純粋な考え。綺麗な瞳。 そこには曇りなんて無い様に見えた。 自分が既にそんなものは持ち合わせていなかった。 信じられなかった。 貴女という存在が。 汚れを知らないんじゃないかと思った。 隣に居て良いのか悩んだ。 汚してしまうんじゃないかと。 隣にいるのが私で良いのかと。 でも、信じたいのは事実で。 傍に居たいのも事実で。 惹きつけられて、目が逸らせない。 貴女しか見えない、です。 貴女しか見たくない、です。 〜空の、瓶。〜 時刻は、午前3時。 カタカタと、パソコンで作業する音だけが響く。 一緒に作業していた県警の人間も既に寝静まった中、Lは1人で作業を続けていた。 そんな中。パタパタと軽い足音が近づいてきた。 「えーるっ!」 後ろから酷く明るい声。 声に振り向く前に首に腕を回され、抱きつかれた。 慣れているのか、Lはバランスを崩すことなくそれを受け入れる。 振り向くと、そこには愛しい恋人の姿があった。 「…どうしたんですか、こんな夜中に。」 ソファーに座りなおしたを引き寄せて腕に閉じ込める。 髪を梳くと、は嬉しそうに笑った。 「ん、ちょっと喉渇いて。Lはまだお仕事?」 「えぇ…まぁそうですね。」 「まぁって何よ。ちゃんと寝ないとだめでしょう、Lさん。」 「すみません。」 曖昧な返答に怒るに、Lは苦笑しながら謝った。 素直に謝るLに驚いたのか、は目をまん丸にしている。 それからゆっくりと微笑みを浮かべた。 「よろしい。ってかL何か食べてる?」 「飴食べてますけど。も食べます?」 が問うと、Lはすっとテーブルの上を指差した。 そこに在ったのは、1つの透明な瓶だった。 瓶は青く、淋しく光を放って、そこに在った。 その中に1つだけ、少し大きめの飴玉が入っている。 「…最後の1個なのに良いの?」 心配そうに瓶を取り、呟く。 手に取った瓶は既に軽く、持ち上げたときにはカラカラと乾いた音が響いた。 Lに背を預けて、暫く飴玉を瓶の中で弄ぶ。 カラカラ、カラカラ。 彷徨うそれは、瓶の中で存在を表すかのように必死に音を立てる。 消えそうな音は、確実にまで届いた。 「えぇ。私は充分食べましたから。」 「…もしかして、それの中身全部食べたの?」 飴玉で遊ぶを暫くじっと見ていたLは少し微笑みながら、了解の意を示す。 そっと瓶を持つの手にLが手を重ねると、同時に飴玉の運動も止まる。 の表情に苦笑しながら言葉を繋げる。 おそらく、は目を見開いて吃驚するだろうが、いつものことなので気にしない。 「えぇ、まぁ。」 「…食べすぎだから、絶対。こんなおっきな瓶なのに…。」 「そんなことないですって、前にも言ったでしょう?」 「…良いけどね、別に…。」 ため息を吐き出して、それでもなお足りないのかぶつぶつと何かを呟いている。 ちょっとした仕草すら可愛らしいと思えるのは、Lの欲目なのだろうか。 から瓶を取り上げて、中の飴を取り出す。 微笑んで、Lはそれをの口に近づけた。 「はい、あーん。」 「や、自分で食べれるって。」 Lの行動に吃驚したのか、しどろもどろには答える。 顔を真っ赤にして、わたわたと慌てる様は見飽きることは無い。 「…私が、食べさせたいんですよ。だから、はい。」 そうして、もう一度勧めれば、今度は素直に口を開けた。 それにLは一層微笑みを深くする。 「美味しいですか?」 と問えば、モゴモゴと飴を口内で転がしながら、 「うん。大きいけど…。」 笑顔で答える。 その笑顔はの本来の年よりも一層幼く見えて。 Lはをしっかりと抱き寄せると、くしゃりと頭を撫でた。 「あ、待って、L。」 「え?」 「捨てないで、その瓶。」 が満足そうに飴を食べるところを見ていたLは、飴が無くなった頃を見計らって立ち上がった。 