「「失礼します。」」 保健室の扉に問いかけてから数秒。 いつもならすぐに返答があるのに、今日は今なお返答はなし。 「…あれ…誰も居ない?」 「みたいだねぇ…。」 首を傾げて、さてどうしたものかと悩む僕。 先程火種を消した時の火傷を治療しに来てみたものの。 保健室に人が居ないのでは話にならない。 ピリピリと肌を刺すような痛みが伝わる。 顔を顰めた僕の背を、先輩は軽く押した。 見上げると、先輩は既に戸に手を掛けていて。 保健室の中に入ると、僕の大好きな笑顔を見せてくれた。 「ま、いっか。私が手当てしてあげる。」 「え、先輩がですか?」 「…あー…不安、かな?」 「いえ、そんなそんな!」 「出来るだけ痛くないようにするからね。」 先輩が、手当てをしてくれる。 そんな事が起こるなんて思っていなかったから。 僕の頭は大パニックもいいところ。 ただただ驚いただけの言葉で、先輩を傷つけてはいけないと思って。 顔も手もブンブンと振って否定すれば、先輩は苦笑した。 「さ、左足と右手。出して。」 結構しみる消毒薬と(前に乱太郎が言っていた)、包帯を1巻持って。 促された通りに腰を下ろすと、先輩は早速手当てを開始した。 〜戦場の最強忍者―笑顔と団蔵と恋心―〜 「先輩。」 「ん?」 先輩の手当ては、とても素早くて適切だった。 しみるかもしれない、と言っていたのに。 傷口は全然痛くなかった。 くるくると巻かれていく包帯を見ながら、僕は先輩に声を掛けた。 「え、と。あのその………」 「やっぱり痛かった?ごめんね?」 「全然!痛くなんて無いです!先輩、手当てお上手です!」 「…良かった。」 先輩が、心配そうな顔をするから、僕はまた慌てて頭を振る。 本当の事を言っただけなのに、顔が染まるのは、きっと相手が先輩だから。 ほっと、安堵の息を吐いて、先輩は微笑む。 いつまでも、いつまでも。 その笑顔に見惚れて居たいんだけれど。 それ以上に聞きたいことがあって。 1つ息を吸い込んで、纏まらない言葉を必死に繋げる。 「ぼ、僕が言いたいのは、そうじゃなくて…。」 「うん?」 「あの、先輩。」 「…ゆっくりで良いよ?」 僕の言葉が纏まっていないことに気付いていたのか。 先輩は、手当ての手を休めて、僕の頭をゆっくり撫でた。 「ちゃんと聞いてるから。」 僕の好きな笑顔を1つ残して、また手当てに戻る。 どうやらいつの間にか足の手当ては終わっていたらしく。 言われるままに手を差し出せば、先輩の温もりが僕に伝わって。 指の先から、心音が聞こえるんじゃないかと焦った。 だから、出来る限りいつも通りの声を出すようにして。 ゆっくりゆっくり、言葉を紡ぐ。 僕の言葉に、しっかりと耳を傾けてくれる、先輩に。 「あの、どうして僕が火傷してるって、気付いたんですか?」 「どうして、って?」 「だって、あの時。凄い周りも五月蝿くて。」 確かにあの時、僕は火種を消していたんだけれど。 バンバンと大きな音を立てて消したのも、事実なんだけれど。 「先輩だって、潮江先輩や七松先輩に意識集中してたのに…。」 先輩は、一度も後ろを振り返ることも無かったし。 潮江先輩も、七松先輩も…ううん、他の誰もが。 僕が、火傷している事にも気付いていなかったし。 それなのに、先輩はきっちりと。 僕が、火傷している事に気付いて。 しかも、左足と右手、ってちゃんと分かったんですか。 「だから、だから………」 自惚れでもこの際良いです。 あの時、先輩だけは僕の事を考えていてくれたって。 僕の事も、見落とさずに見ていてくれたって。 少しは、僕にも。 望みがある、って。 思ってしまっても………良いですか? 気持ちが高まりすぎて、あと少しで泣きそうな時。 「はい、終わり。」 「え…あ、有難うございます。」 ぽん、と巻き終わった包帯を軽く叩いて。 先輩は僕を現実へと戻してくれた。 そのまま立ち上がると、消毒液と包帯を備品入れへと返しに行く。 先輩が巻いてくれた包帯は、きつ過ぎもせず、緩すぎもせず。 僕の身体に1番良い巻き方で。 少し動いたところでもう痛みなんて感じなかった。 使用者名簿に名前を書き込もうとすると、筆は先輩に取り上げられた。 先輩の手が、サラサラと僕の名前を書き込んでいく。 綺麗な、字だった。 「ちゃんとね、聞こえてたんだよ。」 「え?」 見上げると、先輩は笑っていた。 大好きな笑顔とは違う、ちょっと淋しそうな、辛そうな笑い方。 なんだろう、と首を傾げたところで分からないので、慌てて聞き返す。 「団蔵君がね、頑張って火種消してたのも。」 保健室を出て行く先輩の後を、ゆっくり追う。 「足で踏みつけて、それだけで消えずに…手も使って、一生懸命だったのも。」 歩き方も、手の使い方も。 ちゃんと見てれば、いつもの僕と全然違うんだって。 先輩は言ってくれた。 「怪我、させちゃって…護れなくて、ごめんね。」 振り返った先輩が、手を差し出してくれた。 僕は、怪我なんて気にせず先輩の手をぎゅぅっと握る。 「…良いんです。」 離れないように、ぎゅぅっと、強く。 「先輩のお手伝いが出来て、僕は嬉しかったから。」 今出来る最大限の笑顔で、今の気持ちを隠さず告げる。 きっと、それで先輩は笑ってくれると思う。 「優しいね、団蔵君。」 「先輩のほうが、ずっとずっと優しいです。」 僕は、僕のままで、先輩を笑わせてあげれば良いんだ。 「先輩。」 「何、団蔵君?」 「また、僕が困ったら、助けてくださいね。」 「…団蔵君の頼みじゃ、聞かないわけにはいかないなぁ。」 僕の大好きな笑顔で、先輩を笑わせてあげれば良いんだ。 先輩。 大好きです。 いつか、僕がこの気持ちを伝えられる日まで。 どうか僕の大好きな笑顔で笑っていてください。 先輩が笑えなくなったら、そのときは。 僕が、絶対絶対、先輩を笑わせてあげます。 ***あとがきという名の1人反省会*** 戦場の最強忍者の続編!団蔵夢をお届けですv 水上は可愛い団蔵が愛しくてたまりません。 今回は団蔵が、自分の事を知らないうちに 他の人と比べて落ち込んでるんだけど、主人公が ちゃんと見ていてくれたんだ、ってことを書きたかったんです。 人間、気に掛けてくれる人が居るって嬉しいことですからね。 団蔵の可愛い恋心、汲み取っていただけると幸いです。 それでは、ここまで読んでいただき有難うございました。 2006.02.26 水上 空 |