「長次ー!」


静寂がよく似合う図書室に、大きな声とあわただしい足音が響いた。



図書室では静かに!



張り紙を無視して掛けられた声は、此処で1番恐れられている図書委員長を呼んでいる。
図書委員長の縄標の威力を知っている者は、一瞬にして身体を強張らせた。
あぁ、今日も縄標が宙を舞うのだ、と。

ビュオォ!と空を切る音を皆が覚悟して数瞬後。
しかし、それは一向にやってこなかった。
図書委員長である中在家長次は、やってきた人物に縄標を振るうことは無かったのだ。





それもそのはず。

よくよく考えれば解る事だったのだ。

声の主は…くのたま6年、





つまりは、長次の恋人だったのだから。







〜正しい新刊本の読み方〜







「新刊入ったんだって?」


私の読みたかった本の新刊が入ったと、先刻きり丸君が教えてくれた。
貸し出しカウンターに座っていた長次に訪ねると、長次は一瞬苦い顔をした。
大声を出したことを咎められるかと思いきや、漏れたのは溜息。
何事かと思って聞けば、誰より先に伝えたかったとのこと。



気にしなくていいのに。



少し浮かない顔(表情の変化はあまり見られないけど…)で、長次は本を取り出した。


「……………これだ。」

「あれ、取っておいてくれたの?」

「あぁ。」

「うわぁ、有難う!…早速借りていって良い?」


手渡された本を軽く確認すると、それは確かに探していた本で。
私は本当に嬉しくなって、早速貸し出しカードを手に取った。

貸し出しカードに記入を済ませ、長次に手渡す。
…だが、それを長次は受け取ろうとしなかった。





「………駄目だ。」

「え、じゃぁどうしたらいー………」










どうしたらいいの、と聞く前に。

軽く腕を引っ張られて、反転して、バランスを崩した。















「…此処で読めば良い。俺も読む。」















長次の低い声が耳元で響く。
気づいた時には、私は長次の膝の上。
抱えられるような体勢で、身体は密着状態。

長次は気にも止めない様子で、私の借りたかった本を読み始めた。
片手には本を、片手には私を。
時折ページを繰る時に、長次の身体が近くなる。



こんな体勢じゃ。

こっちの心臓が持たないよ。



それに。

図書室にいる人、皆注目してる。







「あの、長次。恥ずか………」


意を決して長次に声を掛ける。
同時に身体を捻って長次の腕から逃れようとした。
すると。





「落ちる。」

「へっ!?」





一言、はっきりと言い切った長次は、再び私を抱えなおした。
何事か、と顔を上げれば、そこには心配そうな長次の顔が。










「身体を離すな。…落ちて痛いのはだ。」










緩く、優しく微笑んだ長次に、私が逆らえる術は無かった。
火照った顔を見られないようにと、下を向く。
すると、またしても優しく抱えなおされて。
逃げ場の無くなった私と、長次の身体の間に、もう空間は存在しない。



観念して長次に身体を預けると、私の頭を、長次の大きな手が1つ、撫でていった。










あぁ、この本をまともに読めるのはいつの日の事か。







***あとがきという名の1人反省会***
第2回拍手夢の長次君を加筆してみましたv

長次は無口なので、こんなに話して似非感だしまくりで
いいんだろうか…とも思いましたが、
如何せん話が進まないのでこんな形になりました。
本大好きな長次と一緒に読書vというネタは
かなり構図的に好きですv
文章が追いつかないのだけがネックです(苦笑

それでは、ここまで読んでいただき有難うございました。

2006.02.21 水上 空