会計委員会からの予算発表の日は今日だ。
閉館時間も近づいた今、渡りを走る小さな足音が俺に届く。


「長次先輩っ!」

「………。」


読んでいた本からちらりと目線を上げると、そこには待っていた人物が。



図書委員会の副委員長にして、会計係の

いつも明るい笑顔の、凛とした性格の持ち主だ。







〜戦場の最強忍者―長次の胸の内―〜







貸し出しカウンターに座る俺に近づくと、隣に腰掛ける。
告げに来たことは予算の事だろうが、如何せん図書館は閉館前で人気が少ない。
が嬉しそうに頬を染める姿はとても可愛らしく。
頬が緩むのを必死で抑えて、少し身体をずらす。

まぁ、どれだけ理性をきかせても所詮俺は男だ。
間違いがあっては困る。





「今回も前より予算上がったんですよーv」


俺が身体をずらしたことには気にも留めなかった様子で。
は嬉しそうに会計予算書を掲げた。
そこには本当に微々ではあるが、前回より増えた予算が書かれていた。


「ね?」


俺の肩越しに用紙を覗き込むの姿が目に映る。
その表情は無邪気そのもので。
皆が怯える笑顔だけは出さぬよう、極力感情を殺して話しかける。










「………頑張ったな、。」

「え、でも私何もしてないですよ〜?」


自分のしていることに…というか。
自分に想いを寄せる者が居ることすら気付いていない
ブンブンと大仰に手を振り、否定を繰り返す。
自身の行いで予算が増えているなどと…そんな考えには至らないようだ。



そして、文次郎がに甘いのを知って、図書委員会の会計係に任命したことも。



罪悪感を感じていないと言えば嘘になる。
そして、今は少し後悔もしているのだ。







自分の想いに気付いてからは。







「………褒美は何が良い。」

「え、え。でも…。」

「言え。」


しどろもどろになるの頭を軽く撫でる。
真っ直ぐの目を見据えて、返答を待つ。





俺が出来ることなら、何でもしてやりたい。

には笑顔で居て欲しい。





数分悩んだ末に、は答えた。
悩む姿を見るのも楽しかったが…おずおずと話しかける姿も面白いものだ。
俺の動きに合わせて、時折ビクッと肩が揺れる。


「…えと…、じゃぁ仕入れて欲しい本があるんですけど…。」

「………そうか。」

「本当にいいんですか?」

「当たり前だ。」

「後でお金払えとか言いませんよね?」

「………あぁ。」


良かった、と微笑んだは、とても可愛らしかった。

の満面の笑み。

直視できず…読みかけだった本に無理やり視線を戻す。















と。

何を思ったのか…は俺の努力を知らずに、簡単に簡単に近づいてきた。

肩のすぐ上辺りに柔らかい髪がかかる。
目線だけを少しずらして、を確認するとどうやら本が気になった様子で。


「………読むか?」

「…長次先輩。」







問いかけると。

先ほどの笑顔で近づいて来たは。

俺の膝の上にちょこんと乗ってきた。







「背もたれに先輩の胸、貸してください。」

「………好きにしろ。」

「はぁい。」















俺の心臓はバクバクと高鳴っていくけれど。
本に夢中のは、きっと気付かない。


。」

「はい〜?」

「……………何でもない。」










頼むから。

無防備な笑みはやめてくれ。

…俺の前以外では。

俺は、お前が好きだから。





頭を撫でると、は目を猫のように細めて微笑んだ。







***あとがきという名の1人反省会***
ノリで書いた戦場の最強忍者の続編?です。
今回は長次編です。

あまり本編に出てなかったけど(名前すらなかったし)
どうしてもどうしても書きたかったので…(遠い目
長次は自分で怖がられることを知ってて、
必死で笑顔を隠して、感情を押し殺してそうです。
もー何ていうかそこが良いんですよー。
でも上手く書けなかったんですよー(泣
もっと精進しますね…orz

それでは、ここまで読んでいただき有難うございました。

2006.02.02 水上 空