体育委員会の今日の活動内容は、今度行われるマラソン大会のための マラソンコースを下見しておくこと、ということで。 まぁ、要はいつもと同じ、体育委員会の活動、です。 いつもと同じように皆嫌々って感じで走ってて、 そんなことお構いなしに小平太先輩は笑ってて。 三之助先輩を滝夜叉丸先輩が縄で引っ張っては罵声を飛ばし、 しろちゃんと金吾君は私のちょっと前を、苦しそうにしながらも走ってる。 負けてられない、頑張らなきゃ!って私も地面を蹴ってたんだけれど。 今日は実技の授業があったからなのかなぁ。 さっきから何だか足がだるくてしょうがない。 ふらつく、って言うほどふらつくわけじゃない。 走れない、もう駄目って訳でもない。でもだるい。 なんか、やな感じだなぁ、って思いながら、 置いていかれないようにだけ気をつけて、みんなの後を追う。 小平太先輩は、はるか向こうでもう見えないけれど、きっと。 折り返し地点で、きらきらの笑顔で迎えてくれるんだろう。 それを思うと、頑張ろう、って気力が満ちてくるから、ふしぎ。 〜消毒しましょ?〜 折り返し地点で、ちょっとだけ休憩。 予想通り、小平太先輩はみんなをきらきらの笑顔で迎えてくれた。 早く走り出したくてうずうずしているみたいで、せわしなく足踏みをして、 それでもみんなが息が整うまでの間はそこに居てくれた。 肩で息をしているしろちゃんや、金吾君。それから私のところに来て、 「しろべ!金吾!!!もうちょっと頑張れな!!」 と背中をバンバン叩いて励ましてくれる。 小平太先輩の励ましは、ちょっと、かなり痛いけれど、 認めてくれてるんだなぁ、って。頬が緩んでしまう。 小平太先輩の優しさが染み込んで来るようで、私はこの時間が凄く好きだ。 それから、小平太先輩のいけいけどんどーん!の掛け声を合図に、また走り出した。 直後。 ズシャァ、なのか、ズガガァ、なのか。 とにかくよく分からないけれど物凄く悲惨な音を立てて、私は見事にずっこけた。 派手な音を立てただけあって、みんなの気配がこっちに集中する。 走り出してすぐだったのに、どれだけのスピードが出ていたのか。 そう思うくらい私の膝小僧も手のひらも擦りむいて血が出ているわ、 忍装束は破れているわで、一見しただけでも私は酷い有様だった。 こんな怪我、ここ最近してなかったのに。 「大丈夫か?あぁ、泣くんじゃないぞ。」 「すっげー綺麗にこけたなぁ、」 「三之助ぇ!お前という奴は…!」 「え、何でキレてんすか。」 「感心しとらんと、心配をせんか、心配を!!」 呆然とする私に、最初に声を掛けてくれたのは、 いつも自信満々自慢大好きの滝夜叉丸先輩。 ついで三之助先輩が、変に感心した声を上げる。 滝夜叉丸先輩の顰めた眉や、掛けられた優しさのにじみ出る言葉から察するに、 物凄い怪我をしちゃったんじゃないかって、のろのろと傷口を確認して、 あぁ、これは痛いんだろうなぁと、認識した瞬間に痛みが広がってきた。 「せんぱい!大丈夫ですかぁ…!?」 「ちゃん、お顔の泥、落とすね」 金吾君が頭を撫でてくれる。痛いの、飛んでけって。 しろちゃんが、手拭いで顔についた泥を丁寧に拭ってくれる。 でも、そうされるうちに涙がどんどん溢れてきて止まらなくなって。 私はどうして良いのか自分でも良く分かってないのに声を上げて泣いてしまった。 傷も痛いけど、いたいけど。 情けなくて、どうしようもなくて。 涙が次から次へと溢れてきてしまうのを、とめられない。 「、何で泣いてる?怪我したからか?傷が痛いか?」 