外へ出るなんて自殺行為。
風の子になる前に、すっかり風邪とお友達というものだ。


「よっしゃー!!このまま逃げ切ったんでー!」

「…残念でしたー!私だってまだあきらめてないもんね!」

「ハンッ!そんな事ゆうたかて、もうの負けは決まったも同然やないか!」

「必殺、ローリングスター!」





という訳で、私たち2人は家の中でTVゲームに興じている。







〜おうちでゲーム、罰ゲーム付き〜







格闘系のゲームを始めて、そろそろ2時間がたとうとしていた。
家に2人でいる、ましてそれが恋人同士なら、ちょっとありえないような時間の使い方だ。
それでなくても、他に何かすればいいのだけれど。
私の部屋にあったゲームを見つけて、翼宿が宣戦布告をした瞬間に、その時間はいとも簡単に却下された。
曰く、勝負事は避けられない性分、らしい。
…それに私までもちゃっかりと巻き込むところは、流石、と言うべきなのだろうか?
逃れられないであろうそれに、私もしぶしぶ承諾した。
まぁ、翼宿の笑った顔が見れるなら、それでも良いかと思ったから。





そして、話は冒頭に戻る。





「な…何でやー!!そんな技見たことも聞いたこともないで!?」

「ふっふっふ。そんなのコマンド覚えない翼宿が悪いんじゃん?」


立ち上がってまで怒りを表しても、時既に遅し。
大きめのテレビが映し出すのは青いLOSEの文字。
画面で力なく横たわっているのは、1コンのキャラクター。
1コンを握っていたのは、言いだしっぺの翼宿。



まぁ、つまり、そういうことだ。



「だー!また負けかい!!くっそ…!次来たらんかい!!」


呆然としていたのもつかの間で、翼宿は悔しそうに叫んだ。
さっき取りこぼしたはずのコントローラーを握りなおして、早くも準備万端。
…悔しそうな瞳の中に、既に闘志の炎が燃えている。
早く早く、と急かす翼宿に、私は余裕の微笑みを投げた。

まぁ、カリカリしないのは、勝者に与えられた特権ってことで。
ついでに、その勝者には今回商品がつくんだよね。





「…その前に、飲み物買ってきてくれるかな?」

「な…俺が!?」

「…次は罰ゲームかけてやるって言ったのそっちでしょ?」


はい、と財布を渡すと、翼宿はそれと私を交互に見た。
そんな不満そうな顔をされても困る。
自分で言った癖にどうしてこっちが非難されなきゃならないんだ。
ニッコリ笑顔でさらに財布を押し付けると、翼宿はようやくそれを受け取った。


「……………何がええねん。買うてきたるわ。」

「やたっvじゃあコーンポタージュv」

「はいはいはいはい。ちょっと待っときー。」

「うんっ!」


もう諦めました、敵いまへん。
そう呟いて、溜息を大量に吐き出して翼宿は部屋を後にした。
いつも自身過多な翼宿を、私が負かせるのは取り合えずゲームだけ。
口は多分互角だし、力だったら絶対勝てない。
だからゲームだけは負けられないんだ。


…あ、頭も私のほうが断然良いか。


いや、それは置いといて。
馬鹿の一つ覚えみたく、毎回突っかかってきて。
それで罰ゲームまでつけてやる気出したかと思えばあっさり負けちゃって。

ホント馬鹿って言うか。

我武者羅に一直線って言うか。

普段格好良いくせに、こういう時には可愛いから。





そんな翼宿を独り占めできるから、嬉しいんだけど。





なんて、そんなことを考えていたら、ついつい手の方は疎かになってしまって。
折角コンピュータ相手に勝とうと思っていたのに、ノックアウトされてたり。
…早くリセットしておかないと、馬鹿にされるよ。
きっと高笑いでもするんだよ、涙流しながら。


リセットキーを押した瞬間にドアが開いて、少し身震いした翼宿が入ってきたからちょっと驚いた。
鼻を少し赤くして、まだ止んでいなかったんだろう、溶けた雪を頭にのせて。
走ってきてくれたのか、雪とは別に額に汗が滲んでたりして。
何か、それが結構嬉しかった。





