。14歳の中学三年生。
青春学園、女子テニス部所属。
好きなもの、プリンにオムレツ、ハンバーグ。
好きな人、同じ学年の背の高い、あの人。
何処にでもいるような、普通の中学生。
そんな私、ただいま受難の真っ最中。
きっかけはそう、幼馴染のたった一言。
その一言は私を幸福と不幸の中間に立たせることになったのだ。
その一言っていうのは…







〜データ〜







「…は?ちょっといまいち聞き取れなかったというか…聞き間違いであってほしいというか…」
「聞き間違いじゃなくて、そういうことだよ、♪」

朝練を終えて、学内放送で幼馴染であるクソ崇之…
もとい、東崇之先生に呼び出されたのは、部活のことが大きく関連していた。
こいつ、女子テニス部の顧問だったから。



呼び出されたのは、生徒指導室。
いったい何の用なんだ?
部活では何も悪いこともしていないし、むしろ真面目な方だったから、
このとき、私は呼び出された理由がわからなくて頭の上に「?」が浮かんでいるような状態だった。
そんな私を見ながら、クソ崇之…じゃなかった、東崇之先生は微笑みながらこう、言ったのだ。



「今日から、には男子テニス部といっしょに練習してもらうから。そういうことでよろしくね♪」



…そして、冒頭の会話へ戻る。

「…は?ちょっといまいち聞き取れなかったというか…聞き間違いであってほしいというか…」
「聞き間違いじゃなくて、そういうことだよ、♪」
にっこり笑って恐ろしいことをを口にしやがりました。
今だって
はテニス部の男子と仲いいからうまくやってけるよ。」
だのとほざいております。
せんせーぇ。我慢の限界ですー。


「…ちょっとマテやゴルアァァ!!このへたれ教師がぁぁぁあぁぁぁぁぁあ”っっっ!!!!」
崇之のカッターの襟元を締めながらブルブル揺さぶる。
それなのに、こいつは平気で。むしろ笑顔を絶やさないんですけど…
「ははは。お褒めに預かり光栄だなぁ。でもその言葉遣いは女の子として頂けないよ、♪」
手をひらひら振ったり私の頭を撫でたり暢気に宥めようとしている…
そういう態度が私を逆なでするとわかっててやるもんだから余計に性質が悪い。

「その前に!!竜崎先生とか!手塚君とか!了解もらわないといけないでしょう!!第一2人が許すわけがな…」
「大丈夫、許可とったから。」
「それにしたって体格差とか打球の重さとか…」
「女子で相手にならなければ仕方ないでしょう?」
「だ…第一…前例がな…」
「ないから、面白いんじゃない。」
「誰も…コーチをする人はいな…」
「大丈夫、乾君がいるから。」

私の愚痴に笑顔で答える崇之。
問題事は事前にすべて根回しされていたらしく、言う言葉言う言葉すべてがその場で否定されていく。
思いつく問題点をすべて言い終えてしまって…あとはもう絶句。
ニコニコ笑う幼馴染が、悪魔に見える…
あぁ…何かどっかの誰かに似てるわ…
そうか…同じクラスの不二君みたいだわ…
そんなことを考えていると、1時間目の予鈴がなった。
私を言葉で打ち負かした当の本人はというと、
「じゃ、そういうことで。今日の放課後からね。」
ひらひらと手を振って部屋を去っていく。
振り返った顔には一般性とをとろけさせるような笑顔が張り付いている。
1人、生徒指導室に残された私は、しばらく動くことができなかった。



数分後
「ふざけんなクソ崇之がぁぁぁぁぁ!!職権を乱用すんなボケェぇぇぇ!!」
と、ドアに向かって叫ぶ私が居たのは言うまでもない。
その声は校舎の端から端まで響きわたった。



何分くらい放心状態のまま立ち尽くしていただろうか。
ひとつの結論を導き出した。
…もういい…今日はずっと屋上でサボっていよう…
生徒指導室を後にして、屋上へと向かう。
こんな気分の日は全教科サボっておこう…あわよくば放課後の部活も…
屋上を開放にしてくれてる校長先生に、感謝しよう。



屋上のドア間であと少しのところで、後ろからいきなり声がした。
!!サボりとはいい度胸だな!!」
げ…先生ですか?ついてないなぁ…
恐る恐る振り返ると、当然先生のいる(と思われる)場所には…
菓子パンを腕に抱えるほど大量に持った、2年の桃城君が立っていた。


「んなっ…」
「へっへー。びっくりしました?先輩、いけねーな。いけねーよ、1時間目からサボりなんてっ♪」
「…そっちこそサボってんじゃない…いきなり脅かさないでよね…」
「すんません。ま、とりあえず屋上、上がりましょや。」
「う…うん。」


