今日、久しぶりに陸地についた。
ほんとはもう少し前につけるはずだったんだけど。
天候のことは、神様しか操れないから、仕方ない。
ナミが、ログがたまるまで、10日掛かるって言っていたから。
この島で、のんびりと休息が取れるように最善を尽くすんだ。
傷ついた、仲間の為に。
オレが、できること。一つ一つやっていくんだ。
だって、俺は船医なんだから。







〜道端に咲く花〜







昨日、一昨日と凪が続いた。
凪さえなければ、戦いに巻き込まれたりしなかったのに。
が、戦って、傷つくことも、無かったのに。
そうしたらきっと。
今、こんなに熱で苦しんでなくて。
オレに笑いかけてくれるのに。





事の発端は、ある海賊団が、喧嘩を吹っかけてきたことだった。





グランドラインに入ってから、凪が続いたのはこれで2度目だった。
見張り以外はすることも無くて。
ゆったりと時が流れていた。



ー!一緒に遊ぼう!!」



甲板の扉を勢いよく開けて、目標の人物に声をかける。
は、いつものように、みんなの洗濯物を干していた。
白いシーツに、透けるようなの白い肌。
太陽の光があたると両方キラキラ光って見える。
絵に描いたような綺麗な光景に、チョッパーは目を細める。
天使みたいな笑みを溢す
オレはの笑顔が大好きだった。

「いいよ。でも、洗濯が先ね?」
「じゃぁオレも手伝う!!」

の隣で、オレも笑ってお手伝いをして。
透き通った、の音楽みたいな声を聞いて。
隣で、が笑ってくれるのが、凄く嬉しかったんだ。



そこにいきなり現れた海賊団。

いつの間にか甲板には人だかり。

下卑た笑いがオレとを取り囲んだ。

ルフィたちに助けを呼ぶ前に襲ってきて。


「死ねや!!」


物騒な言葉とともに、剣をオレに対して振るった。

変身が間に合わなくて。
『船医』のオレには、避ける事もできなかった。





あの剣は、オレを切り裂くはずだったんだ。





「チョッパー…。」


後ろから、いきなり声をかけられた。


「ロビン…どうしたんだ?まだ、昨日の傷が痛むのか?」
ロビンもまた、昨日の戦闘で傷を負っていた。
軽傷ではあるが、痛くないわけがないのだ。

「そうじゃなくて…貴方の事よ。看病代わるから陸に下りてみたらどう?」
「…でもオレ…」
「あなたの責任じゃないのよ。あなたが気に病んだら、は余計に哀しむわ。」
困惑して、言葉を捜すチョッパーに、ロビンは苦笑した。
「街で、薬の材料を買ったり、の為に何か見つけてきてあげるほうが良いと思うわ。」
言い添えると、チョッパーも納得したのか、ほんの少しだけ笑顔を見せた。

「そうだよな、じゃぁ、陸でイイモノ探してくる!!」
「行ってらっしゃい、のことは任せてね。」
「うん!!」
今度こそ、チョッパーは元気に笑って部屋を出て行った。



「貴女も…チョッパーには元気でいて欲しいわよね…。」



やわらかく微笑んで、ロビンはのベッドの横に腰掛ける。
チョッパーの鎮痛剤が効いているのか、は深い眠りに落ちている。
時折、熱にうなされるの汗を拭きながら。
の寝息を聞いていた。





街に出たチョッパーは、久しぶりの街を楽しむことは無かった。
思考は次第にのことで埋め尽くされていく。





あの剣は、オレを切り裂くはずだったんだ。





咄嗟の反応ができなかった。
相手の剣先が。
スローみたいに見えて。
チョッパーは斬られる事を覚悟した。



「あれ…痛くない…。」
目をつぶって、縮こまっていたが、いつまでたっても衝撃がこなかった。
恐る恐る目を開けると、血だまりが見えた。


その中央で、倒れているのは。


白い肌。


柔らかい髪。


…。間違いなく、だった。



「チョッパー…無事ね…良かった…」



微笑むの顔は、血に汚れて。
力なく微笑んでいた。

こんな笑顔が、見たいんじゃないのに。

顔は見る見る血の気を無くしていく。





「う…そだ…嘘だ、嘘だ!!こんなのうそだぁぁぁああああああああああ…っ!!」





絶叫。

駆けつけた、仲間にも、悲鳴。

オレは船医なのに泣き叫ぶことしかできなくて。

応急処置を施してやることができなかった。



結局は、止血はゾロとロビンがしてくれた。
オレを落ち着かせたのは、ナミ。
正気を取り戻してからオレは、ずっとの看病をしていた。
幸いは命に別状は無かった。
傷が大きいから、熱が出たけれど。
生きていてくれて、本当に良かったと思う。





