光を受けて、キラキラ光る。 お前からもらったガラスのコップ。 繊細な曲線に、凝った創り。 それは常に、儚く脆い。 お前には俺が。 こう見えているのか? 俺にはお前が。 こう見えているんだ。 〜ガラス細工〜 「んん〜…」 見張り台から、大きく伸びをして。 は縮こまった身体を解す。 気が付けば、もう日が昇りかけていて。 辺りを囲む海の色も黄金色に輝きだしている。 見張りの交代の時間はとっくに過ぎているが肝心の交代要員がまだ来ない。 まぁいつものことだから何も言わないが。 そろそろ不機嫌な声で現れるのだろう。 「、交代だ。」 「遅い…。」 「朝は眠いもんだ。」 「その言い訳は聞き飽きたってば。」 見張り台をゆっくりと上がってくる人物の、顔も見ずに答える。 ランプの光に照らされて光る緑の髪。 視界の端に入ったそれはいつもの目を惹きつける。 ちらり、とそちらを見やる。 いつものように、ゾロはそこで笑っていた。 次の瞬間には、ゾロは優しくを包み込んでいた。 夜の見張りで冷え切ったの身体とは違い、ゾロの身体は暖かかった。 求めていた暖かさに、は思わずゾロの背中に腕を回す。 「…冷てぇ…。」 「そんな事言うなら離してよ…。」 「嫌だね。だってそうだろ?」 そう言って、ゾロはにっと笑う。 ゾロの言葉にもひとつ頷いて、微笑みを返す。 はゾロの腕に中にいるから顔は見えていないのだが、お互いの顔は容易に想像できる。 苦笑しながらの会話。 抱きしめる腕の力は強く、甘い。 「…さすがに喉渇いたんだけどな。寒いし。」 しばらくして、が先に口を開いた。 ゾロが来る前に比べれば、はるかに暖かかったのだが。 喉が渇いていたのは本当だった。 ゾロはしばし動きを止め、何かを考えているようだった。 瞬間。 身体が、浮いた。 「暖めてやるよ、すぐに。」 いつの間にかゾロはの腕を抑えていて。 の足の間にはゾロの足が置かれていた。 自分が押し倒された状態にあると気づいたのは、ゾロから言葉がかけられた後だった。 ゾロの言葉は耳元から響いて、を困惑させる。 熱い吐息が耳を擽り、ゾロの舌の感触が伝う。 ぴちゃ…と舌の這う音はの身体を熱くする。 「ちょ…ゾロ…?」 想像以上に裏返った声。ぴくりと反応した身体。 そのどちらもが嬉しくて、ゾロは身体を少しだけ起こす。 愛しいを見ると、案の定顔は真っ赤で、思わず笑みが浮かんでくる。 こういうときのゾロの笑顔は、憎らしいほど色っぽくて。 は目が、逸らせなかった。 「喉も…俺が潤してやる。」 それだけ言うと、ゾロはゆっくりとの唇を塞ぐ。 驚いたことで微かに開いた隙間から強引に舌が進入する。 時に乱暴に。時に優しく。 ゾロの舌はの舌を絡めとった。 ふっと離れた口は、の喉元あたりに落とされる。 白い肌に、くっきりと紅い標が残る。 「離してよ…ゾロ…。」 「嫌だって言っただろ。」 抵抗空しくゾロは行為をヒートアップさせようとしてくる。 「駄目だってば!!見張りが先!!」 ゾロ耳元で、力いっぱい叫ぶと、あまりの声量にゾロの動きが一瞬止まる。 その隙に、腕の拘束から抜けると、は立ち上がった。 下から不満そうに見上げてくるゾロを横目で睨みながらその足で見張り台から降りていく。 「…。どこ行くんだよ…。」 すたすたと船内に消えていくに言葉をかける。 声色は、さっきまでとうって変わって弱々しい。 はその言葉に振り返ると、悪戯っぽく微笑んだ。 「飲み物。持ってきてあげるから一緒に飲もう。」 の無敵の笑みを目の当たりにしたゾロに、抵抗の余地はなかった。 キッチンにつくと、すでにサンジが朝食の支度をしていた。 後ろからダイビングして抱き付いてみる。 途端、うぉ、あぶねぇ。などと声があがるが気にしない。 「おはよぉ、サンジ君!」 ニッコリとエンジェルスマイルをつけて挨拶をすると、不機嫌だったサンジはニッコリと笑みを返した。 (…サンジの笑みがニッコリに見えたのはだけで、傍目からしたら目がハートになって見えるのだが…) 「おはよ、ちゃん。今日も可愛いよ♪」 「今日も見え透いたお世辞ありがとー♪」 「いやお世辞でなくてほんとに思ってるんだけど…。」 「どっちでも構わないよ♪」 ここでもニッコリとエンジェルスマイルをひとつ。 その笑顔で当然サンジの口説きにも熱が入る。 …普段からゾロに対抗意識を燃やして、に軽く流されている分余計にだ。 の顎を掴み、自分に向き直らせる。 当然、もう片方の手は腰に回している。 「本当だって。いつも言ってるでしょう?」 「ナミにもロビンにも言ってる人にそんな発言は認めません。」 「…ゾロより俺のほうがちゃんを大事にするよ。」 「そんなことより、紅茶入れたいんだけど。もちろん、退いてくれるよ、ね?」 と、ここへきて女でも見惚れるような最強のエンジェルスマイル。 の顎を掴んでいたサンジは、その笑顔を超至近距離で見てしまった。 …あえなく、撃沈。 顔は当然のごとく真っ赤である。 「やられた…。可愛すぎる…。」 この日の朝食が遅れたのは、また別の話。 そうして今日もサンジをかわしたは目的だけ達成して悠々と姿を消したのだった。 