俺はいつも1人だ。 誰も、俺の真実の愛を受け入れようとはしない。 一体、どれだけ拒絶されただろう。 ふと考えて、虚しくなって考えるのをやめた。 しかしながら、今日この日までには。 俺に相応しい、俺の真実の愛を受け入れる人に会えると。 漠然と、そう思っていた。 廊下を歩く俺は、未だ1人。 校舎の中には、もう誰もいないのか。 そう、俯いた時だった。 「ピアノ………?」 聞こえてきたのは、子犬が楽しそうに跳ねる情景が浮かぶ。 可愛らしくて優しい、旋律。 〜幸せのメロディー〜 音を頼りに惹かれるように…というと聞こえは良い。 が、よくよく考えれば音楽室にしかピアノはない。 俺が音楽室にたどり着くまで、あまり時間は掛からなかった。 「あの、」 「演奏中なんで…黙ってて貰えませんか?」 誰か(女の子)がいる、確信しつつ戸を開ける。 扉を開けた瞬間、相手を確認せずに声をかけたのもそのせい。 答えた声音は、高く澄んでいて。 声のほうへと視線をずらせば、そこには1人の女の子が。 巧みに指を動かしながら、俺には一瞥もくれることなく。 熱心に、ピアノに向かっていた。 それはどこか、描かれたような世界で。 一瞬にして心を捉えられた俺は、その場から動けなかった。 演奏が止むまでずっと。 開きかけの扉に、片手を添えたまま。 「…で、何か?」 最後の小節、最後の音。 ポーン、程よく反響した音が鳴り止んでから。 その子は、初めて俺を瞳に映した。 俺を真っ直ぐに捕らえる瞳は、この街では珍しい。 漆黒の瞳が俺を映している、それが単純に嬉しかった。 押さえ込んでいたはずの期待がこみ上げる。 「あぁ、綺麗な音色だった。」 「それはどうも。耳障りじゃなくて良かったです。」 「耳障りだったら黙って聞いたりしない。」 深々と頭を下げる、目の前のこの子。 この子が、俺の。 そう、確信した。 「俺と結婚してくださいマイスウィート。」 「…むしろ誰ですか貴方。」 切れ味鋭く返された。 だが、こんな事で負けるわけにはいかない。 俺に真っ直ぐな瞳を向けてくれるこの子が。 今まで待ちわびていたマイスウィートなんだから。 ずい、と近寄ってみたけれど、この子はのけぞる事もせず。 寧ろ逆に俺に向き直ってくれる。 素直で、良い子で、可愛い子だ。 さすが俺のスウィート。 「俺は犬塚我区。18歳、高3。」 「あぁ…噂のミスターガラスのハート先輩ですか。」 「俺を知ってる…?」 「まぁ、有名ですからね。」 「俺を知ってる………俺に惚れてる?」 「……………噂どおりのぶっ飛び思想ですねぇ。」 否定の言葉は出ないのか。 眉間に皺を寄せることもしないのか。 それどころか…クスクスと小さく笑った。 あ、可愛い表情。 言われている事は、いつもなら傷つきそうな言葉だというのに。 俺の気持ちは、一直線にこの子に向かって伸びている。 可愛い表情、ひとつ見るだけで。 天にも昇りそうな、暖かい気持ち。 「マイスウィート…君の名前は?」 「、ですけど?」 「美しい名前だ。今からりんと呼ぼう。」 「いや、呼んで良いとは言ってませんからね?念のため。」 もしもーし。 手を俺の目の前に翳して、振って。 表情も、行動も。 逐一可愛く思えるのは、きっとこの子がスウィートだから。 そう思うが早いか、俺は振られる手をそっと掴んだ。 小さなその手を俺の頬に当てる。 「今日という日にりんに出会えた事を感謝しよう、心から。」 「ガラスのハート先輩…話…聞いてます?」 きょとんとした瞳が、俺を覗く。 我慢できない。 勢いのついたまま立ち上がる。 そのまま叫んだ言葉は、音楽室中に木霊した。 「今日!俺の誕生日!愛する人と祝える!何て素晴らしい事だ!」 本当に、素晴らしい事だ! 愛する人が傍に居る誕生日! 親とは違う、俺の愛を受け取ってくれるりん! 俺を真っ直ぐ受け入れてくれる。 そんな、愛しい人。 たとえ、たった今出会ったばかりであろうとも。 「ガラスのハート先輩…誕生日、なんですか?」 「そう。だから、りんと出会えて倍嬉しい。」 俺は、笑う。 こんなに、優しい気持ちで笑えたのは初めてだから。 「…じゃぁ、誕生日プレゼントに、一曲。」 「ありがとう。」 りんの演奏するハッピーバースデー。 踊るように動く指が奏でるメロディー。 両親以外からの、心のこもった、初めての誕生日プレゼント。 幸せの、始まり。 包むメロディーが、心に染みて。 溢れる想いが止められなくて、りんを抱きしめた。 受け止めてくれる人、どうかずっと傍に。 送っていくよ、の一言で、私はガラスのハート先輩に送ってもらっている。 (有無を言わせない圧力があったから断れなかった) でも、少しだけ分かった事がある。 「りん。」 「何ですか、ガラスのハート先輩。」 「犬塚になってください。」 この人は凄く真っ直ぐで、単純で。 皆が言うほど、嫌な人じゃなくて。 どっちかって言うと憎めない人だ。 犬塚!良い名前だ! と、頬を上気させて笑う先輩は、何だかちょっとおかしくて。 少しだけ堪え切れなかった笑いが零れた。 「付き合ってください、が先じゃないですか?」 「あ。」 犬塚・ミスターガラスのハート・我区先輩は。 それからすぐに私の傍まで駆け寄って、指摘どおり言い直した。 手に触れた柔らかい感触は、断りもなかったけれど。 先輩の照れ笑いが見れたから、何となく私も嬉しくなった。 ***あとがきという名の1人反省会*** ガクリンハピバぁ!何とか間に合った…かな??(汗 ホントギリギリ、そして内容薄い…! でもちょっとギャグ混じりの文章楽しかったです。 これを読んだ人が少しでも幸せになれますように! それでは、ここまで読んでいただき有難うございました。 2006.10.11 水上 空 |