高嶺の花って言葉はよく耳にする。 みんながそれに惹かれるように、俺も一応男だから興味があるし、惹かれるけど。 でも、俺はそれより。 足元に咲く、君を見て居たいんだ。 勇敢な、君を―。 〜dandelion〜 ある春のはじめ。少しひんやりとした空気が気持ちいい。 部室の鍵当番である大石は朝早くから学校へと向かっていた。 朝練をする部活の中で、最も早くから活動を始める男子テニス部の鍵当番である大石は、学校一早起きであると言えるだろう。 朝早くから犬の散歩をするおばさんや、ランニングをするおじいちゃんなどとも顔見知りである。 そうして、誰かに会うたびさわやかに挨拶をする大石は密かにご近所の人気者でもあった。 川原へ差し掛かったとき、大石はふと、足を止めた。 河原一面、蒲公英が咲き乱れていた。 緑の海にふわふわと漂うように揺れる蒲公英の花。 大石にはそれが幻想的な光景に見えたのだ。 いつも見慣れている光景だが、いつ見ても美しいな、と思う。 「…あれ…?」 蒲公英の群れの中に、風とは違う動きをするものが見えた。 黄金色に靡く肩までのショートカット。青春学園の制服を着ている。 その姿に、大石は長い間見入っていた。まるで、蒲公英の海に溶け込んでいるようだった。 その瞬間、相手はこちらに気がついたらしい。こちらを振り返り、手を振っている。 大石はやっと我に返り、そちらへと歩み寄った。 近づくにつれ、顔つきが鮮明にわかるようになった。 隣のクラスの、だと気づいたのは、相手まであと数歩というところだった。 は、学校の中でも特に目立つほうだった。別に品行方正だというわけでも、成績がいいわけでもない。 目立つのはもっとほかの理由…むしろ髪の色や顔立ちだ。 顔立ちはどこか別の国の人のよう。白い肌に、透けるような黄金色の髪。 先生も手を焼く問題児として目立っていた。 進学を控えているというこの時期だからこそ、先生に目をつけられているのだが、それでも髪を黒くする気はないらしかった。 体育などの合同授業で一緒になることはあっても、話したことは今まで一度もなかった。 「…?なんでこんな朝早くにこんなところにいるんだよ?」 「何でだっていいでしょ?」 さっき手を振ったときとはえらく扱いが違う。それが彼女流なのだろう。 困惑して言葉が詰まる。それでも、疑問に思ったことを聞いてみることにした。 「制服着てこんな朝から…部活にいくのか?」 「部活なんて放課後だけだよ。美術部だからね。」 そう言って、は笑った。 「じゃぁ何で…」 「まぁいいじゃん。気にするな!ってか大石は朝練だろ?鍵開けいいの?」 の一言で今の状況を理解する。 …そうだ、部室を開けないとみんなに迷惑がかかるのだった。 「しまった…じゃ、俺学校行くよ。…はどうするんだ?」 「もうちょっとここに居るよ。大石は、朝練頑張りなよ!」 背中を軽く叩きながら明るく微笑まれた。 …大石の鼓動が少し、跳ねた… 悟られないように、微笑みを返して。大石は学校への残りの道のりを走った。 「大石ぃ、遅いよ!今日はオーストラリアン・フォーメーションの練習、倍やるっていってただろ!!」 大石が部室についたときには、すでにダブルスのパートナーである菊丸英二が来た後だった。 「ごめん、遅れた…」 「もう!何してたんだよ!」 ぷりぷり怒る英二。宥めようとしたが理由を言わない限り機嫌は直してくれないようだ。 いつもなら、ここで言い訳がてら理由を説明するのだが… 何故か今日はそういう気にはならなかった。 「なんでもないよ…悪かった。それより練習しよう、英二。」 部室の鍵を慣れた手つきで開け、着替えを済ませた大石はそれだけ口にしてコートに向かった。 「にゃ…なんか言い訳くらいしろよぉ!!大石らしくないなぁ!!」 後ろのほうから英二の怒鳴り声。 それでも、大石の頭の中には朝ののことばかりが駆け巡っていた。 考え事ばかりしていた大石の、その日の部活が散々だったことは言うまでもない。 