波音だけが耳に届いた。 静か過ぎて、耳が疼く。 俺もお前も、眠ってなんかいねぇのにな。 そう明日、お前は。 〜ブランデー〜 「サンジ…こんなところに居たんだ。」 甲板の端でサンジはブランデーを煽っていた。 足元には既に数本の空き瓶。 振り返ると其処にはゴーイングメリー号の歌姫、音楽家のが立っていた。 透明で、艶めかしいの声を聞き間違えるはずが無かったが。 「…。」 振り返るのとほぼ同時に、腕を伸ばす。 を捉えると、サンジは強引に抱きすくめた。 胸に、の頭を押し付ける。 腰に回した手は 強く、強く。 が折れてしまうかと思うほどに。 は、抵抗しなかった。 「サンジ…泣いて、くれてたの…?」 顔は、見ることができなかったが。 サンジの肩が。何より、サンジから伝わる振動が。 服に落ちる、熱い雫が。 いつもと違って小さく見えて、は包むようにサンジを抱きしめた。 と、サンジは買出しにきていた。 買い物袋は着実に増えていっている。 それはすべてサンジが持っていた。 左手には、の手を握っているから、すべて右手で。 「…っと。次は肉屋だな。あいつらみんなうるせぇからな。」 「…そうだね。」 「…?」 いつもと違うの声色に、サンジはを振り返った。 顔を覗き込むように、長身を屈める。 一瞬、眼が合うと、は目を逸らした。 「…どうした?」 問い掛けると、口を引き結び、一気に顔を上げた。 手を握る力が強くなったのが、サンジにも分かる。 「サンジ、私ね。明日船下りるから。」 「…は?」 衝撃的な発言に、サンジは固まった。 咥えていたタバコが、円弧を描いて地面に落ちる。 かすかに煙が立ち昇った後、タバコの火は、消えた。 ここはログが溜まるまで、碇泊していた港町で。 明日は出発の日だった。 船を、下りる…が…? 「くだらねぇ冗談はやめろよ…。」 苦笑して、目線をに戻す。 は真剣な目をしていた。 哀しそうに、笑っていた。 「本当だよ、ルフィにも、みんなにも、許可取ったもの。」 驚愕に目を見開くサンジに、は続けた。 「後は、サンジだけなの。」 おねがい、と。 一度決めたことは曲げない。 の決意は変えられないと知っていた。 内に秘める想いがどれだけ強いかも知っていた。 それでも。 「…められっかよ…」 「…え?」 「…っ…そんなん認められっかよ!!」 気が付いたら駆け出していた。 後ろを振り返らず、全速力で一直線に走る。 後ろから、声は掛からなかった。 「ずっと、探してたんだよ…。」 「の能力なら…探すのは簡単だろうが…」 「そんなもの。自分で探したかったんだから、必要ないもん。」 「そうか…。」 サンジは、やっと泣き止んだようで。 抱きしめる力はいつもの優しさに戻っていた。 は、超音波を操るオトオトの実の能力者であった。 楽師には最適の能力であるが、戦闘でも大いに活躍した。 超音波を送り込み、脳から相手を侵食し、念じるだけで破壊した。 実に殺傷能力が高い、悪魔の実の能力者だ。 しかし、それだけに留まらず音波はいろいろな力を持っていた。 人探しもそのひとつで、相手の脳に、そのまま自分の声を届けることだってできた。 俗に言うテレパシーだ。 サンジの指したのはこの能力のことである。 「…悪ぃな…ちゃんと許してやれなくて…でも…」 「…分かってるよ。」 「…俺…」 「私も、サンジ好きだよ…。」 柔らかく笑って、口にする。 ふと、胸から引き剥がされて、上を見上げるとサンジはブランデーを呑んでいた。 瓶に残っていたブランデーは一気にサンジに吸い込まれていく。 は月明かりに照らされるサンジに魅入っていた。 白く光る鎖骨に落ちるブランデーの雫が、輝いて見えて。 ボトルが空になったところで、サンジはようやくと眼を合わす。 ふっと、優しく笑って。 に、深いキスをした。 ゴクン…。 一瞬のことで、それが何かわからなかった。 喉の痺れに、流し込まれたのがブランデーだった事に、ようやく気付く。 