「じゃーね、ちゃん。また明日〜。」 「うん、ばいばーい!」 仲の良い友達と、今日は路地3つ分早めに別れた。 表立った理由としては、"新しいノートを買ってくるから"。 でも、本当の理由は違う。 学校を出て、暫くしてからずっと視線を感じていた。 …1人の、黒尽くめの男。 何も知らない、普通の女子高生を巻き込む訳にもいかず。 狭い路地で、そいつが来るのを待った。 、。17歳。 この辺一帯仕切ってる、族の幹部やってます。 百鬼夜行 〜お蔵入り救済編〜 「……………で、あんた等は何な訳かしら?」 「…、様ですね。」 「それがどうしたって言うンだよ。」 「一緒に来てもらいましょうか。」 「嫌だって、言ったら?」 お決まりの台詞は聞き飽きた。 丁寧な言葉に隠された、歪んだ笑み。 言葉を返しつつ、あたしは地面を蹴る。 本能的に、戦いを望んで。 男の足元を掬うように蹴りを繰り出す。 …倒れこむはずだった男は、平然とあたしの後ろに回りこんだ。 「実力行使をするだけです。」 技が失敗したことに動揺した。 ………その動揺こそが命取りだというのに。 羽交い絞めにされた状況下で、尚も策を練ろうとして。 口元に当てられたハンカチから香る匂いに、咄嗟に気づけなかった。 遠のく意識の中、聞こえてきた雑踏に。 あたしは自分のミスを、ようやく認めた。 「………此処は………?」 ふらつく頭で、辺りを見回す。 身体が思うように動かない。 …怪我が無いのが、せめてもの救いだ。 暗い部屋の中。 動くたび、ジャラリ。重い音がする。 今だ暗闇に慣れない目を凝らすと、手枷が付けられているのが分かった。 「…起きたか、。」 声がしたほうを向くと、案外近くに見知った顔が1つ。 手の届く距離に、鹿目サンが居た。 手枷はやはり施されていて、眉がいかにも機嫌悪そうに釣り上がっている。 「…鹿目サン?…鹿目サンも黒尽くめの奴等に?」 「そうなのだ。」 深々と頷く鹿目サンに相槌を打ちながら、あたしは慣れた手つきで手枷を外していく。 頭に付けていたアメピンを伸ばして、カチカチと数回穴の中で捻る。 両の手を拘束していた手枷を外すと、手枷の痕がはっきりと付いていた。 小さく溜息が漏れる。 「じゃぁ、此処は、もしかして………」 「他の族のアジトの可能性が高いのだ。」 「…縄張り争いって訳ですか。」 「その可能性が高いのだ。」 鹿目サンの手枷も同様に外す。 あたしの手枷以上に、鹿目サンのを外すのは厄介だった。 鹿目サンは、何とも無い顔をしている。 ………けれど、相当の時間、閉じ込めていたのだろう。 手枷の下の腕は、痕がくっきり、では留まらず、所々青痣が浮いていた。 「他の皆は?」 「と僕と、2人だけなのだ。…多分。」 「…あたし等が、弱そうってことですかね…。」 「人質とは…な。甞められたもんなのだ。」 「見張りもなしなんて馬鹿丸出し。」 拘束が無くなって、身体の力を抜く。 凝り固まった身体を解すと、2人とも立ち上がる。 「いけるか。」 「当然でしょ。」 小さく頷きあって、目星をつけていたドアへ一気に距離を詰める。 回収されてしまったのか、いつも愛用している獲物は無い。 2人のチームワークが大切だ。 あたしは左から、鹿目サンは右から。 ドアまであと数歩。 落ちていた廃材と、手枷を武器に。 刹那。 「気がついたかな?」 「「って牛尾(さん)!?」」 一斉に攻撃を仕掛けようとして、………止まった。 さんざ暴れて、開けさせようとしていたドアから覗く顔。 …そこに居たのは、見間違える訳もない。 キラキラの点描を背負っているんじゃないかと思う、うちの族のリーダー。 牛尾御門。その人だったのだから。 「ななな、何でお前が此処にいるのだ!」 「あ、鹿目サン!助けに来てくれたんじゃないですか!?」 「あ、そうか!そうなのだ、きっと!」 「ですよね!あー、なんだ。あたしの勘違いじゃなくてよかったー!」 ギャァギャァと慌てるあたし達に、牛尾さんは笑顔で言う。 「いや、僕の家に僕が居るのは普通の事だろう?」 「「……………は?」」 そうであっては欲しくない、と。 頭の中で打ち消したかった答えを。 「それより、このアジトどうかな?雰囲気出てると思わないかい?」 子供のように、楽しそうに。 今まであたし達を拘束していたアジトを誇らしそうに眺めて。 あっけに取られるあたし達を、気に止めることも無く。 「あ、これ新しいユニフォームなんだけど、是非君たちに試着して貰いたいんだ。」 差し出された衣装を手に取ると、着替えて見せてね、などと。 「えー…と。つまり?」 「…アジトとユニフォームを見せたかったと?」 「そうだよ。だからSP達に大急ぎで2人を連れてきて貰ったんだ。」 ニッコリと、満足そうに笑った。 「「………紛らわしい招集の掛け方すんなァ―――!!」」 ついに、あたし達はキレた。(だって当然の権利だと思うし 手近にあったものをことごとく投げつける。 あたしは上から。鹿目サンは下から。 「ちょ、お、落ち着きたまえ、2人とも!!」 「るっさい!そこに居直るのだ!!」 「あたし達の緊迫感は何だったんですか!!」 完璧な連携プレー。 牛尾さんに、そのうちいくつかがクリーンヒットする。 怒りのパワーというのは、想像以上に大きいのだ。 「全て無駄なんじゃないかな?」 「「真顔で寝言吐いてんじゃねぇ―――――ッ!!」」 あたしと、鹿目サンの怒声だけが、新しいアジトに響いた。 、。17歳。 この辺一帯仕切ってる、族の幹部やってます。 ………多分(汗 ***あとがきという名の1人反省会*** 尊敬する若葉さんとのリレー夢ということで 書いておりましたが…企画自体お蔵入りになりまして 何か勿体無いなーと思ったので自分の書いた1話目 (になる予定だったもの)をUPです。えへ。 全体ギャグテイストですが、族ミスです、これでも。 機会があったらまた書けたらなーとか思ってます。 それでは、ここまで読んでいただき有難うございました。 2006.01.22 水上 空 加筆修正:2007.01.03 |