最近、とても寒い日が続くようになった。
紅く色付いていた葉が、ひらひら舞い落ちることも無くなった。
どうりで、布団に入ると寝坊したくなるはずだ。
忙しさに追われて、考えることもなかったのだけど。
もう、冬だなぁ…。







〜マフラー〜







「…っしゅん!!」
?どうしたのですか?」
二人で出掛けた久しぶりの散歩。
仕事で缶詰になっていたホテルから出て並んで歩く。
暖かなホテルから一歩外に踏み出した途端、はくしゃみをしたのだった。
いきなりのことにLが心配するのも当然で、は苦笑いを返す。

「何でもないよ、ただ気温差があまり大きすぎたからビックリしただけ。」
「なら良いのですが…無理するようなら今すぐ連れ帰りますよ。最近夜更かしが過ぎるようですからね。」
「大丈夫。…て何で夜更かしのこと知ってるの?」
「そんな赤い眼をしてよくそんなことが言えますね…。」
「ご…ごめんなさい…。」
「途中で眠くなって転ばないでくださいよ?」
「はぁい…。」
Lの差し出した手を、有り難く借りることにして。
二人は寄り添うように、冷たい朝の散歩に出掛けた。





が夜更かししている理由。
それはLにマフラーをプレゼントするためだった。



Lは冬になったというのに季節感がまるでない格好をしているのだ。
現に今の散歩の最中も、部屋着と変わらない、トレーナーとゆったりした(むしろダボダボの)ズボン姿。
…かたやはLから厳しいチェックを受け、冬服にダッフルコート、耳当てまで付けている。
それでも寒いのに、Lの寒さは…尋常じゃないと思うんだけど…。



「L、寒くないの?こっちは見てるだけで寒いんだけど…。」
と違って鍛えてるから寒くないですよ。」
「…。さらりと言われても…。確かに鍛えてないけどさ…。」
「大丈夫ですよ。心配性ですね、は。」
「(普段はLの方が心配性だと思う…。)」
そう思いながらLの方を見ると、Lは親指を口に当て、考え込む動作をした。
平然を装ってみたが、時既に遅し。



「…今、何を考えたのか当てましょうか?」
予想していた答えがきっちり返ってくる。
「いいです…ごめんなさい…。」
「普段は私の方が心配し…」
「だからもういいってば!!Lの意地悪!!」
人差し指を立てて、つらつらと言葉を紡ぐLの口を繋いでない左手で押さえて、黙らせる。
と、急にLはふっと笑った。口は塞いでるから、目だけしか見えなかったけど。
朝の光に包まれて笑うLが綺麗だな…なんて考えてたら、一瞬Lから目が離せなかった。
ほんの、一瞬。その隙をLは見逃さなかった。





。」





口を押さえる手をほどくと。
Lにキスされた。
押し当てられたLの唇は、氷みたいに冷たかった。
繋いだ手の温かさとの温度差に、動くことができなかった。





「な…。不意打ちなんて卑怯だよぅ…。」
「でも、顔真っ赤ですし。説得力がないですね。」
「うっ…。五月蠅いなぁ!Lが悪いんでしょー!!」
「はいはい。じゃぁ、そろそろ戻りますよ、。」
クスクス笑うLの背中を追いかけて、ぽかぽか叩いてみたりして。
じゃれ合いながら、ホテルに戻った。
ホテルに着く頃、太陽は暖かな日差しを取り戻していた。







朝の散歩が長引いたのか、時間は思っていたより経っていて。

「お帰りなさいませ。今日は少し長めの散歩でしたね。」

と、ワタリさんに笑顔で出迎えられた。
Lはホテルには既にキラ捜査本部の人たちが待っていることを告げられた。
捜査本部の人が来ているときは邪魔をしないようにしているから、今日はこれから私一人で過ごさなければいけない。
マフラーを編むには最適の時間だが、散歩から帰ってすぐこれでは、少し淋しい。
Lも同じ気持ちだったのか少し嫌な顔をしていたが、すぐにいつもの真剣な顔に戻っていた。


、すみませんが一段落するまで部屋で待っていてもらえますか。」
「うん、良いよ。お仕事頑張ってね。」
ひらひら手を振って、隣室に引っ込む。
しかしその動作を終える前に、Lに腕を掴まれた。



