校門の横で、誰かを待っている少女が1人。 そこにそろりそろりと、近づく影が1つ。 部活帰りの待ち合わせ。 久しぶりの制服デートの始まりの合図。 〜あの日の寄り道、帰り道〜 「ッ!」 ガスッ!! 「…ったぁ!!」 大きな音と共には頭を抑えてしゃがみこんだ。 頭の上から何かが降ってきたからだ。 後ろを振り返るとその元凶の男が立っている。 涙目になりながら、キッと相手を見据えてみるが、そんなことはお構いなしにそいつは笑った。 …少し顎をさすりながら。 「待たせたな。帰ろうぜ?」 それはの頭にクリーンヒットしたのが。 それは男…つまり沢松健吾の顎だった。 今だズキズキと痛む頭をさすりながら、それでもは挑戦的に胸倉に掴みかかる。 「…アンタねぇッ!!…何考えたらそんなことが出来るわけ!?」 「や、丁度な?顎を置きやすい場所にお前の頭があるんだって。」 「…彼女に向かって何て仕打ちよ?」 「仕打ちって…んなのスキンシップだよ、スキンシップ。」 ヘラッと笑った締まりのない顔がまたもに向けられる。 …そうして、暫く後、はゆっくりと沢松の服を離した。 少し長めの溜息を吐いて、顔を上げるのと同時に微笑む。 の表情に、沢松は安心して歩を進めていく。 …後方から、柔らかい声が掛かった。 「………へぇ〜。健吾のスキンシップってこんなに痛いんだぁv」 「そうそう…納得したなら早く帰……。」 腕に抱きついてきたの頭を撫でようとして…沢松は固まった。 …その手に持っているものを凝視して。 冷や汗が噴出し、見る見る顔面蒼白になっていった。 「な…ちょ、?早まるな?まままマジで俺が悪かったからよ!!」 「えー?私怒ってないよぉ?」 慌てて背を逸らそうと試みるが、時既に遅し。 油断したうちにホールドされた腕はがっちり固定されて外れない。 つまり、このまま制裁を受けるしかないのだ。 「嘘付けー!!ンなでっけぇ鎌持って黒い笑みを浮かべてるくせに怒ってない訳ないだろー!!」 「やだなぁ、私からも大好きvな健吾にスキンシップするだけじゃないv」 「ギャー!!頼むから!頼むから!!何でも望むもん買ってやっから許してくれ、ー!!」 既に黒い笑みを浮かべていたは、準備万端といった感じで悠然とその場に立っていたのだ。 沢松の、泣きながら静止を求める声が虚しく響き渡る。 放課後の学校前には寄り付く人影も疎らで、助けてくれる人も居ない。 たまに通りがかったランニングしている部活動生も、この時間にはもう居ないようだった。 遠くに止まったカラスだけが、沢松を嘲笑する様に鳴いていた。 …もう駄目だ、無我夢中で叫んだ言葉に、はゆっくりと口を開いた。 「……………しょうがないなぁ。」 「お、おう!何でも買ったるぜ!(取りあえず凶器が引っ込んで安心したぜ…。)」 「…でも、安心するにはまだ早かったんだよねぇ、健吾v」 「ギニャアァァァァ!!つーかお前はエスパーかよおおおぉッ!!」 演技上手なは、そのまま私刑を執行したのだった。 そのとき、怪しい音が周りを包んだのは言うまでもない。 日の暮れ始めた帰り道。 先ほどの争い(私刑)などなかったかのように、2人は帰り道をゆったりした足取りで歩いていた。 夕日を背にしているため、自分達の前に黒い影が伸びる。 家に近づくにつれ徐々に伸びていくそれは、しっかりと重なっていた。 繋がった手を軽く振りながら、並んで歩いていく。 その光景は、非常に珍しかった。少なくとも、2人の間では。 罰ゲーム、として言い出したとしても、よっぽどでない限り聞き入れては貰えないだろう。 …今日のように無理やり承認させなくては、実現しない行為なのだ。 普段は沢松が嫌がるから、人前で手を繋ぐことはない。 それをも了承していたのだ。 本当に2人きりのときですら、滅多にないこの行為。 …それを望んだにも、何らかの感情があった。 …それに沢松が気付いたかは、また別の話ではあるが。 何にせよ、は嬉しそうに微笑んでいた。 そして、それを見て同じく微笑む、沢松が居た。 どちらからとなく、この行為を楽しんで。 どちらからとなく、握った手に力をこめた。 「…で?次は何すれば良いんだよ、。」 「そうだなぁ…パピノコの卵焼き味奢ってv」 暫く続いた静寂を破って沢松が話しかける。 …それに嬉しそうに答えるが居た。 家へ向かう道から脇道にそれて、公園のベンチに腰掛ける。 駄菓子屋の近くの公園は、学生の寄り道には最適だったからだ。 「へーへ。…てかお前も変わり種好きな奴な。」 「健吾だってそうじゃん?」 「ま、な。じゃ、ちょっと待ってろ。」 「うん。」 をベンチに座らせたまま、軽く頭を撫でると、沢松は一気に駄菓子屋までの道のりを駆けていく。 駆けていく背を見送りながら、軽やかに、は歌を歌った。 ブラブラと脚を振り回しながら歌う姿は、どことなく幼く見えた。 の明るい歌声が公園の中、響き渡る。 