屋上までの残りの階段をとろとろと上りだす。
いつのまにか肩に手を回されて誘導されていたが、そんなことは気にならなかった。
というか、気づいてすらいなかった。
ついでに、桃城君が以上に笑顔だった(らしい)ことも。



「はぁぁ…」
屋上についてすぐ寝転がり、深いため息を吐き出す私を桃城君は面白そうに見つめていた。
「そんな嫌っスかぁ?俺らと合同練習すんの。」
幸せそうにバリバリと菓子パンをぱくつきながら問い掛けられる。
「そりゃぁ…だって男子の練習とかマジきついじゃん…そんなの耐えられないよ…」
「なんとかなんじゃないスか。先輩タフだし。」
能天気な声が耳に届く。
今の私にはその声がとても遠く響く。
「大体ヴォケ崇之…いや…先生に許可出すなんて…」
「許可、最初に出したの乾さんらしーっスよ?」
「…え!?」

その途端、がばっと跳ね起きた。
沈んでいた気持ちが一瞬で、浮上する。
私の行動を予想していたのか、桃城君はニヤニヤと笑っている。
「よかったっスね。先輩♪この機会に乾さんと親密になってくださいよ?」
「ちょ…っと…桃城君!!からかわないでよ!!」
ぽかぽかと肩のあたりを叩こうとするが、あっさり止められてしまった。
その上、にっこりと笑った桃城君に
「練習、頑張りますよね?じゃないと言っちゃいますよ俺。ほ・ん・に・ん・にっ♪」
なんて、脅されて。
「…わかった…頑張ります…」
私にはこの言葉以外の選択肢はなかった。


何故、こんなに今日は苛められてるのかなぁ私…
そんなことを考えながら空を、見ていた。
隣で、桃城君も寝転んでいる。
曰く、おなかが満腹のときは睡眠が一番だ!だそうだ。
2人で、空を見ていた。
なんだか、少しだけ。心が晴れた。
今度、忘れたころにお礼を言ってやろうかな。
からかわれたから、当分言ってあげないけど。







私の好きな人。それは。テニス部1、背の高いあの人。
乾、貞治…。
毎日毎日データデータと五月蝿い、あの人。
好きになった理由は至極単純で。
そう、こんな感じだったな…



「…ちょっと…この学校広すぎるんですけど…どこよ第1講堂って…」
中学校の入学式当日。私はすでに1時間ほど学園内を彷徨っていた。
高等部と中等部の一貫教育の青春学園は、方向音痴な私にはある意味、巨大な迷路だった。
学園内地図を見ながら進んではいるのだが、まったく場所がわからない。
「こんな地図なんかじゃなくって看板とか出しとけばいいのに…先生ども頭悪いな…」
悪態をつきながら学園内を横切っていく。

と、そこに。救世主が1人。
中庭(っぽいところ)で本を読んでる男の人。
長身、細身。黒ぶちメガネ。
学校の中のことも知ってそうだから、先輩なんだろうな。
無口っぽいけど無視はされないだろうと勝手に決め付け、そちらに歩き出す。

「あのう…第一講堂ってどっちですか?入学式なんですけど迷っちゃって…」
話し掛けるとパタン、と本が閉じられた。顔が、私のほうを向く。
ほら、やっぱりいい人なんじゃん。無視されなくて良かった。
「…第1講堂は、あっち。」
立ち上がると、さっき私の歩いてきた道とは反対の方角を指す。
思った通り、この人は身長が高かった。
180…いや…もっとありそう。
私の身長なんて彼の胸あたりだ。
でも今は身長は問題じゃない。

「!!あっちですか…ありがとうござい…」
「そろそろ、入学式が始まるな…行こうか。」
「へっ?あ、あの…送っていただかなくて結構です、もうわかりましたし…」
言われた言葉の意味がわからず、慌てふためいてしまう。
声も裏返って…このままじゃ変な人だ…。
そんな私を見て、ため息をつきながらこう言った。
「君を、このまま送り出した場合、迷う確率は100%だ。」
と。
メガネの位置を直しながらそれでもさらに続ける。
「付け加えていうなら、君が俺を先輩だと思って話し掛けた確率は94%…かなりの高確率だ。」
いきなり確率がどうこうとか話されてあっけにとられていたが、気になる言葉を耳にした。
「えー…と…じゃぁ、あなた1年なの!?」
「そういうことだ、急がないと100%の確率で式に遅刻する。走るぞ。質問はまた後で聞くから。」
「げっ!!それは困る!待ってよ!!」
そうして、2人は走り出した。