そして、耳打ち。



「お茶の時間は一緒にとりましょう。…捜査本部の人が邪魔ですが、それでも良いですか?」
「うん、ありがとう、L♪」
Lの言葉が嬉しくて、自然と笑顔になったんだけど。
Lが優しく微笑んでくれたから、余計に嬉しくなった。







さてさて。Lの為にマフラーを編み始めて、今日は早3時間。
そろそろお昼の時間だし、いつもはお腹が空いてたまらない時間。
今日のは、黙々と作業をするあまり、ご飯のことなんてすっかり忘れていた。
そこへ、コンコン。
ドアのノックオンが響く。


ふと目線を上げると、ワタリさんが昼食を持って苦笑しながら立っていた。
編みかけのマフラーを隠そうかと思ったが、潔くあきらめることにした。
ワタリさんには、敵わない。たまに、Lよりも強者だと思うときだってある。
足掻いたって無駄というものだ。


「あ…見つかっちゃった?」
「…ここ数日編み物をなさっていたのは存じておりましたよ。
 それより、お昼を食べて頂かないと…。」
「あ、ありがとう。ごめんね、Lにも怒られるんだよね?」

Lは私がご飯を食べないと、決まってワタリさんに怒るようになっていた。
だから、今のような状態に陥るとワタリさんは困るのだ。
この前、食欲がないと言ったときにもワタリさんがLからお叱りを受けていた事を思い出す。
それ以来気を付けていたのだが…。どうやら集中しすぎたみたいだった。

「それもそうですが…さんが元気でいて頂かないと私も淋しいですからね。」
「…心配かけてごめんなさい…」
「いえいえ、私が勝手に心配しているだけですから。それに…。」
「それに?」
不思議そうに首をかしげるを見て微笑みながら、ワタリは続けた。



「捜査の時と、あなたの前と、竜崎のギャップはいつ見ても笑えますからね。」



「…。Lが聞いたら怒るよ…?」



ええ、だから…とワタリは人差し指を立てて、意地悪っぽく笑った。
「竜崎には、内緒ですよ?」
「編んでるのも、内緒ね?」
もワタリの真似をしながら笑う。
2人の、秘密だ。
笑顔で部屋を出て行くワタリに、はもう一度ありがとうを言って。
ワタリの好意を有り難く受けることにして、昼食を摂ることにした。





昼食を食べ終えて、再び作業に取り掛かる。
マフラーはすでに9割ほど完成しており、ラッピングを残すのみとなっていた。
この分なら、今日にもLに渡すことができそうだ。
「喜んでくれるかな、L…。」
幸せそうにつぶやきながら、は残りの作業に取り掛かった。





「…よっし…完成〜…。」
は、マフラーを編み終えた。
縮こまっていた身体を大きく伸ばして、体をほぐす。
そのとき、ジリリリ…と隣の部屋で、目覚まし時計の鳴る音がした。
Lのセットしたおやつの時間の合図だ。
とたんにコンコン、とドアがノックされて、いつも通りワタリが迎えにくる。
「…出来たようですね。お茶の準備が整いましたよ。」
「ありがとう、今行きます。」

いつものように返事をして、隣室へつながるドアに向かう。
もちろん、手にはラッピングしたマフラーを持って。



。こっちで一緒にお茶を飲みましょう?」
パタパタという私の足音を聞きつけて、Lが振り返る。
もちろんにっこりといつものように笑って。
私もいつものようにLの隣へ腰掛ける。

「…?その包みは…?」
手に持っていた包みに気が付いて、Lは首をかしげた。
「あのね、Lにプレゼントだよ♪」
手渡すと、Lは少しの間黙ってしまった。


…やっぱり、今は渡さないほうがよかったかな…などと考えていると。
「…今、開けても良いんですか?」
ポツリと、Lは言った。


そう聞いてきた割に、答えも聞かずに開けているのだけど。
顔は、無表情に近いけど、喜んでくれてるのは間違いない。





「これ…。」





包装の中からは、先ほどまで編んでいた、マフラーが現れる。
白地に、ピンクのラインの入った、ちょっと長めのマフラー。
「最近ね、寒いから。心配になって編んでみたんだ。気に入ってくれる?」
ニコニコ答える私を、しばらくLは見ていたけれどふいに、視線をそらした。



俯いているから表情はわからないけど、頬はマフラーのラインと同じ、ピンク色。



「…嬉しいです…。最近の寝不足は…このせいだったんですね。ありがとう…ございます…。」
照れてるLが可愛くて、自然と笑顔になる。
こんなに喜んでくれるなんて思っていなかったから、余計に。