がブランデーを飲み込んだことを確認して、サンジは舌を絡めとる。 漏らす声もないほど、深く。 甘く、優しく、を求める。 何度も、何度も。 ブランデーのかすかな匂い。 キスに酔いしれながら、徐々に甲板に押し倒される。 いつの間にかサンジはまたブランデーを呑んでいて。 それはまた、の口に流し込まれた。 そうして何度も、キスをした。 どれだけ、そうしていたのだろうか。 サンジがゆっくりと、口を離す。 「…祝い酒…」 「…え…?」 随分ブランデーを呑まされたは一瞬、サンジの言っていることが分からなかった。 「祝い酒、だよ。の、旅立ちの。」 …今度は、が泣く番だった。 ゆっくりを起こして、腕の中に閉じ込める。 の泣き顔を見ないように。誰にも、見せないように。 「…ンジ…サンジィ…。」 「…行きたいんだろ、行けよ…。」 「…ぁりがと…。」 そうして、2人は離れることを決意した。 「…。」 「何…?」 「俺の為に、歌ってくれよ…」 サンジが笑うと、もつられて笑って。 立ち上がると、歌い始めた。 の歌声は力強く、それでいて儚く。 優しく、哀しげに。 恋の歌を。旅立ちを歌った。 美しい、旋律。 流れるメロディー。 サンジはの創る空間を独り占めにして。 その光景を目に焼き付ける。 の歌声は船中に響き渡り。 クルーは一斉に目を覚ました。 メロディーに耳を傾けながら、それぞれの想いを胸に抱いて。 皆、涙を流した。 もうすぐ、夜が明ける。 「!!元気でやんのよっ!!」 船上から、ナミが笑顔で叫ぶ。 「怪我とかしちゃ駄目なんだからな!!」 「無理して、喉壊さないでね。哀しくなるから。」 「短い間だったけど、楽しかったぜ!!」 「…根詰めて自滅すんなよ。」 「また遊ぼうな!!」 他のクルーからも、思い思いの言葉が発せられる。 それぞれの顔には、笑顔。 仲間の旅立ちを喜ぶ、誇りに満ちた顔だった。 みんなの振る舞いが嬉しくて、も嬉しそうに微笑む。 …サンジは、一番端で、ずっとタバコを吸っていた。 何の言葉も交わされないまま、船は、出港した。 「サンジィ…何で何にも言わなかったんだよ…。」 ルフィがいつになく心配そうに問い掛ける。 「…うっせ。いんだよ、あれで。」 「よくねぇだろ、あ、おい、待てって!!」 サンジはルフィに背を向け、そのまま歩き去った。 追おうとするルフィを、ウソップが静止した。 「しばらく、そっとしとこうぜ。」 その夜、案の定サンジは昨日の場所でブランデーを呑んでいた。 「ちくしょ…何…泣いてんだ俺は…。」 今までの、思い出が。 と過ごした、時間が。 サンジの心を締め付けていた。 「……。」 笑顔見せてくれよ。 傍に居てくれよ。 声を、訊かせてくれよ… ―サンジ。サンジ。 の笑った顔が頭をよぎる。 サンジは、ふっと微笑むと。 その顔に誓った。 「俺、こいつらと一緒に、夢叶えるからさ… も夢叶えろよ…。 そうしたらいつか。また会おうな。 迎えに行ってやるから…。 俺のこと、忘れんなよ…」 絶対、会いましょう。 いつか何処かで。 忘れるわけないよ。 大好きだよ、サンジ… そう、頭に届いたのは。 俺の、欲か? の、テレパシーか? 陽はまた、上ってゆく。 ***あとがきという名の1人反省会*** 初悲恋、初曲ドリです。 曲は、B'zのONEという曲がモチーフになっております。 この曲好きなんですが、自分で夢小説にしてみたら、何かこう…。 駄作っぷりが嫌というほど引き立ってしまいました。 間違っても曲聴きながら読んだりしないで下さいねっ!!(懇願 あと、B'zファンの方、石とか投げないで下さいね…?(ビクビク… 気を取り直して。実はこの話、微妙に続いたりします。 詳しくは決めていませんが、一応曲ドリで固めていく予定です。 宜しければ、最後までお付き合いください。 …出来るだけ早くアップしますので!! (…と、自分の首を絞める阿呆) それでは、ここまで読んでいただきありがとうございました!! 2004.10.23 水上 空 |