普段は我侭を言わない貴女が。
初めて言った我侭位。

聞いてあげたいんです。
その願い、叶えてあげたいんです。


私が、それでピエロになろうとも。

貴女の我侭が、叶うのなら。



私は喜んでこの身体を差し出しましょう。





貴 女 の 我 侭 は 何 で す か ?







〜道化(ピエロ)〜







キラ捜査本部。
今現在、この高級ホテルの1フロアはそういった用途で使用されている。
入れるのは関係者のみ。
携帯電話などの外部と通信が出来るものは電源を落としておく。
ここの存在をばらす事は許されない。
それがここでのルールである。
要は、存在が巧妙に隠された秘密組織といったところだ。



しかし、捜査に関係がない人物でここに入れる人物が居ることもまた確かである。
その人物は決まってLに連絡を入れてから来る事になっている。
それは、この捜査本部が定期的に場所を移動する場合があることが主な理由である。



…が、今日はその人物は突然やってきた。







「L〜!!」


大きな音を立てて、突如開かれたドア。
そこには上で述べた人物、つまり、今現在Lの恋人であるが立っていたのだった。
背中には大きめのショルダーバックをかけている。
連絡なしの来訪にLは多少驚きながら、席を離れドアに近づいた。


「何ですか、いきなり訪ねてくるなんて珍しい…というか初めてですね。」

「ちょっとねー。」


顔を覗き込みながら、Lは首を傾げた。
Lが驚いていることが伝わったのか、はニコニコと笑う。



とても楽しそうに微笑むに、Lも思わず笑みを溢す。
ゆっくりとの腰に手を回し抱き寄せると、頬に手をあてがい、視線を合わせた。
そうして優しく問いかける。


「…何か用件があるんでしょう?いきなり訪ねてくるほどの。」

「うん、実は急に思い立ったんだけど。今日、何の日か分かる?」










…今日は何の日?フッフーゥ♪(お○いっきりテレビ!?










今日、と言われてLは戸惑った。
何の日なのか全く見当が付かない。


最近Lは寝ていなかった。
TVもろくに見ていない上、新聞も見た記憶がない。
捜査に掛かりっきりであったからだ。


よって、日付感覚も皆無と言っても良い。





首を傾げたまま固まったLは、無言のまましばし固まったのだった。
宙を彷徨う視線をに戻すと、は期待に満ちた表情でLを見ていた。
それに反応して、Lは再度思考を巡らすのだが、答えは一向に見つからない。
暫くしてから、観念したのかようやく言葉を紡ぎだす。


「今日…ですか?さぁ…最近日付の感覚というものが無いもので。」

「…ちゃんと寝てないでしょう、さては。」

「…すみません…。」


きっちりと自分の行動を言い当てられて、ピシャリ、と緩く頬を叩かれる。
心配をかけていることが分かってLは素直に謝った。



罪悪感で満たされたのか。
幸福感で満たされたのか。



Lは目を逸らすと、小さなの身体を再度包み込んだ。



抱きしめていることに対する抵抗はないようだ。
の首元に顔をうずめたまま言葉を続ける。


「で、今日は何の日ですか?の誕生日はこの前祝いましたから違いますよね。」

「…。私の誕生日夏だし。今冬だしね。」


は呆れた声で言い切ると、今度こそLの抱擁を引き離した。
季節感がないにもほどがあるというものだ。
しばしLの手が淋しそうに宙を泳いでいたが、は思い切りそれを無視することに決めた。
それが分かったのであろう、Lは大袈裟に落ち込んでいる。





それを目の端で確認すると、は丁度隣室から資料を届けに来たある人物に声をかけた。





「松田さーん!!」

さん?見えてたんですね。何か僕に用事ですか?」


が呼ぶと、資料を机に置いてから松田は傍へ寄ってきた。
松田がにっこりと微笑むと、も満足そうに笑う。





松田を呼ぶ声に、の笑顔に、瞬間、ピクリとLが反応した。





ジト目で2人を見やるが、松田ももLには気付いていない様子で話を続ける。


「今日何月何日で、何の日か分かる?」

…なんで松田さんなんか呼ぶんですか。しかも私へのものと同じ問いをしないで下さい。」


我慢が限界に達したのか、Lはを後ろから抱きすくめる。
…先ほどの季節感のないLの発言が悪かったのか、はLの方を向こうとはしない。
松田に対して同じ発言をするに、Lは少し拗ねていた。