「…ですが…少々困りましたね…。」
「え?」



実は…とLは部屋の隅から紙袋を持ってきた。
中から、何かを取り出す。
それは。
濃紺に、白のラインの入った、マフラーだった。
しかも、私が編んだのよりも、断然、上手い。
呆然とマフラーに見入っている私を見ながら、Lが言葉を続けた。



「…私も編んでたんですよね…もちろん、にですが。柄まで一緒とは…。」
「…!?」



そうしてLは驚きのあまり固まってしまった私に、逆に驚いておろおろしていた。
そんなLに代わってワタリがゆっくりとことのいきさつを語りだした。





実は最近、朝の散歩に行くたび、くしゃみをしていた私。
そんな私を見て、Lの心配性が炸裂し、何か良い手立ては…と考えた結果がこれだとか。
…まぁ、入れ知恵をしたのはワタリさんだそうなんだけど…。
で、事の全貌を知ってたのはワタリさんだけ。





Lと協力してワタリさんに追求したら、
「隠していた方が楽しみが膨らんで良いじゃないですか。」
と、さらりと笑顔で言われてしまった。
Lの追求にも少しも笑顔を崩さないワタリさんが、やっぱり強者だと、思った。



ワタリさんの追及に時間をかけすぎて、お茶の時間は瞬く間に過ぎていった。
最終的には、お互いに、「相手の作ったマフラーをする」で意見をまとめたんだけど。
Lが私の作った、風通しの良さそうな(それでも頑張ったんだけど)マフラーを嬉しそうに手に取るので、ちょっと胸が痛かった。
もう少し、編物上手ければ…なんて考えていたのもLにはお見通しだったらしくて。
が作ってくれたものって所が一番重要なんですよ。」
と、Lは私の頭を撫でた。
とは言え、Lのほうが編物上手なんてちょっと意外…と言うか、悔しい。
だから、今年の冬は、手編みのもの、いっぱい作ってLを喜ばせようなんて、考えてた。





「竜崎が…笑って…しかも照れた…。」
「なんかすごい位置に居合わせちゃったよな…。」
「からかいでもしたら竜崎の追及が怖いかな、やっぱり…。」
「お前…それはさすがに命知らずだろう…。」
「でも一番驚いたのはやっぱ…」





―…竜崎がマフラー編んでた事実だよなー…―





肩を震わせて笑う捜査本部の人たちに気づいたLが、どんなお仕置きをしたのかはわからないけど。
泣きそうな松田さんを見たとき、お仕置きが相当きつかったんだろうと、容易に想像できた(松田さんは顔に出やすいから)。







次の日から、Lは私のマフラーを、私はLのマフラーをして、散歩に出かけた。
Lの作ってくれたマフラーは暖かくて、Lの首に巻かれるマフラーを見るたび、やっぱりちょっと胸が苦しくなる。
そのたび、Lはやさしく私を抱きしめ、キスをする。

Lの手は、やっぱり暖かくて。
唇は、やっぱり氷みたいに冷たかった。
「…。」
「何?」
「私には貴女が居てくれるだけで暖かいですから。これからも、私のそばで私を暖めていてくださいね。」
「…照れさせて楽しい…?」
「えぇ。照れるは可愛いですからね。もっと見ていたいくらいです。」
「意地悪…。」
「でも、言ったことは本当ですから。」
Lがふわりと笑う。私も、真っ赤になりながら笑う。
「…さぁ、そろそろ帰りましょうか。」
「はぁい。」





くるりと踵を返し、きた道を再び歩き出す。
おそろいになった長めのマフラー。
ふわりと、風に揺れた。







***あとがきという名の1人反省会***
ギャグが書きたくなりました。(キッパリ

水上 空は根っからのお笑い好きです。
甘いのとか、本当は苦手なんです。
どうしてもこう…途中でお笑いの神が降臨しかけます。(笑

今後もどこかにギャグが入る作品があると思います、あらかじめご了承ください。(ペコリ


今回は、この前書いたのがあまりに会話文が少なかったので、会話文を多めにしました。
ワタリさん&松田さん(のボケっぷり)大好きな水上 空は書いててとても楽しかったです。
ワタリさんが何気にキューピットっていう話を書いてみたかったのもあって、実現出来て良かったです。


…何だか自己満足の象徴な作品ですみません。(汗

では、ここまで読んでいただきありがとうございました!!

2004.10.19 水上 空