君を、再発見。再認識。
綺麗になった君は、皆の人気者。
自ら輝いて、キラキラを振りまいて。
いつの間にか、太陽みたい。
いつか俺は、そんな君のヒマワリになれるかな?
君は気づいているのかな?



―こんな、不燃な、恋心。―







〜不燃かもね〜







あの再会から、2度目の春の季節。
桜の咲き乱れる中、私たちは3年生になった。
気が付けば中学も今年で卒業。

なのに、一向に事態は進展しないまま。
私はといえば、彼の穏やかな笑顔を見るたびに、締め付けられる想いを抱きながら、毎日を過ごしている。



「バーニング!!オラオラ!そのくらい拾って見せろ!!」


コートからは気合十分な大声が響く。
声の主、河村隆。私の、好きな人。
好きになったきっかけは、本当に単純だった。





小学校のころ。

今よりも身長が小さかった私。
人見知りも激しくて、クラスになじめなかった。
そんな中、一番に話してくれたのが河村君。
嬉しくて、すぐに仲良くなった。


泣いていたときに言ってくれた一言が嬉しかった。



ちゃんの事、泣かせるやつがいたら、…―



その一言で、頑張れた。
何でもできる気がした。
嬉しかった…好きになった。
河村君に釣り合う人になりたい、それだけを考えて頑張ってきた。


中学に入った時も、そう。
河村君が覚えてくれてなかったことがすごくショックだったけれど。
それでも、諦めきれなかった。
頑張ろうって決めた。







「…今日もタカさんの調子は絶好調だな…。だが力が入りすぎていて多少狙ったポジションからずれている気がするが…。」


いつの間にか、思い出にトリップしていたに背後から声がかかった。
突然の声に、心底驚いて振り返る。
趣味が逆光のその人物は、意図的に作り出した逆光の中、満足そうに立っていた。


「…よく分かるねぇ、乾君。流石、青学1のデータマン。」

「当然だ。それでテニスやってきてるからな。」


的確な答えを返してくる。
時折、眼鏡の位置を直しながら、黙々とデータを書き込んでいるのに、だ。
分厚いノートにはすでにびっしりと文字が埋まっていて、どこに書き足しているかすら見当がつかない。
はそのデータの量や質にいつも感心している1人である。


「それもそうなんだけど…それが凄いんだよ。1試合の間に見切れるじゃない。」

だって選手の体調管理能力は秀でているだろう。
優秀なマネージャーだと手塚も誉めていたぞ。」

「私のはできないとマネージャー失格じゃない。
あ、でも手塚君に言われるのは嬉しいかも。」


が瞬間嬉しそうに微笑むと、それとは反対に乾の眉間に深い皺が入る。


「…俺が言うだけじゃ不満だ、とでも言いたそうだな。」


誰が聞いても不機嫌だとわかる声に、も多少焦って弁解を図る。


「やっ、機嫌損ねないでよ、乾君ってば♪」

「…今度お礼に新作野菜汁を一番に飲ませてやろう。」

「…勘弁してください、乾様。」

「分かればいい。」


そう言った乾の顔は思いのほか楽しそうだったので、からかって言っていたのであろう事が容易に分かった。
…乾の顔を見てが顔をしかめたのは言うまでもない。





「マネージャとして優秀なのは勿論だが…タカさんのことは特に見ているからな。
今日視線がタカさんに向いていた確率は…」

「や、出さないで、そんな確率…。」

「殆ど100ぱ…」


言葉が終わらないうちに、は乾の口を手で塞いで静止する。
レギュラー1身長が高い乾に対するこの行為。
身長が低いにとって骨が折れる行為この上ないが、仕方がなかった。
すぐに足が疲れて手が離れるが、一応乾は黙ってくれたようだ。


