「行け、団蔵!早くヤツをつれて来い!」

「わ、解りました――ッ!!」


会計委員会室にて。
罵声と怒声に紛れて、団蔵の涙声が響く。



「もっと予算上がるだろ!この自主鍛錬馬鹿ー!」

「…るっせー我慢しろ!この塹壕体力馬鹿が!!」



ギャァギャァと争う上級生はいつものように委員会室の中央。
もはや口喧嘩の相手以外、周りは見えていないのだろう。
そろりそろりと襖に近づいた団蔵は、一気に襖を引き開ける。





「うわー!!せんぱ―――いぃ!!」





団蔵はこの場を沈める救世主を求めて、会計委員会室を後にした。
向かう先は…静寂を好む、図書室。







会計委員の一縷の望みを託された団蔵。

団蔵の任務、それは。

図書委員会、副委員長。

くの一4年、を、この場に連れてくることだ。







〜戦場の最強忍者〜







先輩―――!!」

「きゃっ!…どうしたの!?団蔵君!!」


涙声を力の限り張り上げながら、団蔵は図書室に踏み入った。
幸いと言うべきか、図書委員長の姿は無く、団蔵に縄標が飛んでくることは無かった。
カウンターに目当ての人物を見つけ、一目散に駆け寄る。


「たたた助けてください―!このままじゃ、このままじゃ…」

「ちょ、ちょっと団蔵君?少し落ち着いて?」

「ひっ………潮江先輩と、っく…、七松先輩がぁー!!」


少々驚いたの制服に顔を埋め、団蔵は泣きじゃくる。
は団蔵の頭を撫で、ポンポンと背中を摩る。
ある程度慣れていることなのだろうか、その対応は的確で素早い。

やっとで落ち着いてきた団蔵は、事の中心人物の名前を挙げる。
と、それだけ聞いて、はその続きを理解した。





「会計委員会室で暴れてるの?」

「助けてください――…。」





団蔵の頬に流れる涙を軽く掬って、は団蔵に笑いかけた。
視線を腰と共に落として、団蔵に向き合う。


「…解った。一緒に行こう?」

「ほんと、ですか?」

「うん。だから泣き止もう?」





「………は、い。」


の言葉に素直に従った団蔵は、小さく歯を食いしばった。
嗚咽までも飲み込もうとする団蔵に、は苦笑する。

団蔵の傍を離れると、残っていた図書委員…雷蔵に暫く不在にすることを告げる。
大変だね、と告げた雷蔵に、は可愛い後輩のためですから、と返した。



泣き止んだらしい団蔵に手を差し出すと、団蔵は躊躇いながらもその手を握った。
団蔵を元気付けるように、は笑う。
大丈夫だよ、と頭を撫でて。







いざ、戦場の地へ。







1人の時とは違って、心強い。
団蔵はしっかり前を見据えて会計委員会室への道を引き返した。















「だーかーらァ!体育委員会は色んな設備が必要だーって言ってんじゃん!!」

「テメェがガンガン壊すからだろうがよ、このアホ委員長!」

「なんだよー!」

「実力行使に出てもいいんだぞ!!」

「ほーお…やってやろーじゃん!!」





と、これが会計委員会室の今の状況だった。
襖を開けずとも響く声は、長屋に移る前から聞こえていた。
そろそろ止めなくては雲行きが怪しそうだ。

…が、と団蔵はその場から動けなかった。
襖にかけた手を戻して、は溜息を付く。





「…いつにも増して酷くなってない?」

「…まだ実力行使がこれからなら…ましな方だと…。」

「そっか。…早く止めないと危なそうだけど、まだましか。」

「…先輩、ごめんなさい…。」


ショボン、とうなだれる団蔵の頭を一撫で。
団蔵が顔を上げる頃には、は既に襖に手をかけていた。





「気にしないで。行こうか、団蔵君。」





肩越しに微笑むと、小さく襖を開いた。
団蔵を背に庇いながら。















「うらっ!喰らえ馬鹿もんじー!」

「てめぇの投げたもんなんかが俺に当たると思ってんのか!」





と、そんなことにはお構い無しの中の人物達。
口だけでは飽き足らず、実力勝負となった委員会室では。





シュッ!!





