今日の天気は、曇り。しかも午後から雨が降るらしい。 「部活も中止かもしれないな…」 教室へ向かう途中、渡り廊下で一人。 つぶやいた英二の顔は、今日の天気を表すように曇っていた。 曇り、時々、晴れ。 部活の時間。その時間こそ最近の英二にとっては最も重要な時間であった。 部活の時間と一言でいっても、青学男子テニス部には朝練と放課後の部活がある訳だが。 放課後の練習…英二はこの時間を最重要視していたのだ。 朝練などは、別に潰れても問題は、ない。まったくといっていいほど、ない。 …むしろ潰れた方が嬉しいと思っていたりする。英二は早起きが苦手なのだ。 だが、放課後の練習だけは潰れて欲しくなかった。絶対に。 その理由は…マネージャーにあったのだ。 「今日は…会えないんだろうにゃぁ…」 ため息混じりの言葉は、誰にも聞かれることなく消えていった。 「菊丸先輩、お疲れ様ですっ!」 ニコニコと、微笑みながら英二にタオルを渡す少女が一人。 英二の片思いの相手であり、二年マネージャーである…だった。 「あっ。さ〜んきゅぅ、ちゃんっ!」 明るく優しいは、英二の心を捉えて離さなかった。 …もちろん、にそんな気はさらさらないのだろうが。 誰にも平等に、優しく振舞うは、テニス部のメンバーからも可愛がられている。 マスコット的な存在で、天然っぽい性格であるからなおさらだ。 「英二…?どうかしたの?」 その言葉にはっと我に返った。 声の方向を振り返ると、そこに立っていたのは不二だった。 「あ…っと…なんでもにゃいよ?」 「結構長い間トリップしてたみたいだけどね…」 にっこり笑う不二。 きっと俺の考えてたことなんて読まれてるんだろうなぁ…とか考えていたら。 「うっ…な…なんでもない、ほんとに。」 反応が遅れてしまった。絶対今のでバレバレだ。 「そう?…どうでもいいけどそろそろ授業開始だよ。僕はいいけど英二は手塚に呼ばれてたんじゃない? 早く行かないと手塚も怒らせるし遅刻するしでいい事無いよ?」 「げっ!!」 大急ぎで教室へ駆けていった英二を見送りつつ、不二はゆっくりと歩いていく。 「知らぬは本人ばかりなり、か」 幸か不幸か、その言葉は廊下の端に消えていった英二の耳には届かなかった。 退屈な授業が進み、昼休みが近づいてくる。 先生が数学の公式を使って…とか何とか言っているが、今の英二にはどうでもいい事だった。 時間だけが、どんどん流れていく。 昼休みまであと数分…もう鐘が鳴る。そう思って伸びをしたとき。 無情にも雨が降り出した。 「駄目だ、もうやる気でにゃぃ…」 予想通り、今日の部活は雨で中止。英二は恨めしそうに黒い雲を睨む。 昼休み、大半は教室でご飯を食べているが、今日の英二はずっと机に突っ伏したままだ。 に会えないことは、必要以上に英二を打ちのめしていたのだ。 「英二…ちゃんに会えないからって不機嫌オーラ出さないでくれる?」 「うるさいやぃ!大体どうして不二にそんなこと言われなきゃなんないんだよぅ!!」 「…八つ当たりしてるのは英二のほうだろう…?そろそろ黙らないと…」 そう言って不二は極上の微笑みを浮かべた。こういうときの不二は、本当に容赦なくお仕置きをしてくる。 「すみません…もう言いません…」 自己防衛本能がとっさに働いて、謝罪する。なんとかお仕置きは回避できたようだ。 少し、間を置いて不二が、付け足した。 「英二。部室、片付けといてよ。今日の放課後どうせ暇でしょ?」 「なっ…ちょっと不二!俺にだって用事って…」 「してくれるよね?」 「…わかりました…」 英二の気持ちは、今日の天気とシンクロしてるみたいだった。雨がどんどん強くなる。 「あ〜ぁぁ。何でこんな日に部室の掃除なんてしなきゃいけないんだよぅ…」 大きなため息を押し出すと同時にドアを開ける。