クローウリーぃ!





街の通りに響く、底抜けに明るい声。
祭りが開催されている街だというのに、声は喧騒に紛れることなく、私の耳まで届く。

私の数メートル先、こちらに向かって手を振る少女。
名をという。
我が同胞、エクソシストである。



私もに向かって、その場から手を振る。



すると、どうだろう。



は、さもご機嫌です、と言うように満面の笑みで。
ごった返す人の波の中、こちらへ駆けてくる。


…走ると、危ないであるよ?」

「転ばないよー、心配性だなぁ、クロウリーは。」


えへへ、と笑う顔はどこか幼さが残る。
年相応というよりも幼く映る笑顔が、とても真っ直ぐで。
本当なら心配する年ではないのだと知っていても、構いたくなる。










(でも知ってるのだ、年なんて関係ないこと。)







〜宙を舞う左手〜







そのまま、が行きたいと指した店へと向かう。
わき見をしながら歩くは、放っておくと他の店にも吸い込まれそうだ。
たまにふわりと歩いては、すれ違う人にぶつかりそうになる。

エクソシストとしての優秀な面影はどこへやら。
そこにある横顔はとても嬉しそうで、ふわふわしていて。


「心配にもなるである。」


露店でねだられるままにジュースを購入して。
道の端に腰掛ければ、吐き出した息と共に言葉が漏れる。





本心だった。





「え?…あたし、これでも………」

「戦闘のときの俊敏さは知っているのである。」


反論しよう、と開いた口を、言葉を紡いで止める。
どうやら、反論内容は当たっていたようで。
の方を向くと、少し不満そうな顔で、それでも次の言葉を待っていた。
そんな様子がおかしくて、私はの頭を撫ぜる。
ほんの少しだけ、軽く。


「でも、はしゃぐと周りが見えなくなるときがある…。」

「う………」

「だから、心配になるである。」







残ったジュースが、ポチャリ、コップの中で音を立てた。

図星を指されて、強張ったの顔。

少しでも緊張が和らげば良い、そう思ってもう一度頭を撫ぜた。

今度は、私の顔も和ませて。










…逆効果だったであろうか。










すい、とは立ち上がってしまった。

先程までの近い距離じゃない、離れた距離。

逆光となって、見えない、の顔。





(あぁ、は怒ってしまったのだろうか)

(エクソシストとして、頼りないと言った訳ではないのに)





どうやって声をかければよいのか。
言葉を捜して、目を伏せたところに、の声が聞こえた。







「じゃぁ………じゃぁね?」







声が小さく、街の喧騒に呑まれそうだ。





「なんであるか?」





俯いたままの、の表情は伺えない。
立ち上がって、の傍。
寄って良いものか迷っていると、2人の身体の間に。







「クロウリー、…手、繋いでて?」







白い、の腕。

開いたまま、宙を舞う、左手。

それを確認しても、私は、耳を疑ったままで。

じっとそれを見て、の顔を見て、を交互に繰り返した。










(あぁ、は、笑顔だ)










「そしたら、心配しなくて良くなるよね?」

…。」





顔を、桜色に染めて。
幾分より高い私の顔をじっと見て。
幼さの残る、ではない、………とびきりの笑顔で。






(ふと、エリアーデに自分が向けていたものと等しいのだと、気付いた)

(気付かないふりをしてきたはずが、気付いてしまった)





ん、ともう一度、今度は顔付近まで近づけられたの手。

おそるおそる、それに手を重ねる。

柔らかい皮膚に、触れる。

それでも私から繋ぐまで、は動かない。





震える指。

情けない。

ギュッと目を瞑る。





怖かったのだ。










………」

「あたし、居なくなったりしないよ?」





震えが、止まった。

あまりの衝撃に。

目を開けると、はまだ、笑ってそこに居た。



私の中の不安。
信じたものを、大切な人を失うのではないか。
信じたそばから、手を取ったそばから、無くすのでないか。



そんな不安の霧を、取っ払う突風のような。
それでいて、心を洗われるような。



優しい、言葉だった。










「私で、良いのであるか………?」

「クロウリーが良いんだよ。」

「……………本当に、本当に?」

「心配性だなぁ、クロウリーは。」




心配性になるのは、にだけだ。
未だに宙を舞うの手を取る。
今まで、迷って迷って、どうしても掴めなかった、の手を。



私の、右手で。





「行こう、クロウリー!次はあっちね!」

「あ、走らないで欲しいである!」

「はぁーい!」







2人で、人のごった返す街へと消える。

周りの陽気な音楽が、私の気持ちを押したのか。

その日、私はの手を離せなかった。










どちらに転んでも痛いと言うのなら、この手を信じて傷を負おう
(失いたくない、傍に居たい、それでも怖い、だからこそ)







***あとがきという名の1人反省会***
はい、どうもお久しぶりです、水上で(バキィッ
…水上です、満身創痍です…(泣

久しぶりの更新で申し訳ない上…。
あの…Dグレとか調子乗って書いてすみません。
だって…クロウリーってないんだもん!

怖いけど、勇気をもって踏み出す時は
支えてくれる手があれば安心できる気がして書きました。
共感できる人、いらっしゃいましたら仲良くしてください(ぇ

それでは、ここまで読んでいただき有難うございました。

2007.06.02 水上 空