寒がりの私は、冬が苦手だ。 どこかの会計委員長に言わせれば、忍者失格なのかも知れないし、 親友は、一面の銀世界なんてロマンチックだという。 私にしてみたらあんなもの。 触れれば手先はかじかむし。 冷たいだけで味もないから食べても美味しくない。 シロップでもあれば使い勝手があるのにな。 そんなわけで、雪は私にしてみたらただただ厄介なもの。 それなのに、今年も冬はやってくる。 雪も降り、案の定、積もる。 早朝から同室の親友に叩き起こされてみた景色は、一面の銀世界。 きゃぁきゃぁとはしゃぐ親友を横目に、私は1つ大きな溜息を付いた。 (勿論、ノリが悪いと叩かれたけれど) 〜かじかんだ指先が暖まるとき〜 こうなってしまえば、私はもう冬眠の支度をする他ない。 最も、冬休みまではまだまだ間があるから、 冬眠とはいえ、今日明日の休みくらいのものだけれど。 それでもこんな寒い日に、外に出る気力なんて私には残っていないから、 毎年この季節になると私は、布団の中で本を読むことにしている。 外が寒そうだから、部屋に閉じこもっている幸せを感じたいのだ。 指も耳も足も、かじかむ事を知らない部屋で、ぬくぬくと過ごしたいのだ。 だけれども。 如何せん今年は冬が早くきすぎた。 部屋の中を見渡してみても、読み終えた本が数冊転がっているだけ。 仕方ない、図書室に行くか、と袖を通した制服は、とても冷たかった。 そして。図書室からの帰り道。 腕に抱えた本は、冬眠用にと借りてきただけあって かなり重たく、早く帰りたいというのに足が進まない。 同時に手がかじかんできていて、感覚もなくなりかけていた。 角を曲がったら、そこはもう自室。 少し早足になった私の目の前に、不意に白い影が現れた。 物凄いスピードでこちらに向かってくるそれは、私の大嫌いな、 雪の塊。 「わあぁぁぁ!」 「きゃぁっ!」 …ではなく、大量の書類だった。 私の上に降り積もった、大量の書類。 そして、事務員の、小松田さん。 「あぁぁー…またやっちゃったぁー。」 いててぇ、と、のんびり起き上がった小松田さんは、 そのままの調子で辺りを見回し、書類に埋もれたままの私を見つけるや、 「あ、ちゃん。こんにちはぁ。」 と、太陽のような笑顔をこちらに向けたのだった。 「こ、んにちは。小松田さん。」 「ごめんねぇ、思いっきりぶつかっちゃって。怪我は?」 「ん、と。無いですよ?」 「そっかぁ、良かったぁ。」 書類を拾うのが先でも良さそうなのに、小松田さんは私に先に手を差し伸べた。 走ってきたのか、その手は私より暖かくて、 かじかんだ私の手に、小松田さんは驚いたみたいで、目がまん丸になった。 慌てて手を離して、落ちた書類を拾う。 小松田さんも少し遅れて、それに続いた。 「ちゃんは、今日はどうしたの?」 書類を集めて揃えては、小松田さんに渡す。 いくらかは雪の上にふわりと跳んでいってしまっていて、 私はそんな中に手を入れることを躊躇ったんだけれど。 横で必死に書類をかき集めている小松田さんを見ていたら、 この書類が滲んでしまえば、また吉野先生に怒られるんだろうなぁとか 考えてしまって、冷たいの覚悟でそれを拾った。 手渡した時に触れた小松田さんの手は、さっきよりも冷えていたはずだけれど、 それよりも冷えた私の手は、小松田さんのそれがとても暖かく感じた。 「私?私は今日は本を借りに図書館に行ってて…。」 「だから、寒いの嫌いなのに外に出てるんだねぇ。」 最後の書類を拾い終えて、小松田さんに渡すと、小松田さんは有難う、と笑った。 だから、その言葉と同じくらい、さらりと言われた言葉に反応が出来なかった。 「え?」 どうして小松田さんは、私が寒いの嫌いなのを知っているのだろう。 その考えに私がやっとでたどり着けた時には、 小松田さんはもう次の質問を私に投げかけた後。 「でも…本は?」 「本…本はさっきまで持ってて…あれ…」 きょとん、と私を見つめる小松田さん。 小松田さんに見つめられたままの私。 間にあるのは、小松田さんが持っていた書類だけで、 私が図書室から借りてきたばかりの本は… 「………ない………?」 え、あれ、どうしたんだろう、借りてきたよね、本。 重たかったし、確かに持っていたはずの本。 それがどこにも無いなんてどういうことだろう。 いやそれよりも、本を紛失したなんて、図書委員長に言ってしまったら。 あああ、どうしよう、それはそれは怖い目にあうに違いない。 そんなことを考えていたら、隣に居たはずの小松田さんの気配が動いた。 「ちょ、小松田さん!?」 「借りたのは何冊!?」 「ご、5冊…!」 「わかった!」 いつもの、ほんわかとした小松田さんはどこへ行ってしまったのか。 雪に臆することなく飛び込んでいった小松田さんは、 冷え切っているであろう手を雪の奥深くまで突っ込んで、雪を掘り始めた。 小松田さんの表情は、先程とは同じく必死なのだけれど。 今の表情には鬼気迫るものがあり、額からは汗まで滲んでいた。 そして、一つ一つ、取り出した本から雪を払っては、私に手渡してくれた。 「全部あったよ、ちゃん!」 「あ…有難う。」 最後の一冊を掘り起こして、雪の中を戻ってきた小松田さんは、 いつも通りに人懐っこい笑顔で笑っていた。 「滲んでないと良いんだけどー…」 「寒い…よね?…ごめんね、小松田さん…。」 「んー…大丈夫だよ、すぐ乾くよー?」 鼻の頭は真っ赤になっていて、事務員用の制服は雪で濡れて。 指先は、氷のように冷たくなってしまっていたけれど、 小松田さんは、全部見つかってよかったね、と笑ってくれた。 「それにほら、僕一応男だし。」 えへん、と胸を張ると、また笑って。 「大好きなちゃんが風邪引いたら困るもん。」 笑顔と言葉で、私を暖めてくれた。 暖かい、を通り越して、それはもう熱いくらいに。 白い景色の中笑う小松田さんの心はきっと、 この景色に負けないくらい、綺麗な純白なんだろう。 そう思うと、寒がりの私も、この景色が好きになれそうな気がした。 「小松田さん、お礼に部屋でお茶でも飲んでいきません?」 「本当?有難う、ちゃん!」 冬は、始まったばかりだというのに、どういうわけか 私の心は朝ほど落ち込んでいなくて。 小松田さんのお陰かなぁと思うと、また顔が熱くなる。 それを見て、小松田さんは、照れたように笑っていた。 ***あとがきという名の1人反省会*** 遅くなりまして申し訳ないですが… 明けましておめでとうございました! 今更ながらの年賀夢でございます。 お気に召した方はお持ち帰りくださいませ。 (報告頂けるとさらに喜びますv) 現在配布は終了しております。 それでは、本年も僕色曜日。を宜しくお願いいたします。 ここまで読んでいただきありがとうございました! 2008.01.12 水上 空 |