会計委員会室が戦場と化した日。



天気、晴れ。会計委員会室のみ、嵐。
理由はまぁ、いつもの事なので省略する。





「団蔵!!よくを連れて帰ってきた!!」

「やっほー、田村君。」





騒ぎが起こった時、俺はいつもコイツを呼びに行かせる。
可愛いものにめっぽう弱くて、責任感もそれなりにあって。
潮江先輩と七松先輩の大乱闘にも全く動じない奴。



それが、

取りあえず俺の幼馴染。



そんでもって、潮江先輩と七松先輩の想い人、らしい。
まぁ、見てる限りでは団蔵も。
別に可愛くない訳じゃないけど、人気がそれほど高いとも思ってなかった。
けど、それは完璧に俺の思い違いだったらしい。





「じゃぁ、はい。田村君達はお疲れ様ー。」

「ん。サンキュ、。」

「いーえ。」





大惨事を毎度の如く、笑顔だけで乗り切って。
俺らの危機を的確に回避していくは、人気が高い。
…現に今だって。

俺を名指しで呼びやがるから、先輩達の視線が痛い。
全く、俺にとっては面倒な幼馴染だ。
と団蔵が部屋から消えてすぐ、追われるように部屋を後にした。

最上級生からの攻撃も、痛い視線も御免だ。
今度から名前で呼ぶのも控えるとしよう。





飛んできたクナイを避けながら、俺はそう心に決めた。







〜戦場の最強忍者―三木ヱ門のお天気日記―〜







事の翌日。曇り。



騒動が収まって、気分は悪くない。
本当ならきつい委員会活動が待っていたはずだが、それもなく良く眠れた。
体調的にも、申し分のない日であることに間違いはない…ないのだが。
………何だか朝から蒸し暑い。



冷たい井戸の水で顔を洗うと、幾分汗が引いたようで。
水で冷やされた頬を風が掠めるのが気持ち良かった。





今日は休みだ。

春子と鹿子の手入れでもしていよう。





つやつやと輝く春子と鹿子の様を想像して、口元が緩んだ。
気分が重い日だからこそ、自分の好きな事に没頭する。
そうしていれば、そのうち気分も晴れてくるものだ。

と、長屋までの道を引き返そうとすると。










「あ、田村君。」










底抜けに明るい声が俺を呼んだ。
振り返れば、声にも負けないほどの明るい笑顔とかち合う。


「あぁ、何だか。」

「む、何か用なの?」

「お前から声かけてきたんだろ。」


予想通り、と言うか、何と言うか。
昨日の騒動の最中とは打って変わって、はどこか抜けた返事を返す。
何か用って何だよ。
普通は声をかけたほうが用事があるんだろうが。


「挨拶は基本でしょ。人として。」

「挨拶なんてしてないだろ、は。」

「…おはよう。」

「うん、おはよう。」


溜息混じりに返せば、まぁ、あからさまにぶーたれた顔をする。



本当、昨日とは別人だ。ある意味詐欺だ。

こんなの見て、こいつのことを好きになるやつの気が知れない。

まぁ、素直で良い奴だって事は認めるけれど。















ゆっくり歩き出せば、も一緒について来て。
どうやら暇をしているのだと検討をつけた俺は、適当に話題を振る。
最初に口にするのは、取りあえず昨日の騒動の事。


「昨日は助かった、有難う。」

「いつもの事なのに律儀だね。」

「いつもの事だから、の間違いだと思うぞ。」

「気にしてないのに。」

「気にするんだ、こっちは。」


お礼の言葉位、素直に受け取れば良いのに。
ニコニコと笑って、は首を振る。
変わった事は何一つしてないし、だとさ。



ほんと、どこまで分かってるんだか。





潮江先輩や、七松先輩や、団蔵の気持ちも。



それを知っていて、騒動を止めるためにお前を仕向けた俺の事も。





長年幼馴染やってても、こいつの笑顔からは何も分からない。
きっと裏表なんてない、真っ直ぐな笑顔。
それでも、きっと俺なら何かが読み取れるような気がして。
俺よりほんの少し低いに自分の目線を合わせる。

きっと、読み取れる気がして。
の考えは、俺が1番。





ほら、アレだ………幼馴染だしッ………!