いつの間に戻ってきたのか、小平太先輩の声がして、 あぁ、先輩の鍛錬の邪魔になってる、って思って余計泣けてきた。 傷が痛いわけじゃないです、そう言いたいのに。 小平太先輩、迷惑かけてごめんなさい、そう言わないといけないのに。 止まらない。涙をどうやって止めていいのか分からない。 泣き止まない私を見て、小平太先輩が溜息を吐く。 今日は解散、気をつけて帰れ。って声がして、みんなの気配もだんだん消えていく。 けれど。 「大丈夫か?私もよく怪我するんだ。痛いな、怪我。」 小平太先輩の気配だけが、ずっとそこに在る。 ひょい、と無遠慮に私の顔を覆っていた腕を引っぺがして、 ゴツゴツした指で私の顔をなでつけ、涙の痕を強引に消す。 消した傍から新しく涙の筋が流れていくから、その度に小平太先輩の指が滑る。 「傷が化膿する前に、消毒すれば大丈夫だぞ。綺麗に治るしな。」 ほら、こないだ演習中に出来た傷も治ったんだ、って小平太先輩は笑う。 私は未だにしゃくりをあげていたから、声を出す事すらできなくて。 取りあえず、うんうん、と頷くことしか出来なかった。 「泣くな、泣くな。」 小平太先輩があやす様にぽんぽんっと背中を叩く。 いつもの先輩とは違う、優しい背中の叩き方。 それがきっかけだったのか、私はちゃんと泣き止む事ができて。 小さく、小さくだけど、はい、と返事が返せた。 瞬間、小平太先輩がにぱっと、笑う。 見慣れた、元気で優しい、小平太先輩の笑顔だ。 「ん、偉いな。いいこいいこ!」 盛大に頭を撫で付けられて、ちょっと首が痛いんだけれど、 小平太先輩が怒ってなくて良かったなって思えたから、黙っていた。 「あ、そうだ。」 「…何、ですか?」 「取りあえず、は歩かせない。私が負ぶって帰る。」 「えぇっ、でも…!」 「でもじゃない。私が無理させてに怪我させたから負ぶって帰る。」 「は、はい…すみません。」 小平太先輩の顔が物凄く真剣で、 本当は私が勝手に転んだだけで、小平太先輩には非があるわけないって、 そう思っていたのに、そんなことは言わせてもらえなかった。 私に向けられた逞しい背中に、近づく。 「いさっくんに早く診てもらおう。…の前に。」 手が肩に触れる、その直前に、 「…消毒、な。」 その手に小平太先輩の唇が、舌が触れていった。 ぬめり、としたその感触はただただ熱くて、 私は思考が上手く働かないまま、小平太先輩の背中に張り付いた。 近すぎる距離に、心の臓の音が伝わってしまわないかと 帰りの道のりは、そればかりが不安だった。 (傷口なめたの!?) (あぁ、ちゃんと消毒したぞ!!) (もう、小平太の馬鹿!純粋な少女になにすんの!) (痛ったぁー!!いさっくん!何で殴るの!?) (舌には雑菌が沢山居るの!化膿したらどうするの!) (えぇ!?) (あ、あの…伊作先輩…!私、大丈夫ですから…っ!) (駄目だよさん、そうやって甘やかしちゃ!) (なら綺麗に治らなかったら、責任とって私が嫁に貰う!) ((なっ…!!)) ***あとがきという名の1人反省会*** どれだけ前のか分からないくらいの拍手小平太夢。 もはやこんなのを書いてたことすら忘れてました…!(汗 拍手のときのは、台詞有ったのは滝だけでしたが、 何となくみんな入れたれ!とか思って、取りあえず全員喋らせました。 私は下級生はマジ天使と思っているらしい。後3・4年コンビ好き。 一応主人公は2年生のつもりです。 小平太にほめて貰うのが大好きな女の子を書いたつもりです。 それでは、ここまで読んでいただきありがとうございました。 加筆修正 2011.09.14 水上 空 |