「言わないでって言ってるでしょう…?」

「…分かった。だが………だぞ。」


乾は渋々承諾した。が、その後に何か呟いた。
その呟きは十分には伝わらず、結果聞き返すこととなった。


「え?今なんて言ったの?」

「聞こえなかったなら残念だな。2度は言わないよ。」

「…。意地悪…。」


乾は、拗ねるを見て笑った。
その笑顔に対してが反論を仕掛けたとき、不意に乾に両手首を掴まれた。


「じゃぁ…。」


乾の顔がどんどん近づいてくる。
両手首を掴まれているために身動きも取れず、は乾にされるがままになっている。


いきなりの行動に、は慌てふためいた。


「ちょ…何するの…?」

「…いいから、ちょっと黙って。」





そうして、2人の影が、重なった。





テニスコートにいた部員全員の視線が集中したのは言うまでもない。
遠くで、ラケットが落ちる音がしたことも。


乾いた音は、地面に弾かれ、空に散る。
霧散して、消えて。
届かない。
言葉にはできない。


『不燃』の言葉。
『不燃』の想い。





それからしばらくして。


乾は満足そうに微笑みながらその場を後にした。
コート脇に残されたのは、1人。
力が抜けて、その場に座り込む、、1人。



「乾…それ、本当?」





この後、乾は部活内の風紀を乱したという理由で、グラウンド20周を命じられた。
その間に部活は終了し、乾は一人で居残りだそうだ。

のせいでもあるのだが、は上の空で。
着替えを事務的に済ますと、校門へと歩いていった。


「…ぁ…さん!!」


不意に後ろからかかる声。
振り向く前に腕を引っ張られて体制を崩す。


「…河村君?どうしたの?」


声から呼び止めた当人はわかっていたものの、大人しい河村がした行為に、顔には出さなかったが内心は驚いていた。


「や…あの…その…さっき乾と…。」

「乾君と?」


1つ、息を吸い込むと、河村は続けた。
目は、から逸らしたまま。
しかし腕の力は揺るがない。むしろ。
…小刻みに震えている。


「キス…してたよね…もしかして付き合ってるとか…かな…。」

「…。さっきの見てたの…?」

「ご…ごめん…でも俺っ…。」
一瞬の顔を見て、また、逸らす。
一瞬だけ見えた瞳は、真剣そのものだった。


「…ほんとはずっとさんが好きだったんだ。乾じゃなきゃ駄目…だよね。
でも伝えたくて…俺の気持ち知って欲しかったんだ。」

「河村、君…」

「でも、俺ラケット持ってないと頼りないし…ずっと言えなかったんだ。
1年の仮入部のとき…忘れてて、ごめん。
だから余計疑われてもしょうがないんだけど…。
でも…本当は仮入部の日からずっと、俺のそばで笑っててほしいって思ったんだ…。」

「ちょ…待ってよ…。」

「あ、でも俺…乾に敵うなんて思ってないし…。
なんていうか…乾にさんの笑顔を取られちゃうんじゃないかって…。
別に俺のじゃないのにこんな事言うの変なんだけど…。
そ…それだけ、だから。迷惑かけて、しかも足止めまでしてごめん…。」


に言葉を挟ませないように、巧みに言葉を紡ぐ。
顔は真っ赤で、早口に告げる。
そうしてやっとで言い終えると、くるりと背を向け駆け出していった。
あっけにとられていたも河村の走る音に我に返って、その背中に叫ぶ。


「河村君っ!!私も…好きだよ!!」


…河村は、ぴたりと足を止めると、猛スピードで戻ってきた。
荒く弾む息を抑えながら、の手を取り、微笑む。
顔は2人とも真っ赤で、それを見て互いに笑う。


「…ありがとう…。明日から、一緒に帰っていいかな…?
…のこと、送っていきたいんだ…。」


河村の申し出に、はうーんと唸ると、意地悪そうに笑った。


「…その約束は、できないでしょ。」

「あ…やっぱり嫌かな…。」


気を落とす河村の手を握りかえすと、再び笑う。
今度は、とても優しく。


「今日から、でしょ?駄目?」

「…駄目じゃ、ない…。」







「ほら、な。俺のデータは完璧だっただろう?」


玄関をくぐるとすぐ、電話が鳴った。
声の主は、電話の通話相手の確認もせずに誰が取ったのか確信を得ているようで。
名前も名乗らず話を続ける。
…恐ろしい人間だ、いろんな意味で。


ハハハ、と乾いた笑いを返しながら、は先ほど乾に言われた言葉を思い出す。



―タカさんは100%の確率で、のことを想っているよ。―



「…うん。凄いよ。」

「今度、お礼でも期待してるよ。新しいデータとかな。」

「…また何か企んでない?」

「…気のせいだろ。」

「…ホントかょ…。」

「疑うなら、やさ…」

「ごめんなさい、乾様。」

「よし。…じゃぁ、また明日。」


そう言って、電話を終えた。







次の日。
河村はの家にいっしょに登校するため迎えに来ていた。
優しい川原の風に吹かれながら、手を繋いで歩く。


「河村君、小学校の時の約束は、もう河村君が覚えてなくても時効じゃないよね?」

「え?」

「僕が、護ってあげるから。ってやつ。」

「…そんなの…俺のほうがお願いしたいくらいだよ…。」


…顔を真っ赤にして、河村は優しく笑った。



ちゃんの事、泣かせるやつがいたら、僕が護ってあげるよ。
 だから、元気出して。



柔らかな春の日差しを背に、優しい目で河村君は笑ったから。
あのときも、今も。
私は心から照らされた気がした。





心に太陽を。
傍らにはヒマワリを。
2人で輝きあって、育てていこう。
…そうやって貴方と過ごしたい。
暖かな笑顔と、熱すぎるくらいの恋心。
貴方への愛へ変えて。



…もう『不燃』じゃないよね。
貴方が、居るから。





季節が過ぎ。
今日もまた、2人で、過ごしている。





2人で、過ごしていく。





「あ。そういえばさ。」

「何?」

「キスは…ほんとにしてた…の?」

「あぁ…。乾君てほんと、ゴーイングマイウェイな人だよねー。」

「ちょっ…まさかっ…!!」

「なんて、ね。してないよ。

河村君の乾様情報を囁かれただけ。」

「なんて?」

「内容は、教えません。」


そう言ってが走ると、河村も後を追う。
願わくば、この愛が永遠に燃えていますように。







***あとがきという名の1人反省会***
何だか…乾が頑張ってますね。
ギャグテイストを出したくて、乾を出しましたが。
予想以上に楽しかったです。(私だけですかね。やっぱ。

今回、水上 空は重大ミスを犯してしまいました。
これを書き終わって、もう大丈夫だろうと思っていたら。

「キス事件の真相分かってないよ、これ。」

とクレハ嬢にツッコまれました。
アイター。

ということで、無理やりラストに載せました。
馬鹿で申し訳ないです。(反省
こんな水上 空では御座いますが、どうかこれからも見捨てないでやってください(無理だ

それでは、ここまで読んでいただきありがとうございました!!

2004.11.22 水上 空