空になった瓶を捨てるためである。 が、それはの一言で却下された。 のほうにそれを差し出すと、待ちきれないのか、大きく手を伸ばして瓶を受け取った。 渡された瓶は既に大切そうに抱きかかえられて、の腕の中だ。 「もう飴も入ってませんし…必要ないじゃないですか。」 の横に座りなおして、瓶をちょんっと突く。 不思議そうな目でを見上げると、は真剣な顔をしていた。 「私は欲しいの。必要あるの。」 「ですが、空の瓶ですよ?」 何に使うのか、使い道なんて無いじゃないかとでも言うような目でLはを見つめる。 暫くその目を見つめたあと、はニコリと微笑んだ。 そして言葉を続ける。 「違うよ。ソラの瓶、だよ。」 「何故、ソラなんですか、いきなり。」 理解しかねる、と言うように首を傾げるL。 その格好が可笑しくて、はまた少し笑う。 しっかりと、Lを見つめたまま。 「何かね、空っぽって意味だと、その瓶、独りぼっちって感じがするでしょ? それって、ちょっと淋しいじゃん。」 「瓶が?…そうですか?」 「でもね、空っぽって言うけど、中には空気が入ってるわけでしょ? だから本当は空じゃないじゃん。」 「まぁ、それはそうですね。」 の言う突拍子も無い言葉に、一つ一つ、Lは律儀に言葉を返す。 その表情はとても真剣で。 …傍から見ていたら、思考の面白い(むしろそれすら通り越して奇怪な)カップルである。 言葉を区切るたび、Lが返事をしてくれることが嬉しくて、は思っている事を口に出す。 Lならきっと、理解してくれる。 そう信じながら。 「だからね、空の瓶は、ソラを閉じ込めてるんじゃないかなって思ったの。 私が、さっきこの瓶から、飴を取っちゃったから、余計に。」 真剣に話す。 Lもまた、自分には到底考えの及ばないところを考えるの話を熱心に聞いている。 の話は時に突拍子無さ過ぎるが、それでも純粋なの考えに、Lはいつも惹き付けられる。 相槌を打てば、目を輝かせて話を続ける。 どれもこれも、子供のような考えのだから話せる、純粋な話。 いつもそれは、疲れたLの心を癒した。 「それで?」 そうして、Lが問えば、決まって笑顔で話す。 向けられる笑顔が眩しくて、Lはそれを誤魔化す様に目を細めて笑う。 「でも、ソラってみんなのものでしょ? だからこの瓶が早くソラを出してあげれるように、私が代わりを用意するんだ。」 は瓶を掲げて笑った。 瓶がとLの間に割って入る。 青みがかった瓶は、の頬を背景に取り込んで。 …ほんの少しだけ、ピンク色に輝いた。 「代わり?何ですか、代わりって。」 「んーとねぇ。あ、昨日取った風景画とか。あと…Lとの思い出とか?」 へへっとはにかんだ様な笑いを見せるが、堪らなく愛おしくて。 …特に、言ってくれた後半部分が嬉しくて。 Lは顔が真っ赤になるのを自覚した。 その顔をに見られないように、を抱き寄せる。 「…。これからどんどん、増えますよ?こんな瓶じゃ、収まりきらないくらい。」 「…それ、本当?」 「。私が嘘言ったこと、ありますか?」 「ない、です。」 互いの顔は抱き合っているから見えないけれど。 伝わる心音は、いつも以上に速かったから。 それでも居心地が良かったから。 相手も、照れながら笑っているんだろうと容易に想像がついた。 「本当に…可愛らしいですね、は。では、手始めに…。」 「手始めに?」 「今の、幸せな時間でも閉じ込めておきますか?」 「…ん。」 の同意を聞いてから、Lはそっとを抱く手の力を緩める。 そうして幾度となく、キスを繰り返した。 傍に居て欲しい。 Lはいつも忙しい人だから。構ってくれる時間も少ないから。 それなら、一緒に居られる時間だけでも。 私から瞳を逸らさないで。 でも、でもね? どうか、気づかないで、気づかないで。 