彼の走りは、足が長い分ついていくのは大変だった。
少しずつ離されていく私に気がついたのか、彼は急に立ち止まって。
優しく手を差し出してくれたから、嬉しくなってその手を借りることにした。
その手はとても大きくて、ゴツゴツしてて…暖かくて。
知らない間に笑顔になってる私を、彼は不思議そうに見ていた。
結果はギリギリセーフで。
講堂に着いたとたん、先生にちょっとだけ叱られた。
叱られている途中、ふっと目が合って。
なんだか可笑しくて、2人して笑った。
叱られてる最中に、不謹慎だけど…2人なら叱られてもいいや、なんて思った。



それから、偶然な事に。私たちは同じクラスだった。
入学式の前から、話してたからなのか。それとも勝手に私が乾に懐いてたからなのか。
乾とは一番に仲良くなれた。…クラスの女の子よりも先に、だ。
休み時間は大体乾と一緒に居た。もちろん昼休みも、お弁当も一緒。
クラスの女の子たちは口々に、乾のことを無愛想だとか、怖いとか言ってたけど。
私はそんなこと全然思ってなかった。
だって乾は、ほんとはメチャメチャ優しいって、知ってるから。





「乾〜、ご飯食べよ〜!」
いつものようにご飯に誘う。もはや日課。
乾が動じないから、今日は後ろから抱き付いてみたりして。
…どこで食べるんだ?」
乾にまとわりついて1ヶ月。
乾は私を名前で呼んでくれるようになった。
凄く、嬉しい。私だけ、特別な呼び方。
それでも、抱きついたことに乾は動じなかったから、今はちょっと不機嫌なんですけど。
と、思ってたら。ちょっとだけ乾の顔が赤く見えた。
「…ん〜。中庭?」
「…今日の中庭でのほかの学生の昼食時使用率は20%くらいだ…」
下を向きながら答える。顔をあわそうとはしないけど。
それでも。
乾の顔が赤かったのは、見間違いじゃなかったみたいだから。
「じゃぁきまりっ!」
笑顔で叫んで横に回りこむと腕に抱きついた。
十分恥ずかしいはずなのに、何も言わずに頭を撫でてくれる乾の優しさが、嬉しかった。





乾との1年は、すごく早く過ぎ去って。
2年になってクラスは分かれた。一番遠いクラスになった。
新しい友達もできて、自然と、乾と話す機会は減っていった。
その上。乾も、私も、同じ時期にテニス部でレギュラーになって。
お互い忙しい毎日に、最近は話している暇もなかった。



クラスが離れて、気が付いたこと。
私が、思っていた以上に乾を必要としていること。
乾を、いつも探していること。
あぁ、乾好きだなって。自覚したこと。



そんなときに、今回の話。
乾のコーチがつく。嬉しいけど、男子に混じっての練習は嬉しくない。
そんなきついことやってられない。しかもこれから毎日なんて。
幸福半分不幸半分。どうしよう。

そんな時。遠くから、私を呼ぶ声。





気のせいだと思っていると、どんどんリアルになる声…この声は…誰の声…?





。起きて。」
肩をゆすられて、眠りから強制的に引きずり出される。

「何…誰…?」
「やっぱりここだったな。お前が何かあったときに逃げ込むのは屋上で…確率100%だな。」
呆れた声。でも、聞きたかった声だ。ずっと、ずっと。
求めていた声に、口調。
パッチリと目を開けると、やっぱりそこには乾が居た。
前と、変わらない。長身、細身。黒ぶちメガネ。

大好きな乾だ。


「乾〜ぃ…」
思わず、涙があふれて。それを隠すように乾に抱きついた。
一瞬見えた涙に乾は驚いた顔をしたけど、それでもすぐに背中をさすってくれた。
前と。何にも変わってない。優しいままの乾。
「…大丈夫か?怖い夢でも見たのか…?」
そう言って、涙を指で拭ってくれた。
「もう、大丈夫だよ。起きたら乾居るんだもん、懐かしくて、びっくりしちゃったの。」
乾は私が笑ったのを見て、あからさまにため息をついた。


相当心配してくれたんだね。ありがとう。
そう言おうとしたんだけど、私より早く乾が口を開いた。
…1時間目から見事に今までサボってくれて…そんなに先生を心配させたかったのか…」
心なしか乾の表情が…怖い。怒ってる…ね。間違いなく。
じゃぁさっきのため息は…呆れのため息ですね…
うぬぼれました、すいません。
聞いていいものか迷ったが…一応聞く。

