「伊作。」 控えめに叩かれた障子に、小さな影が映る。 誰のものかはすぐに分かって、私は急いで障子を開ける。 今朝会ったままの姿に、笑顔が浮かんでいる。 柔らかな笑顔につられて、思わず私も微笑んだ。 〜安心する香りはなんですか〜 「……どうしたの?怪我でもした?」 「ううん。遊びに来ただけ。」 「遊びにって…吃驚するだろう?」 入り口を塞いでいた私の身体をずらして、奥へと招き入れる。 障子の外は思ったよりずっと寒かった。 座布団を余分に出して、席を勧める。 が座ったことを確認して、お茶を差し出した。 ありがとう、と手を伸ばしたと、一瞬だけ手が触れる。 「じゃぁ、会いたかったの。」 「…そう。」 そんなことを言われて、私が平常心で居られる訳がないのに。 知ってか知らずか。 はいつも真っ直ぐな目で私に告げる。 赤くなる私を捉えて、笑みを深めたところを見ると、後者なのだろう。 「消毒液の匂い…。」 「まぁ、保健室だしね。」 不意には呟いた。 の声があまりにも澄んで聞こえて。 不覚にも私は、が何を言いたいのか理解していなかった。 お茶を口に含みながら、答えを返す。 「ううん、………伊作の香りだよ?」 不意に巻きついてきたの腕。 触れるほどに近いの顔。 摺り寄せられた頬にドキドキした。 「…優しい香り、ね?」 「そうかな。」 「だって伊作の香りだもの。」 優しくない訳がないじゃない。そうでしょ? 微笑むに、私は曖昧に頷いた。 私は。 消毒液の匂いが優しいとは思わない。 私の香りだと言うなら、尚更だ。 「私は、の香りの方が好きだよ。」 「嘘だぁ。」 「のは…甘くて…優しい香りだね。」 「…ありがと。」 優しく笑って、を引き寄せる。 引き寄せ甲斐がある距離ではなかったけれど。 包み込むように少し開いた距離を埋めた。 私は、の香りが好きだよ。 もう手放したくないと思えるほど。 消毒液の香りとは、比べ物にならないほど。 甘く、優しい。 が、好きだよ。 「「好きだよ。」」 互いにハモった声。 考えていることは同じ事。 重なった視線を閉じて、口付けをかわした。 互いに、安心する香りに包まれながら。 ***あとがきという名の1人反省会*** 保健室や病院の匂いが好きです。 と言うことで、伊作君を書いてみました。 安心する香りは人それぞれ違うと思います。 …好きな人の香りに癒されるって言うのは また特別なんですよね。(ほのぼの 貴女の、安心する香りはなんですか? それでは、ここまで読んでいただき有難うございました。 2006.01.06 水上 空 |