「ぎゃー!!宝禄火矢なんか投げないで下さい、七松先輩―――ッ!」





凶器までもが使用され、てんやわんやの大騒ぎとなっていた。

罪の無い下級生は逃げ惑い。

大暴れする最上級生のなすがまま。





「失礼します。」





当然、の入室の挨拶などには気付かない。
投げられた宝禄火矢が運悪くのほうへと弾かれ、あと少しで当たるという時。

はその火種を簡単にクナイで断ち切った。
火種を失った宝禄火矢はの手元に。
後ろに控えた団蔵は畳の上で燻る火種を踏みつける。


その慌てた声と、恐れている爆発音がならないことで、一瞬騒動が収まった。





「わぁぁ!早く火種消さないと!!」

「団蔵!!よくを連れて帰ってきた!!」

「やっほー、田村君。」







「「(ちゃん)!?」」







争う手を休めて、、の名前の響きにつられ、文次郎と小平太は振り向いた。
…それはそれは、首がもげるんじゃないかというような勢いで。





三木ヱ門はそれを見てガッツポーズ。
傍に寄った団蔵の頭を撫で、2人を宥めろ、とに訴える。

一瞬だけ三木ヱ門に視線を合わせ、は了解した、と小さく頷いた。










そして、花のように可憐な笑みを浮かべて、問題の人物に向き直る。


「お邪魔してます。文次郎先輩に小平太先輩。」


声のトーンは数段上げて。
頬は少し染めるくらいの微笑みを浮かべることを忘れずに。
確実に、確実に戦闘ムードを排除する。



効果のほどは…言わずもがな。
弾かれたように駆け出してきた小平太に、は抱きしめられた。










ちゃん聞いて―――!!もんじーったら酷いんだよ!!」

「んだと小平太!!テメェに嘘教えんじゃねぇ!!」

「だってもんじーがまた体育委員会の予算減らすのが悪いんじゃん!」

「仕方ねぇだろ!予算がカツカツなんだよ!」


少し遅れて、文次郎が駆け寄り、を挟んでまた口喧嘩が始まる。
頭の上で繰り広げられる口喧嘩に、は閉口していたが…。
溜息を1つだけ吐き出すと、2人の制服を少し引っ張った。


「あの。」

「何だ、。」

「なになにー?」


それまでの口喧嘩はどこへやら。
に向けられる顔は両者とも笑顔。

だが、それに騙されるではない。
向けられた笑顔に負けないくらい輝かしい微笑みを携え、有無を言わさない口調で告げる。





「小平太先輩、取り合えず離れてください。」

「えー…解ったよぉ………。」

「文次郎先輩、これお探しの本です。」

「おぉ。サンキューな。。」





ぶーたれる小平太と、勝ち誇ったような文次郎。


一応口喧嘩に終止符が打たれたことに一同がほっと胸を撫で下ろした時。





「潮江先輩?七松先輩?」





ニッコリと甘い笑顔の裏に、黒いものを背負ったが。










「委員会室で何を馬鹿騒ぎしてるんですかッ!!」





…キレた。










「しかも室内で宝禄火矢なんて投げて!!火事でも起きたら大事ですよ!」

「仮にも最上級生が、居合わせた下級生まで巻き込んで何事ですか!!」

「「………す、すみません………。」」

「反省してるんですか!!」

「「………はい。」」





上級生に怒鳴り散らすに、誰もが驚いた。

恒例行事といっては恒例行事なのだが、今回はまた、一段と酷いもので。

見る見るうちに萎れていく文次郎と小平太に、皆がその圧倒的な力に溜息を吐き出した。



そして、しっかりと2人を謝らせた後。
はとどめの一言を付け足した。





「此処の片付けと会計委員会の残りの報告書及び、器物破損の始末書、お願いしますね。」

「「えっ!?」」

「他の会計委員は帰しますんで、御2人で。」

「「や、あの…(ちゃん)………?」」


それは幾らなんでも、と食い下がる2人に、はニッコリ微笑んだ。
刹那。
2人の動作がピタリと止まる。
は2人に近づくと、これまた極上の笑みを乗せて話しかける。










「報告書と始末書、お願いしますね?文次郎先輩v」

「すぐにやる。」

「片付け、先輩の力ならすぐですよね?小平太先輩v」

「もっちろん!」










2人から断りの言葉が出る訳がなかった。










「じゃぁ、はい。田村君達はお疲れ様ー。」

「ん。サンキュ、。」

「いーえ。」


三木ヱ門の礼に軽く答えて、は視線を逸らした。
逸らした視線の先には、団蔵が。
慌てて頭を下げて礼を言う団蔵の腕を軽く捕らえた。


「で、団蔵君は一緒に保健室ね。」

「え、でも………。」

「火傷。してるんでしょ?行くよ?」

「………はい。」


そのまま、会計委員会室を後にする。










「火種消してくれて有難う、団蔵君。」


保健室までの廊下を歩きながら、が言う。





からの有難うの言葉を、団蔵は大切に心に刻んだ。







そしてふと思う。

会計委員会は戦場のようだ。

そして、そこで最強の忍者は。

きっと、優しく、強い………先輩なのだと。



眩しい背中を今は独り占めに。

手の痛みも忘れて、団蔵は微笑んだ。







***あとがきという名の1人反省会***
ついノリで書いてしまいましたー(笑
書いてみたかった会計委員会ネタです。
逆ハーと見せかけて、オチが無かったり。
あぁ。団蔵ですかね、可愛いから(ぇ

取り合えずこの続き(?)、まだ何か増える予定です。

それでは、ここまで読んでいただき有難うございました。

2006.02.02 水上 空