ー。買うてきたでー。」

「ありがとーv」

「…このクソ寒い中、買うてきたんやからもちっと感謝しー。」


飛び切りの笑顔で言ったつもりが、ベシッとツッコミ一丁。
渡して貰えると思っていたお目当てのコーンポタージュはテーブルへ。

暖かさを求めていたのに、渡されたのはひんやり冷えた翼宿の手。
頬に当てられると、かなり冷えていて。
手袋して行かなかったんだ、馬鹿じゃん、とか。
茶化して言えない位冷えていて、何か……一瞬対応に困った。


「…アリガトウゴザイマス、タスキサン。」

「嫌味な位に棒読みしくさってからに…。」

「い…、いいじゃん。嫌味だもん。」

「良い訳あるかい!」

「ごめんごめん。」


頬から手を剥がして、息を吹きかけて温める。
それは多分一瞬の事だったんだけど。
翼宿の顔はそれだけで赤くなったらしくて。
ちょっと大仰な動作で手を振り払った。










「…ったく…何すんねん…。ほなさっきの続き始めよか。」

「今度は何してもらおうかなー。」

「その必要はないで!今度は俺が勝つよって。」

「へー。まぁ頑張ってねー。」

「ぐあー!その余裕がむっちゃ腹立つーッ!」





背けられていた視線が返ってきて、いつものようにじゃれ合う。
テンポの良い会話。
でもどこかいつもとは違う。
翼宿はどうかは知らないけれど、少なくとも私はそう思った。





友達のような私たち。

…付き合いだしても、実感が沸かない位スローペースの関係。

少しだけ、近づけたかもしれないから。


なんて、考え事をしている間に、翼宿はゲームを再開して。
私はお陰で1・2発ダメージを食らってしまった。
翼宿にしてやられるなんて、…不覚。
コントローラを持ち直して、私の指は華麗に動いていく。















「………ウソや………。」

「ホントの事だよね。」

「ほな、夢や。」

「白昼夢は見てないんじゃない?」


…顔面蒼白の翼宿は、もうどこに黒目があるのか分からない。
多分白目剥いています。
現実逃避を繰り返しても、どこにも逃げ場はないのにね。










「………何でまた俺負けてんね―――んッ!」










立ち上がって仁王立ち。しかも吠えた。
息の上がるのを待ってから、話しかける。


「弱すぎ?」

「るッさいわ、アホが!」

「所詮負け犬の遠吠えだよねv」

「……………チッ………今度は何したらえーねん………。」

「う〜ん…じゃぁねぇ…。」

「……………ぉぅ。」


私の顔色を伺いながら、ちょっと縮こまる。
少し怯んだような顔は、いつもは見れないから面白いんだけれど。
取り合えずそんなことは後回しで、私は翼宿に罰ゲームを言い渡した。


「ちょっと1人でゲームの練習してて。」

「は?」

「あ、あんまり動かないでね〜?」


間の抜けた返事が返ってくると同時。
逃げられないように素早く、私は翼宿の膝の上に寝転がる。
寝てからでは、取り合えず翼宿は暴れることは出来ない。
…だって、そういう奴じゃん?
案の定暴れない翼宿は、ゆっくりと私の肩を揺すっている。


「…お、おい、コラ!起きんかい!」

「おやすみーv」


目を瞑る前に上を見上げると、困ったような、焦っているような。
…顔を真っ赤にした翼宿と目が合った。
微笑んで目を瞑る。
小さく丸まった私の身体には、当然のように毛布が掛けられて。
少し小さい溜息と、優しい言葉が降ってきた。










「次は負けへんでー?ー。」










眠りに付く直前に、額に柔らかくて、暖かい感触があったけど。
もしそれが接吻だというならば。
起きた時にでも罵って、見損なったと呟いて。
それから、出来たら。















私から、翼宿に。





そうして、また友達から恋人へ近づいていこう。







***あとがきという名の1人反省会***
やっと!やっとで書けましたよ、翼宿夢!
ついでに更新久しぶりですよ!(マジでどうしよう
何か途中で書きたいこと変わっているような気もしますが、
まぁそれはいつものこt…(殴

少しギャグよりパラレルのお届けです。
翼宿がゲームしだしたら、勝つまで止めないんだろうな、
とか思って書いてみました。
罰ゲームは自分で言い出して自分で受けてそうですよね(笑
これから翼宿は増やす予定ですが、もっと甘めが良いですかねぇ?
ご希望ありましたらBBSやメールでお知らせください。

それでは、ここまで読んでいただき有難うございました。

2005.12.11 pochi