今日私は、図書館で絵本を読んできました。
長次先輩がお勧めだと言うその絵本は、とても楽しかったです。

でも、その中の1つに気になる事が書いてありました。

長次先輩に貸し出しを頼むだけの余裕はあったけれど。
その後はたまらず駆け出しました。

だって、それは。


「伊作せんぱーいっ!」

ちゃん?」

「先輩は、私の言う事信じてくれますか!?」

「へっ?」





今こうして、私のいきなりの訪問に驚きつつも。
汗を拭ってくれている、伊作先輩を無くさないとも限らなかったから。







〜嘘つきを信ずるもの〜







「…で、これを読んで不安になったの?」

「そうです。」

「私が、可愛い後輩の言う事を信じないと思う?」

「思わないですけどー…。」


事の説明をし終えると、先輩はいつもみたいに優しく笑ってた。
私はと言えば、絵本と伊作先輩を交互に覗き込んで。
伊作先輩の目線とかち合えば、どうしようもなく居心地が悪くて。





でも、張り裂けそうなくらいドキドキしてた。





目線を逸らす事もできない私に、伊作先輩は笑みを深める。
私の次の一言を待ってるんだ。
首を傾げて、時折少しだけ絵本に目線を戻す。


慌てて、私も。





「あ、えと、ほら此処見てください!」


絵本の、気になっていた箇所を指差す。
伊作先輩の目線も釣られて下がる。

今まで見つめ合っていた、その事実より。
今、伊作先輩の視線が私の指に注がれている事で。
私の鼓動は五月蝿いくらいに鳴り響いていた。


血管の収縮の音が聞こえる。



それが、伊作先輩の声が聞こえなかったからって気付いたのは、もう少し後。















「嘘つきが本当の事を言っても、信じるものは誰も居ない………。」










数拍置いて、伊作先輩は私の示した文章を朗読する。
伊作先輩は、人の気持ちを察するのが上手。
これだけでも充分伝わってしまうかもしれない。


「これが?」

「え?」


そう思っていたのに、伊作先輩はまた首を捻った。
私の声が上ずるのも当然かなぁ。
必要以上に人の気持ちを察する人が、こんな時鈍感なんて信じられない。
目を丸くする私に、伊作先輩は眉を寄せる。





「だって、先輩教えてくれたじゃないですか。」

「うん?」





制服を握ったら、小さく皺がよった。
少しだけ、先輩の近くに寄って。
視線は、上げることができなかったし。
もしかしたら、声だって震えてしまったかもしれないけれど。










「忍者は、時には嘘をついてでも任務を全うするんだって。」

「…あぁ、………それで。」










それでも、伝えなければいけない事はちゃんと言えた。
怖いけれど、この先の伊作先輩の言葉が。
それでも、先輩が信じてくれたら、いいなって。
少しだけでも可能性があるなら、賭けてみたいなって。



私、伊作先輩を信じてるもの。










「心配しないで。」

「………伊作先輩?…なんで笑ってるんですか?」

「…ちゃんは、私が嘘をつくと思う?」


クスクスと、小さいながらに声を隠す事もせず。
その上涙まで浮かべて、伊作先輩は笑っていた。
私の眉が下がったのと同時に、それはすぐ止まったけど。





残ったのは、いつもと同じ顔で笑う伊作先輩。


優しく、問いかけられる声。





「思いません。」

「それはどうして?」

「私が、そう信じてるから。」

「じゃぁ、私の言葉を信じてくれるね?」



私を、落ち着かせる声音も、髪を梳く優しい指も。















「私は、純粋で可愛いちゃんを疑う事なんてないよ。」










「誰が疑っても、私だけは信じてるから。」















望んでいた答えすらも、寸分狂いなく。


私の大好きな伊作先輩。


衝動に駆られて、抱きついてしまったのは。
きっと伊作先輩のせい。


「伊作先輩。」

「え?」

「これから私が言う事、信じてくれますか。」

「勿論。」



私からの抱擁を振り払う事もなく。
かといって、その優しい腕で私を包む訳でもなく。
私の、次の言葉を待ってる、伊作先輩のせい。











「すきです。」










私は、信じてる。










「先輩が、大好きです。」










忍者の仕事が嘘をつく事があろうとも。
伊作先輩は、私を騙したりしないって。

伊作先輩は私を嫌ったりしないって。

だってほら。

回された腕は、こんなに暖かくて、優しいんだよ?

それ以外に、何を信じれば良いんですか?





抱き合う私と伊作先輩の傍らに、図書館の本が転がってる。

閉じていた表紙は、風で簡単に捲れた。

風が止んで、開いたページ。







―羊飼いの少年とオオカミ―







***あとがきという名の1人反省会***
伊作書くの久しぶりですね!って言うか…。
まともに更新すらしてないっていうオチですか(汗
家の中でイソップ童話の本を見つけたので懐かしく
読んでいたはずが…何故かこんな事に。
オチの見える展開かつ文章おかしくてすみません。
それもきっと伊作の不運のせいってことで(ォィ

それでは、ここまで読んでいただき有難うございました。

2006.05.07 水上 空