「あ、あれ可愛い。」

「ん?どれ?」

「ほら、あれ!」


いつも通りゲーセンで皆で遊んでいた。
皆がそれぞれやりたいゲームをやって。
俺はと2人でそれを眺めていたりしたけれど。

彼女は、1つのUFOキャッチャーの前へ駆けて行った。
目を輝かせてボックスを覗き込むに並ぶ。
可愛い、と見ていたのは、景品のキツネのぬいぐるみだった。


「………ほんと、ぬいぐるみ好きだよね。」

「うん、大好きv」


振り返ってニッコリと微笑む
元気いっぱいって感じで、大きく頷く。
ちょっとした仕草が可愛い。
ぬいぐるみなんか足元にも及ばないくらい。



指差されたぬいぐるみより、俺はの仕草に気をとられてた。







〜気付けなかった、ごめんね〜







「で?やるの?」


幾らそのままボーっとしていても、景品が取れるわけじゃない。
そう思って先を促すと、は顔を顰めた。


「えー。タケちゃんがやってくれるんじゃないの?」

「俺無理だよー、つっちーじゃないんだから。」

「えー………。」

「つっちーにとってもらいなよ?」


何だかどんどんしょんぼりしていく
そんなに景品が欲しいんだ。



UFOキャッチャーならつっちーが1番取れる確率が高い。
少し先の音ゲーをやっているつっちーを呼ぼうと踵を返す。





………と、シャツの背中の部分が握られた。
後ろから、本当に小さな声。










「………しは、タケちゃんに……………いたかっ………もん。」










「え?」


ゲーセンの騒音にかき消されて、上手く聞き取れない。
振り返って、もう一度聞きなおす。
何?と首を傾げる俺に、は微笑んだ。


「…何でもない。行こう?」

「でも。」





どこか淋しそうな。





「皆待ってるよ。」





何か言いたそうな。
そんな目をしてる。



………俺は、気付いた。
その、理由に。





「ごめん、俺、トイレ行ってくるから先行ってて。」


笑顔で話すと、はつっちーの方へ駆けて行った。
もうすぐ皆でビリヤードをする時間だ。
幸い、と言うか何と言うか。
此処から、ビリヤード場は死角。



彼女に感づかせないように、取り合えずゲーセンの隅に消える。
数分待ってもとの場所に戻ると、達は行った後だった。



準備万端。
思い立ったら即行動。
を喜ばせる時には、優柔不断な俺はかくれんぼ。
チャリチャリとポケットで小銭が鳴った。

後は仕上げをするだけ。
両替したお金を、投入口に投げ込んだ。















「お待たせー。」

「遅っせーぞタケ!」

「ごめんごめん。」


ビリヤードは既に白熱していたらしい。
竜が1人で球を突きまくっている。
涼しい顔の竜に、皆散々野次を飛ばしていた。

その横で、楽しそうにそれを見ている、俺の彼女。
後ろ手に隠したモノを見せないように、隣に座る。
俺に気付いたは、まず最初におかえり、と笑顔をくれた。


「はい、手ぇ出して?」

「うん?」

「どうぞv」


俺が差し出したのは、さっきのキツネ。
案外小さかったそれは、の手のひらサイズ。
チョコン、と手の上に座ってる姿は、何とも愛らしい。





「………どうしたの。」





ビックリしているが、俺に尋ねる。
何だか、不安そうな顔で。
ふわっと頭を撫でると、微かに肩が跳ねた。










「俺からあげた事ないなって気付いたから取ってきた!」










「かなり時間掛かったけどね。」





いつもそう。

つっちーに、とってもらいなよって言ってばかりだった。

今まで、何度も言われたことがあるのに。

ただ、それが欲しいだけなら、最初からつっちーに言うはずなのに。

俺の傍で、俺に向かって言ってくれていたのに。

いつも、聞き逃してたんだ。

気付けなかった、ごめんね。

でもやっと、分かったから。





遅くなって、ごめんね。





言うより早く、が俺の胸に頭を寄せてきた。
手にはしっかりと、キツネのぬいぐるみが握られてる。
目の端に映った頬が少し赤かった。


「…ありがとう、タケちゃん。」

「大事にしてね?」

「………メチャメチャ可愛がる…。」

「うん。」


優しく頭を撫でると、片手を後ろに回された。
嬉しくて、ギュッと抱きしめる。





ガスッ!!





と、上からビリヤードのキューが降ってきた。


「痛ってぇ!」

「「「「俺たち忘れてイチャこいてんじゃねぇよ!」」」」


良いでしょー?とまたを抱きしめると。
手痛い歓迎?がまた俺に降り注いだ。



まぁ、が喜んでくれたから、それで良いんだけど。

明日、覚えてろよ。















もっと、言いたい事言って良いよ。
今度から、聞き逃したりしないから。

例え、巧妙に隠されていても。
今度は、絶対気付くからさ。



約束できるよ。

できれば、じゃない。

絶対、絶対、気付いてみせるから。







***あとがきという名の1人反省会***
拍手夢より持ってきた、タケ夢でござーい。
前々からストックしていたネタを書いてみました。
思いついたのは、数ヶ月前。
くれはさんとゲーセンに来ていたときの事。
UFOキャッチャーで欲しいと言われたものを片っ端から
取っていたら、「彼氏っぽい」と言われたのがきっかけ。

最初は月とかに使おうとしてたんですが、急遽変更。
苦手なものに取り組んでくれた方が嬉しいよねって事で。
たまにはこういう誤算も良いかも(いつもだろ

それでは、ここまで読んでいただき有難うございました。

2006.01.02加筆修正 水上 空