自主鍛錬を行っていたと言う小平太は、あちこちに怪我をこしらえて帰ってきた。
擦り傷、切り傷、打撲。
数え切れないほどにたくさん。


「どうしてこう心配ばっかりかけるのよ。」

「あはは、ごめーん。」


いつもの口調でニコニコと笑う小平太の顔。
痛いのは嫌だと、前から言っていたのに。
傷に薬が染みているだろうに、その笑顔は変わらぬまま。
こっちがどれだけ心配してるのか、なんてきっと気付いてないんだろうな。
無邪気な笑顔がどうしようもなく私を不安にさせる。







〜君の心が奪えるなら〜







「小平太?」

「何、ー?」

「反省する気あるの?」

「ない…かな?」

「痛いの嫌だって言ってたじゃない。」

「まぁ、…そうだけど…私は一流の忍者になりたいんだ。」

「仕方ない、で済まさないで。」



予想通りの答え。
知っていたはずなのに、胸の奥が痛んだ。

自主鍛錬のたび、野外訓練のたび。

優秀なはずなのに、小平太は怪我をしてくる。
理由は、今まで教えてくれた事がないけれど。
問い詰めたら問い詰めたで、どうせ気付かなかったとか言うんだろう。
普段抜けてるところもあるくせに、こういう時だけ頭を働かすんだから。





小平太が怪我をして帰ってくるたび。
これが、本当の任務だったらどうなるんだろうって。
小平太の腕を信頼してない訳ではないけど。
本番に強い奴だって、知っているけれど。





ぎゅ、下唇を噛んだ私に、ずしりと重さが加わった。





「…今度は、心配どころか怪我の手当てもさせないつもり?」

「違うけど。」


前のめりになった視界からは小平太は消えていた。
否、小平太の髪だけが見える。

首筋に掛かる吐息が、私が小平太に抱きしめられている事実を伝える。





あったかい息。

鉄の匂いが、少しだけ。

薬液の匂いと、同時に届く。





「でも、が心配してくれるなら、それも悪くないかなーって。」



小さい声。
消えちゃいそうなくらい。
それに反して、腕にこもる力は強くて。
あぁ、これはやっぱり小平太なんだなって。



「心配してくれて嬉しい。………大好き。」





そんなことを考えながら、漏らすことなく、私は聞いた。
初めて聞いた、小平太の小さな、震えたような声音。
私はこれからもずっと忘れたりはしない。



少しだけ離れた時、見えた。



小平太の、真っ赤に染まったはにかんだ笑顔も。

小平太の傍で、これからも手当てできる事実と。

心配しても、怒鳴っても良い。

そんな、丁度良い位置で。

私は、そこに居て良いんだって。

何より、小平太の笑顔が証明していて。



手当てが終わってから、私達はもう一度緩く抱き合った。










君の心が奪える位置に居れるなら、それで良い。

多分、2人とも、そんなことを想っていた。







***あとがきという名の1人反省会***
大分前の拍手より持ってきた小平太夢です。
随分長らく放置してました、すみません(汗

相手の気持ちを自分だけに向けていたい。
そんなことを想う事ってあるんじゃないかなぁ。
そう想って書きました。でも自傷行為は勧めません!
絶対しちゃ駄目ですよー!(叫

それでは、ここまで読んでいただきありがとうございました。

加筆修正 2007.04.22 水上 空