ダダダッと廊下を駆け抜けて、大きな音でくのたま長屋の一室の襖を開けた。

かなり驚いた顔でこちらを振り返った大好きな先輩に向かって、

せんぱい、せんぱい!宿題教えて!

って言ったら、先輩は、いいよ、どこが分かんないの?って。

いつもの、オレが大好きな笑顔で言ってくれたんだ。

あぁ、やっぱりちゃん先輩は可愛くて優しくてさいこうだ!







〜教えて!せんぱい!〜







襖を今度は音を立てずに閉めて、ちゃん先輩の隣に座ると、
オレの問題集を覗き込んだちゃん先輩は、どこ?と首を傾げて、
オレが質問しやすいようになのかな、またにこって笑ってくれた。

ちゃん先輩は、オレの突然の来訪(ってかもう襲撃?)にも
宿題のお手伝いにも、いつも嫌な顔1つせずに応じてくれる。

ちゃん先輩は5年生のくのたまだ。
オレより実技も勉強も良くできて、優しくって…凄く可愛いくのたま。
(最も、編入したてのオレと比べちゃ、いけないんだけど)
オレより1個年下の、可愛い可愛い先輩だ。


「これ、何て読むの?」

「これって、どういう意味なの?」

「この術、難しい?」

「どうやって覚えたら、いいのかなぁ?」


オレが聞いたことひとつひとつ、ちゃん先輩は答えを教えてくれたり、

オレが考えて問題を解けるように、ヒントを言ってくれたり、

途中で間違えそうになったら、一緒に分かるまで教えてくれるし、

問題解けたよ、って言ったら、採点もしてくれる。

あと、答えが合ってたら、頭も撫でてくれる。


何だか、どっちが年上なんだよ、って感じだけれど。
ちゃん先輩がしてくれるんなら、そんなのどうでも良いかな、って思う。


そんな風に、ちゃん先輩はいつでも優しくしてくれて、
オレはその、ちゃん先輩の優しい心遣いにずっと甘えていたくて、
いつもいつも、ほんの少しでも、ちゃん先輩と一緒に居たくて、
たくさん、たくさん質問をする。

分からないのは本当だけど、それ以上にたくさんかも知れない。

ちゃん先輩の教えてくれることはほんとうにためになって、

少しだけ、オレも賢く慣れたような気がする。嬉しい。





でも、ちゃん先輩と一緒に居ることの出来る時間を引き延ばしたくて
勉強をしたから頭がよくなる、というのは、結構現金だ。

小テストの結果が良かったから、有難うを伝えたいって、
テストが返却されたあと、すぐにちゃん先輩の下へ駆け出した。
ソレを見た綾部君に溜息を吐かれたのは、つい最近の事だ。



綾部君に言われるまで、全然気付かなかったけれど。

オレ、ちゃん先輩が、凄く好きなんだって。

先輩としてじゃなくて、女の子として、好きなんだって。



たぶん、周りが気にならない位、オレの気持ちは
もうずっとちゃん先輩に向いてたんだと思う。

綾部君に言われた時は、なんだ、そうなのかぁ、って、
純粋に納得しちゃったくらい。

目の前で笑ってくれるちゃん先輩が、可愛くて可愛くて。
好きだから、こんなに可愛いんだなぁ、って。
心の中があったかくて、思わず笑っちゃった。

勿論、綾部君には「気持ち悪いです、タカ丸さん」って言われた。
気にしないけど。………グスン。







ちゃん先輩と一緒の時間は、本当にあっという間に過ぎていってしまうから、
就寝前に訪ねてしまった今日のような日には、
オレもだけれど、ちゃん先輩もうとうとしてしまうことがある。

今日も例外じゃなくて、オレはまだ平気だったけれど
ちゃん先輩は、さっきからまぶたをこすったり、
あくびをかみ殺したりしていて、少しだけ、罪悪感を感じる。



もうちょっと、早くこればよかった、かな。



でも、そういうときにじゃなきゃ、質問できないこともある。

頭が回んないくらいじゃなきゃ、困る。

ドキドキ、心臓が動いて、顔がかぁっと熱くなる。

今から言う事、ちゃん先輩はどうやって思うだろ。







「せんぱい?………あの、あのさぁ?」

「うん?…なぁにぃ?タカ丸さん…?」

「オレ、いつも迷惑かけてばっかりで、ごめんね?」

「そんなの、気にしてないよーぉ?」

「…ありがと、ね。」

「いーえー」



眠いねぇー、と先輩が机に突っ伏した。

聞くなら、今かな。

ちょっと、遅かったかな。

いいか。

今の関係が壊れてしまわないように、最悪、夢だと思ってくれるように。

小さく深呼吸して、オレは尋ねる。



「オレさ、」



いくら、オレの顔が赤くても、先輩には見られない。
大きく息を吸い込んで、先輩の耳元で。





ちゃん先輩の事、大好きだよ。」





どきどき、する。
言葉を口にしたときよりも、その後の沈黙に。

心臓の音をごまかそうとして、先輩に、先輩の髪に触れた。
びくりと震えたのは、先輩だったのか、オレだったのか。



多分、ふたりとも、だ。



「せんぱい?…ねぇ、聞いてる?」


先輩は、狸寝入りがへただ。

真っ赤にそまった頬が、隠せてない。

そっと先輩に触れたら、先輩の頬が
オレの頬と同じくらい熱くなっていて、思わず、笑みが零れた。



ちゃん先輩は、多分今答えはくれないだろうけど。

きっと、オレと同じなんだって、思っても、良いよね?



あぁ、もう。どうしよ。

勢いよく上がった、ちゃん先輩の顔、やっぱ真っ赤だった。

思わず、抱きしめたら、折れちゃいそうなくらいで。

背中に感じた、細い腕が、どうしようもなく愛しくて。







「せんぱい、かーわいい」







***あとがきという名の1人反省会***
日記より持ってきたタカ丸夢です。
タカ丸は可愛い生き物だと、水上は信じています。
天然で、素直で可愛い生き物はきっと綾部君とか
ありえない人にツッコまれて自覚して、
そんでもって、ドストレートに告白すると良いよ!
飾らないおまいが大好きだ!って感じで書きました。
読んで下さった人がほんわかして頂けたら幸いですv

それでは、ここまで読んでいただき有難うございました。

2009.01.18 水上 空