「庄ちゃーん!」

?」


僕が振り向く前に、背中にドンと掛かる、軽い体重。
むしろ、振り向かなくったって分かる。

部屋の襖を元気良く開けるのだっていつもどおりだし。
僕の首にぎゅぅっと腕を回して、ニコニコ微笑んでいると思う。

抱きついてくるのは遊んでほしい証拠だし。
息がちょっとあがっているのは、きっと教室から駆けて来た証拠。


「えへへぇ。遊んでーv」

「良いけど…走ってきたの?」

「うん!早く庄ちゃんに会いたかったの!」

らしいね。」


振り向いた先ではやっぱり笑ってたし。
額にはちょっと汗が浮かんでたから、もっと遠くから走ってきたのかも知れない。



けれど、今日も変わらず。
が僕に笑いかけてくれるから。
たぶん僕に1番に会いに来てくれたから。



やっぱり、頬が緩むのが男心というものでして。







〜お茶お茶新茶は、何の味?〜







「喉渇いてるでしょ?今お茶淹れるから。」

「ありがとう、庄ちゃん。」


抱きついてきてくれたを引き離すのはちょっと苦手。
に触れていられる時間は、やっぱり長いほうが良いんだもの。
それでも、少し息をあがらせてるに何か飲ませてあげたかった。

ゆるゆると、…名残惜しいんだけれど。
首に回された手を取って、を引き離す。
馴染んだお茶の葉を取るために箪笥を開ける。


「実はね、そろそろ来る頃だと思って用意してたんだ。」

「…行動ばればれ?」


あはは、と背中越しに楽しそうに笑う声が聞こえる。
ちょっと照れたような声色。
僕は、いつものお茶を取り出そうとして…違う葉に手を伸ばす。



昨日、町で買ってきたばかりの。

三河の国の原産の、新茶の葉。

そういえば、と一緒に飲もうって思って買ってきたんだっけ。





「来てくれるって思ってたって事だよ。」

「ほんとに?」

「うん。予想通りに来てくれたから、嬉しいよ?」


カタカタと規則的にお茶の用意をする僕を、いつもはニコニコ微笑んで見ている。



お茶の淹れ方に興味なんてないくせに。

じっと僕を見ていてくれることを、僕は知っている。

僕は…目では手先を見ているけれど。

ちゃんと、見ていてくれてるんだって、僕は知っている。










「はい。熱いから気をつけてね?」

「うん!」


湯飲みを手渡すと、ぱぁっと顔が明るくなって。
ご機嫌の表情に、僕もつられて笑う。





普段冷静とか言われていたって、やっぱり緊張するし。

たとえ、それが幼馴染だからって。

僕の、この気持ちが消えるわけじゃなし。

ふうふうと息を吹きかけてお茶を冷ますが可愛いのも事実で。

それどころか、全部が可愛くて、ずっと見ていたいと思うのもやっぱり本当で。





自分がに注意したはずなのに。
自分のほうが火傷しかけたのは内緒。





だって、に見とれてたなんて理由。

絶対恥ずかしくて言えないもの。










「美味しいー………。」


ほぅ、っと息を吐きながらはへらりと笑う。
お茶の温かさからなんだろう、薄桃色の頬が嬉しそうに緩む。


「本当?」

「うん。でもいつもと味がちょっと違う?かも。」


美味しいと言ってくれたことに偽りはないって知ってるけれど。
僕はやっぱりに褒めて欲しくて。
聞き返してみて、耳を疑った。



飲み終わっていたとはいえ、湯飲みを落としてしまう。
畳の上をコロン、転がっていく湯飲み。
クルクル回って、の下に伸びていく。

きょとんとした顔ではそれを拾ってくれた。
手を伸ばすと、渡される瞬間、どうしたの?の声。


「え、何、庄ちゃん。」

「あ、いや。だって、お茶とか興味ないだろ?」

「これっぽっちもない。」


指で小さく間を取りながら、は笑う。
自分も飲み終えたのか、さっき手渡してくれた湯飲みをもう一度取っていく。
片づけをしてくれるに、僕は手を貸すこともできず。



ただただ、どうして?が頭を駆ける。







だって、だって。







「お茶の葉、変えたから。だから、気づくなんて吃驚した。」

「味の違いくらいわかるよー。」


お茶の香りの差は、ほんのちょっとしか無かったはずだし。
多分は組のメンバーが飲んだって、絶対気づかない。
ただ、今日はが来てくれたのが嬉しくて、気分を変えただけで。



絶対、気づかないと思ってたのに。



お茶に興味が無いって、確かには言うし。
毎回、作法なんて僕も覚えてもらおうとか思わないし。
それでも、いつか覚えてくれると良いななんて、思ってもみたけれど。



あぁ、もうどうして?



ぐるぐるしすぎて、もうわからないよ。















「大好きな庄ちゃんの淹れてくれるお茶は全部好きだもん。」















僕の、聞き間違い?

目の錯覚?あぁ、耳も難聴なのかも。





いつの間にか傍に来ていたは、いつもどおりに笑ってる。










「………おかわり、いる?」

「じゃぁ、あと1杯飲みたい。」










挙動不審だって事は、自分でだって良くわかってるよ。

でも、嬉しそうに笑うの頬は、良く見れば。

いつもよりちょっと赤い。



頭、ぐらぐらする。
ぐるぐる、回る。の声。
聞き間違いじゃないと良い。



僕と一緒の、大好きの意味だと良い。





今度は湯飲みを取りこぼしたりしなかったけれど、手順、間違えたらしい。















「庄ちゃん…これ苦い………。」

「え、うそ。ご、ごめん!淹れなおすよ!」

「ううん。ちょっと苦いけど、美味しいしちゃんと全部飲む。」

「ごめん………。」



しゅんとうな垂れる僕に、は優しく言う。



「また今度お茶淹れてくれたら許してあげる。」



お茶は置いて。僕の隣に。

肩に頭を乗せて、満足そうに笑って。



「…そんなので、良いの?」

「うんッ!だって怒ってないし。」

「ありがとう、。」



頭巾から出てる、さらさらの髪を手で梳くと、気持ち良さそうに目を閉じた。










「でも今日は一日構ってね?」

「そんなの。毎日でも良いよ。」



僕が、のお願いを、…まぁお願いってほどでもないんだけれど。

聞かないわけが無いじゃない?

僕は、と一緒に居たいんだもの。

ドキドキ、心臓が早いのも、と一緒なら気持ち良いね。





が寝入ったのを確認してから、少し身体をずらして。
僕は冷めてしまった2杯目のお茶を飲む。
僕の膝の上。
擦り寄るが可愛くて。

大好きだよ、囁いて、苦いお茶を飲み干した。










苦く、甘い。
新茶の香りが鼻を抜けた。





きっとそれは、濃い…じゃなくて、恋の味。







***あとがきという名の1人反省会***
庄ちゃん!!冷静キングの動揺っぷりを書きたかった…。
本当、それだけです。
手馴れた手つきでお茶を入れてくれる庄ちゃんを
私が想像して悶えたからではありません。
8割くらいそうだけれど(ほぼ全てじゃん
何にせよ庄ちゃんが書けて幸せ感じてます(笑

それでは、ここまで読んでいただき有難うございました。

2006.03.26 水上 空