テスト明けの日曜日。
私の部屋でいつも通りに比乃とのんびり。
比乃は寝転がって漫画読んで、私はその横で雑誌読んで。

そんな日曜日。


ふと、雑誌を見ていて、気になった。
口から、漏れた。


「何でかなぁ…。」

「え、何?ちゃん、どうしたのー?」

「何で、レモン味なんだろうね?」

「は、え、何、何がー?」



溜息を吐く私の横で、全く事態が飲み込めてない比乃。
焦った声に顔を上げたら、さっきまで漫画に夢中だった比乃が目の前。
いつの間に飛び起きたんだろう。
目が、まん丸。首、傾げてる。
そんなに首を曲げたら、痛いんじゃないのかな。

そんなことを考えてたら、ヤバイ。
今度はどんどん比乃の口が曲がってく。







〜A1.レモン味〜







むぅぅ、とほっぺたを盛大に膨らまして、比乃が叫ぶ。
いかにも子供っぽい行動なんだけれど、比乃がするととても可愛い。
膨らんで今にも破裂しそうなほっぺたをつついてみると、
ぷしゅっとこれまた可愛らしい音がして、空気が抜けた。


「もう、ちゃん!僕にもちゃんと分かるように話してよ!」

「あ、ごめん。だから口、戻して?」

「…しょーがないなー…。」



で、何?と続けた比乃は、いつも通りに笑ってて、ちょっと安心した。



「あのさ?ファーストキスって、レモン味って言うでしょ?」

「あぁ、言うよねー。良く聞くよー!」

「レモンって…酸っぱくない?」

「うん…僕ちょっと苦手。あ、もしかしてちゃんも?」

「うん、苦手…。でもさ、好きな人とするものでしょ?」


変だよねー、何でかなぁ。
そこまで言ったら、今まで頷いていただけの比乃の顔が上がった。
凄い納得って感じで。
分かってくれたんだなぁって思って、私は笑う。



そしたら、私が何か言う前に、耳元から声が降って。





「甘くないとおかしいね?」





導かれるように顔を上げると。
思考が停止する。


「だって、こんなにちゃん、甘いしね。」


視界が一瞬翳った後、笑った比乃の顔が見えて。
ほんのり朱色に染まった比乃の顔が見えていて。
私のファーストキスは、大好きな比乃に一瞬で奪われいたことに気付く。



「凄い、甘い、ね。比乃。」










好きな人とするキスというのは、こんなにも甘いものなのに、
どうしてレモン味なんていうのだろう。
私はそれが今まで良く分からなかった。


でも、今なら判る気がする。


私の、ファーストキスは。
レモンはレモンでも、はちみつレモンのような。
甘くて、ちょっぴり酸っぱいような。
爽やかな、味だった。


きっと、みんなそんな風に考えてるのだろう、
そう思うと、少しだけ納得がいって。
隣に居る比乃も、もしかしたらそう思ってくれているんじゃないかと思うと、
頬が勝手に緩んでいって、顔もどんどん赤くなっていって、
比乃と2人で、照れ笑いをしてから、もう一度キスをした。







***あとがきという名の1人反省会***
拍手から下げてきて、大分経過していたのですが、再録。
キスの味を5つくらいシリーズ感覚で上げれたら良いね、
と思って書いてました。トップバッターの白比乃です。

ファーストキスはレモン味、って良く聞くけど、
本当にそうだったら、何か切なくないですか、と思ったので。
好きな人とするキスは甘いのが良いな、と思ってる水上でした。

それでは、ここまで読んでいただき有難うございました。

加筆修正 2008.08.09 水上 空