次の日も、は蒲公英の中に座っていた。まるで、そこが自分の定位置だと言わんばかりに。 次の日も。その次の日も。 は蒲公英の中で微笑んでいた。 大石とは蒲公英の海の中、話をする。毎日、毎日。もはや日課だ。 鍵開けに遅れないよう、少し早く家を出る。 その分睡眠時間が減ったが、大石には彼女との時間のほうが大切だった。 ある日、大石は 「ずっと、気になってたんだけど。」 疑問だったことを聞いてみることにした。 「何?」 「どうして、髪黒くしないんだ?…あ…もちろん、今のほうがらしいんだけど…」 後半は、の顔が曇ったから付け足した言葉だ。 悲しい顔を、にはして欲しくなかったのだ。 それが、何を意味しているのか…大石にはとっくに分かっていた。 聞いてはいけなかったのだろうか。言葉を捜しているのだろうか。 は黙り、その場に沈黙が流れた。 「あ…いいたくなかったら別に…」 言わなくていいよ、そう続けようとしたとき。 顔を赤くして、笑うが言葉をさえぎった。 「…蒲公英、好きなんだよね。可愛くて。強くて。」 私もそうなりたいから、そう言って笑うは、本当に蒲公英のようで。 から目が逸らせなかった。 自分に笑ってくれることが単純に嬉しかった。 誰にも、の笑顔を見せたくないと…自分だけのものにしたいと思った。 「ほら、もう時間でしょ。理由も聞いたんだから朝練行きなよ。」 照れ隠しみたいにそっぽを向くと、自分を送り出そうとする。 「まだ、大丈夫だよ。」 「さっさと行けって、大石。」 「…っ!っ!」 とっさに、腕をつかんでしまった。目に飛び込んでくるのは、…の驚いた顔。 腕をつかむ俺の手を振りほどこうとはしないようだった。 「ちょっ…?大石…?」 「…学校、一緒に行こう。これからは、帰りも…一緒に帰ろう。 初めて話した日から、ほんとはずっと気になってた。じゃないと駄目なんだ。 …っ…好きだ。が、欲しい。」 気まずい、沈黙。 思っていたことを、一方的にぶつけてしまった。激しく呆れられるだろう。 は別に、俺のことなんてなんとも思ってはいないだろう。 …そして…もう笑いかけてはくれないんだろうな… 大石の頭の中は後ろ向きの気持ちばかりが膨らんでいた。 先に沈黙を破ったのは、の一言だった。 「ばーか。」 そう言って、いつも通り笑っていた。顔は、真っ赤だったけど。 「私が、嫌いなやつなんかと毎日話すかっての。」 「あ…え…っと……?」 「秀一郎!学校、行こう!」 「あ…うん。」 学校までの道のりを、手をつないで歩いた。 ほんのりと暖かいの手は小さくて、力を入れたら壊れそうだった。 ふいに、が口を開いた。真っ赤な顔に、笑顔をたたえて。 「私、猫みたいに気まぐれだからさ…」 「うん…」 「ちゃんと、いつもそばで捕まえててよねっ!秀一郎っ!」 「あぁ。猫の扱いは、英二で慣れてる。」 微笑み返すと、は耳元で囁いた。 ―ほんとは、ずっと好きだったんだよね。 蒲公英のように明るく強い君は。 今は俺の心の中に咲き乱れているから。 俺は、その花が枯れないように。 君を暖める存在でありたい。 足元に咲く、dandelion。高嶺の花より、綺麗だと思った。 ***あとがきという名の1人反省会*** えと…何も言いたくありませ…(殴 何を書きたかったか分かりません!! こんなもの読ませてしまい申し訳ないです!!(土下座 水上 空は春生まれで、蒲公英大好きなのですよ。 シンプルで何処にでも生息しているけれど、 凄く強くて、可愛い花だと思います。 お分かりかと思いますが、性格、猫みたい発言はdandelionからきています。 ほら、ライオンってネコ科じゃないですか。(安易 大石さんは面倒見が良いから、ネコみたいな主人公の、 ちょっと危なっかしいところとかに惹かれるとか…あったんですよ。(書いとけよ 私的にはラスト部分が書きたくて書いていたので内容が薄いです。すみません。 それでは、ここまで読んでいただきありがとうございました!! 2004.10.12 水上 空 |