私は物凄く、本当にどうしようもないくらい不器用だ。

きっと私以外の人がそれをするのはとても簡単で、

どうして私がそれを出来ないのか、なんて疑問に思うのだろう。

私だって本当ならそれがしたくてしたくてたまらないのだ。

私だって、皆と同じように、そう、したいのだ。

だけれど、しよう、とか、したいな、とか。

そういう思いだけが募る一方で、実行に移せたことは未だにない。

だって。







〜答えは、単純明快なんです。〜







「さぁーて、でーっけぇヤマも片付いた事だし、祝勝会といきますかぁー!」

「ふふ、ルパンがそういうと思ってね、昨日からお料理頑張ったんだよ!」

「おぉー!さぁーっすがちゃん!」

「わわっ!抱きつかないでー!くすぐったいよーっ!」


料理をテーブルに運んでいると、ルパンに抱き付かれた。
幸い料理自体はテーブルに置いた後だったし、
持ちきれない分は次元さんが手伝ってくれたから無事だ。

あぁ、デザートはまだ持ってきていないけれど。

ルパンはそんなことお構いなしにすりすりと頬ずりをしてきて、
モミアゲが摩れてくすぐったかった私は、声を上げてジタバタと抵抗する。


。……して、酒は在るか?」

「あ、あのね。そこの棚に五右衛門の好きな焼酎入ってるー。」

「む。そうか。」


上機嫌のルパンに解放されないままになっている私に、
五右衛門の落ち着いた声が降って来た。
じぃ、とこちらをしっかりと見て、言葉を掛けてきた五右衛門は、
いつもとは違って、少し表情が柔らかい。

彼も、気分が良いようだから、この状況は打破してくれはしないだろう。
何とか自分でこの状況から切り抜けるしかないのかなぁ、
そう考えて、結構大変そうだ、と溜息を吐いた。





「あー、もう、離してよぅルパン!祝勝会でしょー?」

「んだーってよぉ、ちゃん、柔らかくって抱き心地抜群なんだぜー?」



そうやって、一向に離れようとしないルパンの肩に。

ぽん、と。

私にとっての救いの手が、置かれた。



「…何じゃれてんだ、が困ってるじゃねぇか。」



溜息を吐きながら、口をへの字に曲げた、次元さんの手が。



「不二子がきてるぜ、ルパン。」

「まぁじで!?」


不二子さん、という単語にルパンは目の色を変えて走っていった。
ようやく解放された私はというと、次元さんの大きな手で頭を撫でられて、
さっきまで身体に入っていた力が全部抜けてしまったのか、
その場にへたり、と、座り込んでしまった。










「あ、あの、有難う、次元さん。」

「あぁ、まぁ今のはルパンが悪いだろ。」


少し、そのまま休んだ後で、次元さんに起こしてもらって、
キッチンへとデザートを取りに戻る。
向かいながらお礼を言うと、次元さんはにやりと笑って。


「顎に一発、キツイの入れてやりゃ、すぐ抜けれたんじゃねぇの?」


緩く握った自分の右手で、ジャブを繰り出す。


「そ、そんなの出来ないですよ!ルパンが悪い訳じゃないのに…。」

「そんなもんか?」

「そうですよ!」


どこまで本気なのか分からない次元さんの言葉に、私も慌てて否定する。
控えめに手を振って、ムリムリ、と付け足すと、
今まで笑っていたはずの、次元さんの顔が急に真顔になった。


「なぁ。」

「はい?」

「お前さ。ソレ、いつ直るんだ?」

「え?」



口元から、笑みが消えてる。

だけど、私はいまいち自体が飲み込めない。

直るって、何のこと。

ソレって、何のこと。



「最初は、仕方ねぇと思ってたんだ。だが今は違う。」

「ちょ、ちょっと待ってください、何のことですか?」


次元さんの気に障ることをしたのか、と思って思考をめぐらせたが、
答えには一向にたどり着かない。
何だろう、何したっけ、と首を捻ったら、次元さんが、答えをくれた。





「どうして、俺の事だけ、さん付けなんだ?どうして敬語を使う?」





次元さんの声が、廊下に響いた。

次元さんが、こっちに少しずつ近づいてくる。


「次元さん、あの…」

「ホラ、まただ。」

「そんなに、俺は近づきにくい存在か。」


アジトの廊下は広くない。
すぐに背中に硬い壁が当たってしまって、
もうこれ以上後ろには下がれない、逃げれないんだと悟る。


「はっきりしろ、。」


今、次元さんは、苦しそうだ。
私が不器用なせいで、私のせいで苦しそうだ。

ダン、と大きな音が耳元でした。
次元さんの手が、さっき私を助けてくれた次元さんの手が、
壁に打ち付けられていると知った。

見上げる顔は、今まで一緒に過ごしてきた中で1番近い位置にある。



あぁ、私は、こんな顔を見たかったわけじゃないのに。

涙がポロポロと零れるのと同時に、私の口からも言葉が、零れた。





「私、わたし…っ、ほんとは!」





逃げる事は出来ない。
次元さんに悲しい顔をさせたままで。





「真っ先に、次元さ…次元、の事、呼び捨てで呼びたいって、」


隠す事はできない。
追い詰められて、泣いてしまっている状態で。


「呼びたいって、思ってて。でも、いざ…」


口に出そうとすると、


「照れて、言葉が出てこなくて、気がついたら、さん付けするようになってて…」


言葉をつなげるたび、自分がどれだけ不器用で、
どれだけ情けない奴なのかがわかって、
勢いに任せて上を向いた顔も、どんどんと下に下がっていく。


「敬語、も。やめなきゃって思うほど出来なくなって…それでっ!」



私は、ただただ次元さんが好きで。

近寄りたくても、迷惑になりたくない、とか。

上手く、距離を保つ事ができなくて。

どうやって話したら良いのかわからなくて。

嫌われたく、なくて。

言葉が紡げずにいた。



でも、それじゃ駄目だ。



…」


次元さんの声は、さっきまでと違って優しい。
背中に当たる冷たい壁の感触から引き離されたと思ったら、
今度は全身が温かく、目の前が暗くなる。


「ごめんなさ、…ごめんね。」

「分かったから、もう良い。俺が悪かった。」


次元さんの大きな手が、私の髪の上を滑る。
耳元で聞こえた謝罪に、首をブンブンと振ったら、
少し笑ったのか、次元さんの口から空気の漏れる音が聞こえて、
直後、頬に伝った涙の後の上に、次元さんの唇が触れていった。



「踏ん切りがついたら、呼び捨てで呼べ。苗字だろうが、…名前だろうが、な。」



次元さんが、そう言ってくれたのとほぼ同時くらいに、
リビングからはお酒が足りなーい、と既に出来上がってしまった
みんなの声が響いてきたのだった。



「さて、じゃぁ酒と料理、持ってくか。」

「は、い。じゃなくて、うん。」

「あんま、無理すんなよ?」


口角をいつものように上げて、次元さんは笑う。

いつもと同じはずなのに。
私は、いつも以上に顔が熱くなってしまって困った。

次元さんの事を、好きになりすぎてしまって、困った。

これからも、もっと、困る。

でも、次元さんの事で困れる。

だから、それでいい。







***あとがきという名の1人反省会***
次元さんは原作でも名前で呼ばれることはないなぁ
と思ってたので書いてみました。
1人だけ名前で呼ばれないので拗ねてる次元さん。
好きすぎて困るっつーか、途中から収拾つかんくて
物凄く困ったのは言うまでもありません。すみませんでした。

それでは、ここまで読んでいただき有難うございました。

2008.10.18 水上 空