薬の材料を買い揃え、来た道を戻り始める。
とぼとぼ、下を向いて歩いているチョッパーには、地面以外は見えていなかった。

そこに。

道路の脇に、小さな花を見つけた。
目線を上げるとそこには大量に、紫色の花が咲いていた。


「綺麗だな…。」


風に揺れるその花は、可愛らしくて、チョッパーはその場に立ち止まって景色を見ていた。



「!そうだ!!」



チョッパーは叫ぶと、花の群れの中に駆けて行った。







「ただいま!!ロビン、は!?」
船に戻ると、ロビンはキッチンから出てくるところだった。
手には食事を持っている。

「さっき目を覚ましたところよ。栄養つけるために、ご飯食べさせようとしてたんだけど。
チョッパーがやった方が良さそうね。貴方の事、探してたわ。」
要点だけをざっと述べて、食事のトレイをチョッパーに押し付ける。
邪魔をしないように、気を利かせたのだ。
「…っ。ありがとう、ロビン。行ってくる!!」
それだけ叫ぶと、パタパタとチョッパーは走り去った。



チョッパーの後姿を、ロビンは優しく見守る。
「チョッパーのお土産、チョッパーらしくて可愛い…喜ぶわね。」
チョッパーの手に握られたお土産に、ロビンはやわらかく微笑んだ。





バンッ!!
大きな音がして、チョッパーが部屋に飛び込んできた。
ベッドの上で体を起こしていたは、いきなりの大きな音に驚き、一瞬固まっていた。


っ!!起きてて平気か?苦しくないか?」
おろおろして自分に質問するチョッパーに苦笑しながら答える。
「大丈夫だよ、チョッパー。もうそんなに痛くない。」
「でもっ…まだ熱はあるだろ?痛くないか?」
「平気。看病、ありがとう。逆に辛い思いさせてごめんね。」
は、いつものように微笑んでいた。

その顔はまだ青白く見えたけど。

いつもと変わらない優しいの笑顔も。

頭を、撫でてくれる小さくて、柔らかい手も。

オレの知っているだった。





涙が、零れた。





嬉しいからなのか、哀しいからなのか。
分からないけれど。
ただただ、涙は溢れて、零れて。
に抱きついていた。

「…チョッパー…ごめんね…。」
「オレこそ…ごめん…。」



慰めてくれるの手が、今の俺には優しすぎて。
しばらく、涙が止まらなかった。


その間ずっと。


は背中を撫でていてくれた。





「…そうだ、。これお土産。」


涙を拭いて、右手を差し出す。
そこには、さっきの紫色の花が握られていた。
「…蓮華だ…。ありがとう、チョッパー。綺麗ね…。」
は微笑んで、受け取ってくれた。

「オレ、れんげいっぱいあるところ見つけたんだ。
ログがたまるまで、まだまだあるから。怪我が治ったら一緒に行こう。」

の笑顔に、つられて笑うと。
は目を輝かせて喜んだ。





ログがたまるまで後1日。
つまり、明日オレたちはこの島を去る。
の怪我は未だに完治はしていなかった。
ルフィ達と比べてはいけないのだが、治りは普通よりも遅い感じがした。
約束を果たす為、朝からを連れて、船を下りた。

「ちょ、チョッパー!?一人で歩けるってば!!」
「だめだ。フラフラなんだもん。危ないよ。」
人型にトランスして、を抱きかかえた。
最初のうちは抵抗していただったけど。
暴れて体力を使い果たしたのか、観念したのか、途中から大人しくなった。
その分、道中ぶつぶつ反論されたけど。


「チョッパー…せめて抱っこの形変えてよ…」
「傷に響かないのはこれしかないってば。が痛いのなんて嫌なんだからね。」
「でもこれ、俗にお姫様抱っこというんだけど…」
顔を真っ赤にしてぼそぼそつぶやくはとても可愛かった。
はほんとにお姫様みたいだから、別に間違っていないのにな、と1人考えて笑った。



れんげ畑に着くと、は歓声を上げてろ喜んだ。


道端に咲く、れんげにも、は喜んでくれるから。
きっとほんの些細なことでも、喜んで、笑ってくれるよね。

「チョッパー、ありがとう。大好き…。」
「オレも、、大好きだぞ!!」

今度、敵がきたらやっつけてやるから。
それまで、傍で、笑ってて。
護るから、オレに元気をちょうだい。





道端に咲く花に喜ぶ君を。
今度は何で笑わせてあげようかな…。







***あとがきという名の1人反省会***
…チョッパーが好きだー!!(叫
可愛らしいチョッパー、大好きです。
戦闘能力は持ってないけど、その分強い意志や、素直な心が彼の魅力だと思います。
…チョッパーの半分は、優しさでできています(ォィ
一回言ってみたかったんです。これ(笑

お見舞いのイメージって、花束とかお菓子のイメージが強いんですけど、
本当は気持ちだけでも嬉しいんですよね。
傍で他愛のない事話してくれたりとか。

という訳で、今回は気持ちと思いやりがある種のテーマです(内容で分かるように書いとけ
チョッパーの優しさに酔ってください(笑

では、ここまで読んでいただきありがとうございました!!

2004.10.21 水上 空