イライラと眉を吊り上げていく翼宿。
それでも話を聞いてくれていることが、凄く嬉しかったり。


「で、何やねん。」

「いや、何となく暇だったのよ。」

………理由はそれだけしかないねんな?」

「うん。」


電話して、すぐに飛んできてくれた翼宿。
大慌てで、バイク転がして。
何があったのか息まで上がって。

そこまでしてきてくれたのに。
理由がただ、暇だったから。







「あほらし………帰るわ。」

「ちぇ。」


そりゃぁ、呆れられても当然、だよね。
溜息混じりに部屋を後にする翼宿に、私は一言だけ不満を漏らした。

一応見送ろうと思って私も後を追う。
玄関口で、靴を履き終わった翼宿は私が来るのを待っていてくれた。
怒った様子もなく、…少々呆れたような顔で。







〜ただ、それだけなんだけど〜







「あのな、。用もないんやったら呼び出すなや。」

「用がないと、一緒には居てくれないの?」


暇だったから、なんて。
本当は、翼宿と居たいための口実。
面倒見が良くて、仲間は大切にする。
そんな翼宿が、大好きだから。
ほんと、それだけなんだけど。



それも、言っちゃいけないこと?



見上げると、困ったように眉を寄せる翼宿の顔が見える。


「俺以外を呼べば済むやろ。」

「何でそんな事言うのよ。」

「遠いねん、此処まで来んの。」


ぽん、と。
軽く頭を撫ぜる手は、子供をあやすそれに似ている。
恋愛対象として見ているのは、私だけ。
言われてはいない筈の言葉が、テロップみたいに私の頭を回る。





「…ごめんね、翼宿。」





本当はもっと言いたいことはあったんだけれど。
1番に出てきたのは謝罪の言葉。

翼宿。

呼びなれた名前が、今日は虚しく心を通り抜けた。



「無理してきてくれて有難う。」

「………アホ。」

「何よ、謝ってるのに………。」


いつの間にか下を向いていた私の顎を掴んで。
翼宿は強引に上を向かせる。
泣き出す直前だった顔を見られるのが嫌で、必死で抗ってみたものの。
翼宿の力は強くて、結局上を向いてしまう。

が、翼宿は私の顔を覗いては来なかった。





「早う用意してこいや。」





無粋なまねはせぇへん、とか格好良いこと言っちゃって。
それより、無粋なんて言葉が翼宿の辞書にあるなんてのが驚きだし。
顔を背けて、私の頭を乱暴に撫で付けて。
ドアに体を預けて、完全に待ってくれる体制。
オレンジの髪の間から、切れ長の目が苦笑する。


「…え?」

「しゃーないから、喫茶店くらい連れてったるわ。」


盛大な溜息と共に、それでも楽しそうに口の端を上げて。
白い八重歯がにやっと覗いた。


「………有難う、翼宿!」

「嬉しそうにしよってからに…。」

「嬉しいもーん。」


ただ、構ってくれる事が嬉しくて。
言われたとおりに用意をしようと踵を返す。





。」





瞬間、声を掛けられて振り返ると、そこには優しく笑う翼宿が居た。










「………代金だけはきっちり先払いでもろうとくわ。」










先払いの代金は、寧ろ私にとってはご褒美のような。



伝った銀糸が、優しく切れた。







***あとがきという名の1人反省会***
拍手より持って来た翼宿夢です!
翼宿はどうしてかパラレルになってしまう…。
何ででしょうねー?最近原作読み返してるのに…。
もっと精進して、船酔い話とか書きたいです(そこかよ

それでは、ここまで読んでいただき有難うございました。

加筆修正 2006.05.29 水上 空