やっぱり、不二の笑顔には敵わないのだ。 そのとき。 「菊丸先輩?今日は部活ないのにどうしたんですか?」 後ろから、声がした。それは間違いなく英二の聞きたかった声で。 「ちゃん!?ど…どうしてここに?」 思ったよりびっくりして、声が上ずってしまった。は笑顔で話し掛けてきている。 「どうしてって…部活ない日にはいつも部室の掃除するのが習慣なんですけど…」 「(あれ。ということは不二はこのことを知ってたのか…。 まさか…はめられた…?)」 はめられたとはいうものの、今日は会えないと思っていたに会えたことは英二にとって幸せ以外の何物でもなかった。 「!そうなの!?じゃ、俺も手伝うにゃ〜!」 英二が、元気に叫んだのはごくごく当然のことだった。 片づけをはじめて1時間ほどで部室はきれいに片付いた。 いつもは片づけが苦手な英二だが、と一緒の片付けはとても楽しくて。 見る見るうちに部室はきれいになったのだ。 当然、英二はご機嫌。それも最上級のご機嫌度指数をはじき出している。 「遅くなったし、暗いから送っていくよ〜♪」 そう言うと、は嬉しそうに微笑んだ。 あぁ、やっぱり可愛いなぁなんて見惚れていると、は不思議そうな顔をしていた。 その顔がまた可愛くて。どんどん英二は笑顔になる。 部室を出ると、雨はすっかり上がっていて、辺りを包むのは、夕焼けの真っ赤な空。 ほんの少し、二人の顔が赤く染まる。 「綺麗な夕焼け…」 ぽつりとがつぶやいた。 その表情はとても綺麗で…英二の理性を飛ばすには十分すぎて… 気が付いたときには、腕の中にを閉じ込めていた。 「菊丸…先輩?」 「ちゃん…好きだよ。いっぱいいっぱい大好きだよ。」 今、顔を見られたら、恥ずかしくて死んじゃいそう…だから、耳元で。 「ちゃんが、誰を好きでも、ちゃんが好きだよ。」 英二は少しの間、気がつかなかった。が、震えていることに。 ずいぶん経って気づいたのは、が自分を抱きしめ返してくれたときだ。 「私も…英二…先輩、…大好きです…」 英二は、いつものように叫んだりはしなかった。 ただ、がいとおしくて。抱きしめる腕にそっと力を込めた。 「まったく世話が焼けるね。」 くしくも同時刻。今回のキューピッドである不二はゆっくりと微笑んだ。 明日はお礼に何をしてもらおうかな、などと考えながら。 ちゃん、ちゃん。 俺のこと、もっともっと、名前で呼んで。 俺のために、もっともっと、笑顔見せて。 俺のこと、もっともっと、好きになって。 でも、俺のほうが、もっともっと、ちゃん好きだよ。 誰にも負けないよ。絶対約束するよ。 だから、ちゃん。もっともっと、俺の事好きになって。 どっちがいっぱい好きでいられるか。 ちゃんと、俺の、競争だよ。 でもね、ちゃん。 まだまだ、当分、ううん、ずーっと。負けてなんかあーげなぃ♪ だって、俺の心はもう、快晴だかんね♪ ***あとがきという名の1人反省会*** 菊丸ドリです。しゃべり方難しいですねぇ…。 天候ネタって一度書いてみたかったネタです。 ありきたりなネタですが、不二がいい感じに出張ってくれてます。 不二が出てくるところ、とっても楽しんで書きました(笑 ていうか、菊丸との絡みが少なくてすみません…。 不二と菊丸のが絡みが多いってどうよ、自分…。 まぁ書いてしまったので敢えて直しません(ふざけるな ラストは、菊丸の語りです。 私の中の菊丸は結構可愛らしいキャラなので、語りも可愛らしくしてみました。 音符とか普段から使って違和感ない青学メンバーは菊丸だけだと思います。 可愛らしい(のかこれは?)菊丸を気に入っていただけると嬉しいです。 それでは、ここまで読んでいただきありがとうございました!! 2004.10.20 水上 空 |