「…今…何時なの?」
本当は空の色で結構予想はついてたんだけど。
「…。6時半。練習はとっくに終わった。で、手塚がお怒りだ。」
「…泣いていい?」
「部室で待ってると言っていたから…そうだな、説教が1時間を越える確率は80%だな。」
「そんなさらりと言わないでよぅぅ…」
「仕方ないだろう…行こうか。このまま放って置くと家まで逃げ帰る確率100%だからな。」
私を簡単に胸からはがすと、乾は立ち上がる。
上を見上げると、差し出された、乾の手。
昔と同じ顔で乾は笑ってた。



そして男子テニス部部室に到着。
眉間に寄ったしわを隠そうともせず、仁王立ちに近い状態で手塚君は立っていた。

現在、お説教開始から1時間経過。やっぱり乾のデータはよく当たる。
最初、30分。お説教。後半は、反省文。
その間ひたすら謝りつづけて、やっとで手塚君も怒るのをやめてくれた。
明日から、倍頑張るのが条件なんだけど。
でも怒るのやめてくれたからいいや。
その上、
「長引かせてすまなかった、遅くなってしまったからできるだけ明るい道を使って気をつけて帰るように。」
とこっちの心配までしてくれるから、さすが部長だな…と的外れなことを考えてしまった。


部室を出て、帰り道が逆だから手塚君に手を振って。
さっきまで明るかった空がもう真っ暗だったから、走って帰ることに決めた。
トレーニングの代わりになるからちょうど良かった。
今日は1日寝て過ごしちゃったから、このくらいでちょうど良いんだと自分に言い聞かせながら、スピードを上げる。
校門まであと少し。そこに、乾は居た。

「乾?もしかして待っててくれたの?」
「…夜道を一人で帰らせるわけにいかないだろ。こんな、子供を。」
「な…っ!乾だって同い年でしょっ!!」
「見た目のことを言ってるんだよ。俺はおまえより年上にしか見えないだろう。」
「それは…そうだけど…でも子供扱いはむかつく!!」
「良いじゃないか、そのままで、可愛いんだから。」


本当にさらりと、乾は言った。
「…え?い…ぬい?」
見上げた乾の顔は、テニスのときみたいに真剣で。
私は、乾から目がそらせなかった。


「可愛いって、言ったんだよ。
ずっと、言いたかったけど言えなかった。」
「ちょ…乾!?誤解を招く言い方はよしなって…」
照れ隠しに笑って、乾から目をそらそうと思った。だけど。
乾は大きく腰をかがめて私を胸の中に閉じ込めた。

「好きだった。ずっと。」
とたん、耳元から響く乾の声。恥ずかしくて。下を向く。
背中から、心臓の音。その音は私のと同じくらい早くて。
大きな身体は細かく震えていた。
私も好き、と言ってあげたいのに何も言えなくて。
嬉しくて、あふれた涙は乾の手に落ちる。

「…俺の中で…が俺を好きな確率は99%なんだけど。違う…か?」

「残りの1%は…何なのよ。ほぼ確信得てるくせに。」

「答え、聞いてから…データを作り直す…」

そう、乾は笑った。つられて、私も。
「大好きだよ、乾。もとい…貞治♪」
触れるだけの、キスをして。
もう一度、貞治を真っ赤にさせることに成功した。







「左に打ってくる確率…70%…」
「ちょっと貞治!少しは手加減てものをしなさいよ!!」
「手加減をしたらしたでが起こる確率は90%、だから絶対に手加減はしないさ。」
「うっ…」

朝から2人は仲良くテニスの練習中。テニス中の貞治は、相変わらず厳しい。
それでも。貞治が私のデータを熱心に取るから。私もそれ以上にテニスに打ち込む。
ヴォケ崇之先生に、桃城君に、ちょっとずつ感謝。
私は、好きな人といっしょの練習、幸せです。

あ、でも。あんまり桃城君が冷やかすから、貞治が怒って
特性乾汁(バージョン5:黒酢)なるものを飲ませたのは、内緒です。







***あとがきという名の1人反省会***
えぇと、ギャグが書きたくて作ったお話です。
その割に設定を生かしきれてなくて、コメントしづらいですが。(笑

主人公視点って今思うとはじめて書きました。
思ってたより書きやすいんですねぇ。
毎回こんなに書きやすかったら良いのに。(無理です

乾はテニプリの中で一番好きなキャラです。
書けて嬉しいんですが、どうにも偽者度が高いですね…ファンの方、すみません。

それでは、ここまで読んでいただきありがとうございました!!

2004.10.14 水上 空