「もしかして田村君が指名してくれた?」










え。










「………何で。」

「いや、田村君のご指名、断る訳にもいかないでしょ。」

「他のヤツでも助けるんじゃないのか?」





俺の指名なんて、何で知ってるんだ。

団蔵が言った…訳でもないだろうし。



とにかく、微妙に勘が良い、のか。



いや、それより何を言ってるんだ、俺。
何か、今のって。
少しだけだけど、ムカッとしたし。
何だ、その。
言った言葉も思い返してみれば。





「まぁ、そうかもだけどさ。」


は振り返った。
照れたような、とも違う。
まっすぐで、素直なものともまた違う。
二ヒヒ、と悪戯な笑みを浮かべて。










「大切な幼馴染だしね。」





「幼馴染、ねぇ…。」










自分で幼馴染という言葉を今まで使っておきながら。
どうして今更。
この言葉はこんなに重いのか。





「だって、小さいときから一緒でしょ?」

「確かに。」

「1番長く一緒に居るしさぁ。そういうのを幼馴染って言うんでしょ?」

「…まぁな。」





幼馴染。
今は、その言葉が妙に心に重い。

よって、足取りも重い。
いつの間にか数歩先をが歩く。

遅れていることに気づくまでにかなりの時間がかかったようだ。
前を見やれば、不思議そうに首を捻るが居る。


「どうしたの?」

「いや、何でもない。の気にすることじゃない。」


は悪くない、それだけは確かなのに。
何となくに近づきにくい。
動悸が激しい。



それだけ………だよな?



あれ、でもそれって…なんか。
さっきのことと合せて考えると………。





ぐるぐる渦巻く思考の波に飲み込まれていく俺を、は一瞬で引き戻す。
大きな声で言われたわけではないのに、耳はしっかりとの言葉を拾って。


「それにしても、まだ私の事名前で呼んでくれてるんだね。」

「なっ…」

「私も今度から三木ヱ門って呼ぼうっと。」





久方ぶりに呼ばれた名前を聞けば、顔が瞬時に火照るし。
の笑顔とかち合えば、どうしようもなく居心地が悪くて。





「お…っ前なんて今日からだっ!」

「あはは、三木ヱ門が怒ったー。」

「五月蝿い!もう知らんッ!」

「ごめんってー。」

「五月蝿いぞ!ッ!」










口から出るのは、反発を多く含んだ言葉なのだけれど。
の横を素通りして、ずかずかと歩を進めてみても。


俺の後をちゃんとついてくる。

そんなの行動が、どうしようもなく嬉しくて。


余計に頬が染まったが、そんな顔を見せるわけにもいかず。
顔を覗き込まれないように早足で歩き続けた。















今日の天気、訂正。
俺の心だけ曇りのち晴れ。

ただ、好敵手が多いのが吉と出るわけがないので。

最終的には、やっぱり雨。





まぁ、なるようになるさ。





恋というのは、天気同様。

本人の自覚が遅かろうと何だろうと。

結果は移ろいやすいものだから。

取りあえず今日の予定は、を誘って出かける、に変更だ。







***あとがきという名の1人反省会***
ポグアアァァァ!何ヶ月も間が空いてるー!(吐血
…しかもメインキャラと銘打った文次郎でも小平太でもない
とくれば…ホント、駄目管理人!もう私アホ!
しかも田村が微妙においしいとこ取りだ!
いつの間にかデートっぽい流れが出来上がってる。何で?
自覚したのが一番遅いのに、何で?
あ、書きたかったのは
「名前を呼ぶのを控えると決めたのに、できない田村」でした。
関係ないけど田村をミッキーと呼びたくなるのは私だけですか?

それでは、ここまで読んでいただき有難うございました。

2006.05.23 水上 空