本当は、無理をしていること。 純粋なフリをしていること。 馬鹿なフリをしていること。 貴方が笑ってくれるなら、傍に居てくれるなら。 それだけで良いから、頑張れるから。 暫くして、Lはをキスから開放する。 は一旦目を閉じた。 睫が、震えたのは…気のせいだろうか…? そうして、しばらく間を置いてから目を開いたは、柔らかく微笑んでいた。 瓶を手に取ると深く息を吸い込み、空の瓶の口に向かって叫ぶ。 「L、大好きー!」 「王様の耳はロバの耳…みたいに叫ばなくても。」 いきなりの大きな声にLは目を丸くした。 それでも、は嬉しそうに頬を染めて、無邪気に笑う。 「…だって本当のことなんだもん。」 「。瓶、貸してください。」 「はい。Lも叫ぶ?」 「叫びませんよ…。」 「ちぇ。残念…Lが叫ぶことなんて滅多にないのにな…。」 素直に瓶を手渡したあと、はちょっと残念そうに呟いた。 その表情がまた幼く見えて。 Lは自然と笑みを溢す。 すぅっと息を吸い込むと、瓶に向かって呟いた。 声は、聞き取れないくらい小さい。 「………。」 「今、何て言ったの?」 「気になりますか?」 「うん。だって聞こえなかったんだもの。」 瓶に蓋をしながら、ちらりと横を見やると、首をかしげながら問うの目線にぶつかった。 その表情が愛らしくて、Lはまたを抱きしめる。 そうして、耳元で囁いた。 今度は、ちゃんとにも聞こえるように。 「…I love you forever.って言いました。」 「…何で英語なのよ。発音綺麗だし。」 「言い方同じじゃつまらないかなと思って。」 「それもそうだけど。」 照れながら、は笑った。 それを見て、Lも同じように笑う。 と、同時に立ち上がるとに向かって手を差し出した。 「…さぁ、そろそろ寝ましょう?私も寝ますから。」 「うん。」 Lに手を引かれながら、も寝室へと足を踏み入れた。 の言ったことは正しかったのか。それは分からない。 一緒にベッドに入って、いつもと同じように腕枕をして。 共に眠った。 目を閉じる前に先ほどの瓶を見る。 瓶は、ほんのりピンク色に見えた気がした。 目の錯覚であってもこの際構わない。 隣に眠るとの幸せな時間を閉じ込めて。 瓶から溢れるくらいに増やしていこう。 空の瓶、一人ぼっちですすり泣く。 ソラを閉じ込め、光を得る。 くるくる変わる景色に色付き、癒される。 愛を入れたら、何が変わる? そう、それはきっと。 そこには、笑顔が。 色付く、景色が。 純粋な貴女と共に、そこに。 惹きつけられて、目が逸らせない。 ほら。もう、貴女しか、見れない。 貴女にとっての私も、そうであれば良い。 ほら。もう、貴女しか、見れない。 貴女なしで、生きられない。 空の瓶のように、貴女を閉じ込めて。 空の瓶のように、私を欲してください。 ***あとがきという名の1人反省会*** いきなりですが、飴の瓶ってカラフルで綺麗ですよね。 屑飴とかのだとホントにいろんな色が入ってて。 水上 空は貧乏性なので(たぶん)、瓶とか捨てられずに取っておくタイプなんです。 今回はそんなお話です。(違 何でも入れれる瓶があったら、楽しい思い出を入れたいなぁと思って。 一緒に居たいから、閉じ込めて、閉じ込められたいみたいな。(意味わかんねぇよ…。 甘くしたつもりなんですけど、楽しんでいただけたでしょうか…? いまいち自分では甘いとか分かんないんですよね。 まだまだ未熟者なので、文章が拙く分かり難く申し訳ないです。 よし、叱ってやろうという心優しい方はBBS等で叱ってやってください(笑 …頑張って精進します故。 では、ここまで読んでいただきありがとうございました!! 2004.12.14 水上 空 |