帰り道、土手を通れば蒲公英がたくさん咲いていた。
それでも黄色に混じって、白色が少しだけ。
ふわふわの綿毛。


「ねぇ、どうしてかなぁ?」

「何がー?」

ちゃん先輩は、どうしてだと思う?」

「ん?」





土手にしゃがんで、それを眺める。
1つだけ手折ってみれば柔らかく揺れて。
ちゃん先輩を横目で見れば、大きな瞳が優しく笑った。







〜置いてけぼりの綿毛〜







僕が口を開く前、一瞬。
春の突風が一陣、僕と先輩の傍を抜けた。
砂埃が目に入りそうで、咄嗟に目を閉じたんだけど。
もう一度目を開けば、白色はほんの少しだけそこから消えていて。



反射的に見上げた空に、揺れてた。



さっき手折ったばかりの茎からも、半分くらいが空に舞って。
残った半分はまだ、しっかりと茎に残ってた。
置いてけぼりの綿毛、半分。





隣に座る先輩。
乱れた髪に、ふわふわの綿毛が1つ付いてた。
絡んだ綿毛を取ると、有難うって。
ついでに、茎に残った綿毛にも一緒に息を吹きかける。







空に放たれたそれは、さっきの集団に遅れながら同じほうへ飛んでいった。







「強い風が吹くとね、ドンドン飛んでっちゃうんだよ。」





ふわふわ揺れる。
はぐれたみたいに。


置いてけぼりの綿毛。
僕みたい。


追いつきたいのに、追いつけない。





「そりゃぁ、そうだよー。」

「何で何で?」

「比乃君は、変な事気にするんだね。」

「だって…。」





苦笑するちゃん先輩に、僕は告げる。





「離れ離れになっちゃうじゃん。」





何で僕は、ちゃん先輩と同じ歳じゃないんだろう。
いつになっても埋まらない歳の差。
たった1つって言っちゃえばそれまでだけど。
僕らはまだ学生なんだよ?



春がきて、夏がきて、秋も冬もきて、もう一度春がきたら。



卒業して、会えなくなっちゃったら?

僕の知らない生活、新しい友達、素敵な出来事。

たくさん、たくさん繰り返したら。

僕のことなんて、忘れちゃう?





「僕はさ、大好きな人と離れたくないよ。」

「…そうだね。」



大学だって、一緒にしたって。

いつも先輩は僕の先輩で。

僕は、いつも旅立つ先輩に、1年も遅れて。










ちゃん先輩。」










そんなの、嫌だよ。
ずっとずっと傍に居たいのに。


「僕とも、離れたくないって思ってくれる?」


ぎゅうっと、ちゃん先輩に抱きついて。
頭をなでてくれるちゃん先輩が、凄く好きで。


離れたくない。


埋まらない年の差の変わりに、少しだけ。
ちゃん先輩の肩に寄りかかる。
さっきより少しだけ乱暴に蒲公英を手折って、息を吹きかけた。







う ま く と ば な い 。







「今日は甘えん坊な上に質問が多いね?」

ちゃん先輩が、離れたくない人の中に、僕はちゃんと居る?」



今だけでも良いから。
こんな淋しい日には、傍に居たい。

ただ、貪欲に、先輩からの「ちゃんと居るよ」っていう言葉だけを求めて。
何度も何度も、馬鹿みたいに繰り返した。

その結果、得られた言葉が。





「比乃君が居ないと調子狂っちゃうよ。」





こんなに優しい笑顔付なら。


「そっかぁ。」


もうどうしようもないくらい胸がいっぱい。

何も言えなくて、変わりに綿毛を思い切り吹いた。



ふわり、揺れる綿毛が、茜色の空に飛んでく。

ふわふわ、揺れる、僕の心みたい。


「一緒の方向に仲良く飛んだね。」

「一緒に居たいんだよ。」

「そうだね、………きっとそうだね!」





さっきみたいに悲しくならなかったのは。
ちゃん先輩が傍に居てくれたからだと思う。
一緒に居たいんだよって、言ってくれたからだと思う。

僕を、必要としてくれたからだと、思うよ?

ちゃん先輩、そうでしょ?


卒業しても、傍に居てね。
ちょっと進んで、そこで待ってて。
ちょっとだけ休んでてくれたら、すぐに追いつくよ。







***あとがきという名の1人反省会***
拍手より持ってきた比乃夢です。
蒲公英の綿毛が揺れてる土手ってあんまり
見かけなくなりましたね、最近。
水上が小さいときは綿毛遊び大好きでした。
でも、何か飛んでって見えなくなっちゃうと
ちょっと淋しいですね。そんな話です、これ。

それでは、ここまで読んでいただき有難うございました。

加筆修正:2006.09.24 水上 空