一回しか言わねぇから、よく聞けよ! そう言われて、しばらく大人しく待ってみたけれど、 その先の言葉は、一向に私の耳には届いてこない。 〜スキと好きの違いを考察せよ!〜 苦虫を噛み潰したかのような、それでも頬に朱がさした顔で、 目の前のこの男…次元大介は、その先に続く言葉を繋げようとする。 ニヒルというのが一番しっくりくるような笑い方をする次元は、 普段のクールさ、冷静さをどこかに落っことしてきたんだろうか。 あぁ、男らしさとかも、かもしれない。 あー、だの、うー、だの。 口をもごもごと動かして、つまりその、なんだ、とつぶやく。 取りあえず、普段の次元大介という男は、此処には居ないのだ。 何だか知らない人を見ているようで、面白いな、なんて思った。 次元からの言葉を待っている時間は、物凄く長くて、 その間、私は次元の挙動をじぃっと見ているわけだが、 (口が動いたら、耳をダンボにしないときっと聞き取れないだろうからね) 目深に被っている次元の帽子の影から、時折見える視線は、 私のそれにぶつかると、即座にそらされてしまう。 どうしたの、と、これから次元が繋ごうとする、分かりきった言葉すら 何にも気がつかないフリをして、私は問うた。 ただ、次元がこういう時にどういう反応を返すか、純粋に知りたかった。 惚れたハレたの話を好まずに、今まで付き合った女すべてと、 もっと割り切った男女の関係を望んできた、次元大介という男の反応が。 きっとこれから次元は、私の事が好き、とか言うのだろうけれど、 (私だって馬鹿ではないから、そのくらいの事は分かる) 私だって次元の事は物凄く好きだ、そう思うのだけれど。 私はlikeのスキと、loveの好きの違いが あいまいすぎて、いまいち良く分かっていないのだ。 多分、ただただ子供過ぎて。 スキと好きの違いは、何なのだろう。 その答えが読み取れるといいなぁと思って、 身長の高い次元の瞳を見ようとしたのだけれど、 目深に被った帽子が邪魔で邪魔で仕方なくて、 私はその場から1歩、2歩と、次元の方へ歩いていく。 次元はといえば、私の近づく気配を敏感に察知して (当たり前の話だ、別に気配を消そうとすらしていないのだから) 僅かに後ずさったのだが、そう、それもほんの僅かだ。 覗き込んだ帽子の隙間から、次元の視線が私に降り注ぐ。 ソレはとても熱っぽく、尚且つ優しく私の上に降るものだから、 私はそのまま、次元から視線をそらせなくなってしまった。 その瞬間、だ。 の事が、すげぇ好きんなっちまってたんだ。 ふわっと、今まで見た事のない顔で次元は笑った。 あまりにも真剣で、あまりにも色っぽい声音で次元が囁くもんだから、 不覚にも私は、次元に向かって、何一つ言葉を返せずにいる。 次元がこんな視線、私に向けるなんて思ってなかった。 ドキリと波打つ心臓が、一際大きく跳ねる。 親愛の情とは違う、仲間の情とも違う、 芽生えつつある、その心の変化に、私自身未だについていけなくて。 どうしてくれんだ、こんなにしてくれやがって。 格好悪りぃったらねぇぜ。 …でも、すげぇ好きんなっちまってんだよ、お前の事。 なんて続けた次元に向かって、 一度しか言わないって言ったくせに、 なんて、茶化すことすら出来なくなってしまっている。 次元の表情や、言葉の含む熱っぽさ。 何もかも見たことの無いモノばかりで、私は如何して良いのか戸惑う。 返事が無いことを、どうやら肯定と捕らえたのか、次元は 私の唇に自分のそれをふわりと軽く合わせては、 さっきよりも幾分苦しそうな表情で私を見る。 私自身、顔が熱くなっていることに気づくのはまだもう少し先の話で、 唇が深く深く重なってきた後なのだけれど、 次元も私の答えを聞かぬままだったし、 もうしばらくは、次元のくれる、激しいようで甘く優しい それでいて、心臓がざわついて仕方ないこの行為を 楽しんでも良いんじゃないかと思った。 スキと好きの違いが分かる頃には、 私の次元への気持ちは、きっと、確実に、 ***あとがきという名の1人反省会*** 次元さんは大人なので、自分から惚れてしまったら、 大人の色香と少年のようなときめきを併せ持って ヒロインの事をとんでもなく惑わせると良いよ! と思って書きました。少しでも伝われば幸いです。 それでは、ここまで読んでいただき有難うございました。 2008.08.09 水上 空 |