…気付いてもらえない分、余計に。





そんなLを気にも留めず、2人の間で事態は発展をみせた。


「2月…あぁ節分ですか?」

「ピンポーン!!大正解!!さっすが松田さん!!」


松田が、あの松田が!!答えをさらりと言い当てたのだ。
がにっこりと微笑んで松田を褒める。


「いやぁ、それほどでも…はっ!!」


途中まで、照れていた松田だが、急に顔を青くした。
そう、ようやくLの放つ邪悪なオーラに気が付いたのだ。
それは刺々しく、ジワリジワリと松田を攻め立てる。


「どうしたの?松田さん顔色悪いよ?」

「…いえ、何でもないですよ。あはは…さぁ、仕事仕事〜っと!!」


これ以上この場に居ると命が危ないと悟った松田はいそいそと隣室へと駆けていった。







「どうしたんだろ…ホントに…。」


それを見送ったは理解不能で首を傾げる。
なんで?と言った具合にLを振り返ると、Lは嬉しそうに笑った。
ようやく、が自分の方を向いてくれたからだ。


「さぁ。まぁ松田さんはいつも可笑しな方ですから気にしないほうが良いですよ。」

「ふぅ〜ん…。」

「それより、節分ということは分かりましたが…用事は何ですか?」


Lが本題を聞き出すと、も思い出したように微笑んで。










「刑事さんたちも、ワタリさんも呼んで豆まきしよう!!…Lが鬼ね!!」










キッパリと、告げたのだった。
Lは不意の笑顔に見惚れてしまっていたため、反応が遅れた。
ニコニコと微笑んだまま、しばし無言の時間が流れる。
その間、何度もLの頭の中にの言葉がこだまする。





節分の豆まき…?

Lが、鬼…?





「は…?」

「ここなら広いし豆まきのし甲斐ってものがあるしね!!」


間抜けた表情で聞き返すLに、は元気よく答えを返した。
そうして、背負っていたショルダーバッグから、鬼の面を取り出すと、Lに手渡す。
反射的に、Lはそれを受け取った。










次の瞬間、Lが現実逃避までのカウントダウンを人知れず始めたのは言うまでもない。















その後。

ソファーに座り直した2人は、向かい合って話し込んでいた。
は、楽しそうな顔で。
対するLは、…なんとも形容し難いような複雑な表情で。


いや、実際Lはなんとなく事を理解していたのだが。
どうにも自身が自分が鬼をやる、と言った状況が想像できていなかったようで。
それでも何とか、に弱々しく反論を繰り返している。


。…どうしてもやるんですか?」

「五月蝿い黙れ、やるったらやる。」



一瞬、が怖かったのは気のせいだろうか…?
いや、気のせいであって頂きたい。



「豆が当たったら痛いじゃないですか…。」

「ちょっとこつんって当たるだけじゃない。」

が投げるのは、でしょう?ほかの人がそうとは限りません。」

「…私が鬼やっても良いのなら変わるけど?」



そこまで話が進んだとき、Lの態度が一変した。
弱々しかった声に急に力がこもり、目つきも真剣なものへと切り替わる。



「それは嫌です。私は絶対にに投げたくありませんし、が傷ついたら、豆を投げた人物を呪います。」

「なら、Lやって。」

「…分かりました。」


よっぽどが大事らしい。
Lは普段の性格上、絶対やらないであろうことを承諾した。
それが嬉しくて嬉しくて、ニッコリとは微笑む。


「ありがと、L。大好きっ♪」


Lに抱きつくと、頬に軽くキスを落とす。
硬直したままのLの腕からするりと抜け出すと、隣室へとイベントを知らせるために駆けていった。
ドアへと消えるをLは見送った。
紅く染まる頬を、キスが落ちた場所を、その手で隠しながら。





「…の、初めての我侭は、これですか…。」





呟きはとても小さかった。
加えて、声の変化も余り見受けられなかったが。
それでも、Lはどこか嬉しそうだった。
が再び現れたとき、Lは優しく微笑んでいた。










と、言う訳で。
豆まきの開始である。





「「「「「鬼は〜外!!福は〜内!!」」」」」





Lは先ほどの約束通り、きちんと鬼をやっていた。
が持参した、鬼のお面を着けて、適度に動いて。
バラバラと四方からぶつけられる豆。
それにただひたすら耐えていた。


が楽しそうなことに、少し安堵したものの。
何故かワタリと松田がえらく楽しそうなことに気付いて眉間に深い皺を刻ませた。







「松田さん…今日の事はしっかりと覚えておいてくださいね…。」

「えぇっ!!りゅ…竜崎!!何で僕だけ目の敵にするんですかぁ!!」


手持ちの豆が尽きて、豆まきが終わった後。
つまりは、豆まきの為にに呼ばれた捜査本部の面子が隣室に戻る際。

Lは松田の肩を掴むと、それはそれは冷たい声で脅し文句を吐いた。
当然、泣きそうになりながらうろたえる松田に、事も無げに付け足す。
今にも松田は泣きそうなので、追い討ちと言っても過言ではない。