風に乗った歌声は、公園から然程遠くない駄菓子屋まで流れていく。 健吾の様子がいつもと違うことにくすぐったさを感じる。 最近遊ぶことも少なくなって、構って貰う時間も少なくなっていた。 同時に、学校以外で健吾に連絡を取ることも少なくなっていった。 …でも、今日は違う。はっきりとそう感じる。 私なんかと居て、健吾は満足なんだろうか。 いつも感じる自分へのコンプレックスが溶けていく。 健吾は嫌がらずに手を繋いでくれて、握り返してくれて。 本当は苦手なはずなのに、合わせてくれた。 大好きなんだ、好きになってよかった。 改めて認識して。 私なんか、が。私じゃないと、に変わっていく。 の望んだアイスを手に入れて、公園に戻るとき、沢松の耳にこの歌が届いた。 どうやらの機嫌が良いらしい事に改めて気付く。 最近は部活が忙しくて、構ってやれることも少なかった。 それと同時に、のはしゃいでいる姿も滅多に見なくなった。 …知らず知らずに安堵のため息が漏れる。 …俺なんかと居て、は楽しいだろうか。 いつも感じる自分へのコンプレックスが溢れ出していた。 …それでも、はしゃいでいるは本当に楽しそうで、嬉しそうで。 もっともっとこういう顔をさせてやりたいと。 改めて認識して。 俺なんか、が。俺じゃなけりゃ、に変わっていく。 「ほれ。」 「ありがとー。」 手渡したアイスを早速開けて、はまず半分を口に入れた。 それを確認して、沢松は背を向ける。 手には2人分の鞄を持って、肩越しに後ろを振り返った。 「じゃ、帰るぞ。暗くなるしな。」 「あ、ちょっと待って?」 「あぁ?」 パキン、軽い音を立てて、は残り半分のアイスを開けた。 そのまま沢松の口に突っ込むと、追い抜いていく。 甘い香りが、沢松の口内に弾けて、広がっていく。 公園の端まで走った後に、は振り返って叫んだ。 「半分コだよー!…健吾、早くいこ!」 ニッコリ微笑んだは、その場で手を大きく振っていた。 胸を張って、大きく。 顔には最上級の笑顔を宿らせて。 「は・や・くー!置いてくよー!」 「………待てよ。忘れもんだろ?」 再度叫んだに追いついて、横に並ぶ。 怪訝そうな顔の沢松に、鞄を渡されるのだろうと見当をつけたはそのまま両手を差し出した。 が、沢松から貰ったのは、軽いでこピンだった。 額を摩りながら足りない身長分上を向くと、そこには。 照れて真っ赤になった沢松の顔があった。 の顔の前に自分の手をぶっきら棒に差し出すと、視線を外す。 「手、貸せ。」 想定外の沢松の言葉に、咄嗟に言葉が出てこなかった。 …が、次の瞬間にはいつも通りの2人に戻っていく。 ただ少し違うのは。 沢松からの申し入れに、伸びていく影。 これから紡がれる言葉の行方だけだった。 「珍しいこともあるもんだ。…明日は槍が降るかな?」 「降らねぇッつの!」 「じゃぁどうしたって言うのさ。」 「…あー…その…何だ。何つーか、詫びと、礼も。」 「…うん。どういたしました。」 「過去形かよ?」 怪訝そうに沢松が聞くと、はケロリと答えた。 2人の間に僅かに開いた距離を、自ら埋めていく。 ココロごと。カラダごと。近づいていく。 「うん。最初から怒ってなかったし。」 「そうか。」 「健吾ー。」 「何だよ。」 「…今ねぇ、私幸せだよー。」 「……………おう。」 2人で、このまま変わっていけるだろうか。 公園を後に、家までの距離をいつも以上にゆっくりと。 言葉が足りなくても、伝えていけるように。 ずっと、この先も。 「また、一緒に寄り道しようね?」 「毎日じゃなかったらな。」 「毎日は駄目なんだ。」 「…土日は寄り道じゃねーからな。正真正銘デートだろ。」 「そっか…ありがと、健吾!」 「…どういたしました。」 あの日の寄り道、帰り道。 確かに貴方に近づけた。 あの日の寄り道、帰り道。 確かにココロ、触れ合った。 言葉が足りなくても大丈夫。 きっと君は分かってくれるから。 これからも、傍に居よう。 2人で一緒に歩いていこう。 2人で、寄り道、帰り道。 ***あとがきという名の1人反省会*** はい、えーと楽しんでいただけたでしょうか!? 初!沢松夢ですよー!(叫 原作で沢松は結構好きなんですよ。 なんで、一回書いてみたい…と思ってたんです。 そんな時に、就寝前にネタの神が降臨(笑)されました。 ありがとう、神様!! そんな前口上は置いといて。なんていうかごめんなさい。(いきなり土下座 駄文が目立って…と言うより、駄文ばっかりしか書けなくてごめんなさい。 取りあえず、制服デートが書きたいと思ったのですが、 ギャグにしても甘めにしても、中途半端なものになりました。 気分を害した方、苦情はガンガンどうぞ! 日々精進していきたいと思います…。思うだけならタダです…よね?(頑張りやがれ それでは、こんな妙な文を読んでいただき有難う御座いました! 2005.9.6 水上 空 |