薄暗い部屋で、仙蔵に押し倒された。
これから何をするかなんて、容易に分かる。
夜着を肌蹴させる仙蔵の手のひらは、少し冷たい。

「ねぇ、仙蔵は、私の事、好き?」

「うん?」

「嫌い?」


押し倒された状態で、仙蔵の顔を見上げてみるのだけれど、
視界が未だにこの部屋の暗さに慣れていないせいなのか、
それとも月明かりが出ていない夜だからなのか、
仙蔵の顔は、私からは見えない。

声の抑揚がなくなったから、面白くないとは思っているのかも。







〜A2.無味〜







、今日は特別おかしなことを聞くんだな?」

「別に…おかしくなんてない。」

「この私が、好きでもない奴に夜這いをかけると思ってるのか?」


愚問だな、そんなもの。
暗がりの中で、仙蔵がころころと笑う。

身体を起こした仙蔵の後を追う形で、私も身体を起こす。
仙蔵と少しだけ、距離をとる。
肌蹴た夜着をもう一度しっかりとあわせてから、仙蔵に背を向けた。
言いづらい事を言うのだ、暗がりだろうと、目を合わせてなど言えなかった。


「仙蔵は、するでしょ。誰とでも。」

「これは、手痛いな。」

「忍として生きる者だから。」

「………そうだな。、それでは嫌か?」





抱きすくめられた身体。
耳に掛かる、暖かい吐息。
近くに、遠くに、感じる仙蔵の心音。
触れている背中だけ、仙蔵の体温で温かい。

首筋に1枚、2枚、花びらが散る。

その痛みが、何故かいつも以上に痛くて。
あぁ、これは心の痛みなのだ、と気付くより先に口が動く。





「身体だけ、求められるのは嫌なのよ。」


仙蔵は、ふらりと現れて、私を抱く。
何度も私の名前を呼ぶけれど、私の首筋に花を散らすけれど。
仙蔵が私を好きだといったこともなければ。


「口付けもした事ないわ。」


だから聞いた。
仙蔵に気がないなら、私を抱かないで欲しくて。
都合の良い抱き人形として、扱われたくなくて。


「だから、聞いたの。」


仙蔵は、私の言葉に反論する事もしないで、黙って聞いてた。
心音も変わらなければ、回された腕にも、変化はなかった。
ねぇ、仙蔵。
何とか言ってよ。





「私の事、好き?」





仙蔵の、手が、身体が、離れた。
気配が、遠ざかる。
耐え切れずに振り向けば、やっとで夜に慣れた瞳が仙蔵を捉える。





「私は、…任務なら、確かに女を抱かねばならない時もある。」





仙蔵は、真剣な目をしてた。

あまりに真剣な、その表情に、私はその場に縫いとめられる。





「それでも、帰る場所は、…お前だと決めているよ。」





それだけ、ポツリと呟いて、仙蔵は夜に消えた。



駄目か、と聞かなかったのは、仙蔵だから。
ふわりと唇が触れたのは、私がそう望んだからで。

その後すぐに部屋から出ていったのは、仙蔵の優しさ。





仙蔵との始めての口付けは、音も味もしなかった。

けれど、自惚れても良いくらい。
私を好いてくれている、それだけは伝わってきた。

そんな、特別な口付けだった。


仙蔵が後にした私の部屋は、しんとしていて。
仙蔵の好きな香の香りだけが、私の部屋を包んでいた。







***あとがきという名の1人反省会***
拍手から下げてきました、仙蔵様の良く分からない夢。
キスの味を5つくらいシリーズ感覚で上げれたら良いね、
と思って書いてました。

本当に口付けた時って、味なんてあんまりしないかと。
あ、その前に何か食べてたらその味がするんでしょうけど…
仙蔵さんって、基本そんなことなさそうなんで。無味、ってことで。

それでは、ここまで読んでいただき有難うございました。

加筆修正 2008.08.09 水上 空