に褒められた上、私に豆をぶつけたからです。…因みにに褒められて良いのは私だけですから。」

「そ…そんなぁ…。」


くしゃりと顔を歪める松田。
Lはそれを見て満足そうに微笑んで、その場を後にした。


「松田…もう諦めろ…。」


夜神が気遣わしげに言葉をかけると、松田は素早く振り返った。
救世主を見つけた、そう思ったのであろう。


「局長ッ…!!助けてくだs…」

「無理だ。」

「うわぁぁぁ……。」





即座に、しかもキッパリと返された返答に、今度こそ松田はうずくまって頭を抱えた。
明日が来るのが怖い、そう呟いて。


出来るだけ縮こまろうとする松田を見て。

恋人の傍へと満足そうに歩を進めるLを見て。


夜神は1つ、深いため息をついた。










。」

「L。お疲れ様〜。」


松田を脅し終えて気分を晴らしてから、数秒後。
Lはの座るソファーにゆっくりと腰を下ろした。
満足そうに微笑むに笑顔を返しながら、ふと思いついたようにの膝を拝借する。


は抵抗しなかった。


それどころか、柔らかいLの髪を弄んでいた。
の優しさにくすぐったさを感じてLは反射的に目を細める。


「本当に疲れましたよ…。」

「あ〜…ごめんね?でも無理にやらなくても良かったのに…。」

「押し通したのはでしょう?」

「う…。」


言葉に窮するが可笑しくて、Lは声を出して笑う。
上目遣いで見上げると、膨れた顔のと目が合った。
その顔に、何とか笑いを押し殺していつもの表情を作る。


「…冗談ですよ。そうでなくとも今日はやるつもりでしたし。」

「…何でよ。嫌がりそうなことなのに。」


未だに不服そうなの頬を手でふわりと撫でて、Lは付け足した。





の、初めての我侭ですからね。我侭、嬉しかったですよ。」





極上の笑顔と共に放たれたその言葉は、の顔を瞬時に赤くさせる。
それを見て、Lはまた満足そうに微笑む。
が反論する前にLはお休み、と付け足して深い眠りに落ちた。





「変なL…。」





真っ赤になりながら、それでも嬉しそうには笑った。










そうしてLはの膝の上。
満足感に満たされながら久々の睡眠を楽しんだ。
気持ち良さそうにに眠るLが愛しくて、の顔は自然と微笑みで彩られる。
静かに静かにLの髪を梳きながら、もまた、穏やかな気持ちで眠りについた。



が居てくれて良かった、離しはしないと言うように。

の小さな手を優しく握りながら。

が居てくれて良かった、離しはしないと言うように。

子供がするように、共に、眠った。





今年の節分の思い出は。



初めての君の我侭。

豆まき、鬼の面。

ピエロな私。



それから、それから…。















愛しい貴女との、お昼寝でキマリ。







***あとがきという名の1人反省会***
節分ネタ…季節ネタですね。
なのに、今日は6日!?書くの遅すぎなんだよ自分!!
…毎度毎度自分が嫌になる瞬間です(泣

折角…折角レポートそっちのけで頑張ったのに!!(違

いやまぁそんな話は置いといて(つ´∀`)つ゛□

豆まきとか最近節分でもやってないよなぁと思って書きました。
松田さんが虐められるのが書いてて楽しかったです(趣旨ズレとる
我侭に振り回されちゃうLが書きたかったんですよ。
君の我侭はいくらでも聞いてあげるよ、みたいな(笑
いっぺん言われてみたいもんです。
…水上 空の好きな人はドSっぽい(本人談)ので無理ですけどね…(ぇ

しまった…ヤバい発言をしてしまったために早急に退散します。
お…O君!!貴方は素晴らしい人です!!殺さないでください!!(O君の眼には殺傷能力があると思う…。
皆様…ご意見、ご感想お待ちしております!!

では、ここまで読んでいただきありがとうございました!!(逃ッ!!

2005.2.6 水上 空