が見張り台に帰ってきたときにはすでにゾロはまた眠っていた。 「寝るの早すぎ…。」 苦笑とともにため息をついて、無防備な未来の大剣豪を見つめる。 あまりに気持ち良さそうにしているので、の中に悪戯心が芽生え始める。 にっこりと(むしろにやりと)笑ってゾロの後ろに回りこむ。 「ゾロ、はい。」 ぴたりと頬に冷たいコーヒーの入ったコップをつける。 瞬間、ゾロの肩がびくりと震えた。 はゾロのびっくりした声を期待していたのだが。 ゾロが繰り出したのは。 一本の愛刀だった。 切っ先は寸分の狂いなく、の喉元に突きつけられている。 覚醒した瞳には、殺意が宿りを刺す。 カシャン… ゾロの放つ殺意に硬直したは持っていたコップを落とした。 顔色は真っ青である。 コップは見事に砕け散り、とゾロに紅い、華を咲かせる。 そのわずかな痛みに我に返ると、ゾロはの喉に突きつけた刀を鞘に戻す。 「脅かすんじゃねぇよ…刀突きつけて悪かった。」 そう、一言添えて視線を逸らした。 しばらくしてやっとは言葉を紡いだ。 「脅かしてごめん…。」 後ろから優しくゾロを抱きしめた。 いつもなら抵抗するゾロは、何故か黙っての腕に抱かれていた。 「陸…着いたらさ…」 「あ?」 予想していなかった言葉に、ゾロは瞬間的に聞き返した。 振り返ると、肩越しに笑うの顔があった。 その目は少し赤かった。 しばし呆然と見つめるゾロに、もう一度、今度は飛びっきりの笑顔を見せて。 「新しいコップ、買いにいこうね…!」 「あぁ…」 は、ゾロを抱きしめる腕にもう一度力をこめた。 約束は、案外早くに果たすことができた。 陸を見つけたのは4日後。 上陸したのは5日後。 久し振りの陸地に誰もがはしゃいで、船を大急ぎで下りていった。 それはも例外ではなくて。 「約束の、コップ買いに行こう!」 と朝早くから耳元で騒がれた。 そんなに慌てなくたって。 俺がお前の笑顔を潰すはずねぇのにな。 が俺を引き連れて向かったのはガラス屋で。 そこで、約束を果たした。 おまえが選んだのは、薄い緑がかったガラスのコップ。 光を受けて、キラキラ光る。 飴色にくるくると変わるそれは、ゾロでさえも惹きつける。 「ゾロ、ほかには何か欲しいものある?何とかできるものならするよ!」 いつの間にか、はゾロの後ろに回りこんで、肩口から顔を覗かせていた。 可愛らしく笑うに、ゾロも微笑み、頭を撫でた。 「。」 「え?」 「が欲しい。」 耳元で囁くと、は見る見る間に真っ赤になった。 そんなを見て、ゾロは笑みを深くする。 「船、戻ろうぜ。。」 真っ赤になったまま差し出されたゾロの手を取って、はゾロと並んで歩き出した。 あれから、毎日使っているコップ。 暴力コックにも絶対に触らせない。 お前からもらったガラスのコップ。 繊細な曲線に、凝った創り。 それは常に、儚く脆い。 だから神秘的で、美しい。 お前には俺が。 こう見えているのか? 俺にはお前が。 こう見えているんだ。 飴色に笑い、俺を狂わせる。 儚く、脆く、神秘的で。 コップのように壊れやすい。 お前からもらったコップを大事にするように。 それ以上にお前を護りたいと想っている。 それと。同時に。 壊したいのも事実だ。 永遠に手に入れるには壊すのが手っ取り早い。 鳥が羽を失ったら飛べないように。 壊してしまえば、殺してしまえば。 お前は俺の前から居なくなりはしないだろう? 愛は、猟奇的なココロも生むんだな。 お前の息の根を止めてまで。 お前を欲する俺がいるんだ。 今だって俺はお前を目で追いながら。 お前の全てを壊したい欲望と戦ってる。 飴色の笑顔も。風に靡く髪も。 すべてが狂気に導く材料だ。 そうだな、例えば。 儚く脆いお前の喉を、俺のこの手で握ったのなら。 お前はどんな顔をする? …俺はどんな顔をする? 握りつぶしてしまったのなら。 お前はガラス細工のように壊れてしまう。 飴色に輝く笑顔も。 風に靡く綺麗な髪も。 壊れてしまったら色を失うのか? お前が欲しい。 その瞳に写る景色も、向けられる笑顔も。 声も、息も、鼓動さえも俺の手に。 壊したのなら、傍に居れるのか? 壊したのなら、傍には居られないのか? 壊したい。壊せない。 壊したい。壊せない。 もう少し。考えよう。 お前を独り占めするには。 お前をこの手で壊せば良いのかを。 殺せば良いのかを。 ガラス細工のようなお前は。 壊すのが、簡単だから。 。まだ、この計画に気づくなよ? そうだな、もしも。 万が一気づいてしまったら。 お前は俺を、どう思う? これは突発的な想いじゃない。 狂ってるわけでもない。 愛しているから。傍に置きたいんだ。 こんな俺を見捨てないように。 俺の、傍から飛び立たないように。 怯えられたら、そのときは、タメラワズニ…。 ―――ガラスザイクノヨウニ、チラセテヤルカラ――― ***あとがきという名の1人反省会*** …え〜っと…。 これはですね、水上 空が落ち込んでたときに書いてたものです。 後半特に暗黒かって言うくらい落ち込んでたので。 ゾロが、というか水上 空が壊れていました。 何だか暗くてすみません(反省 でもゾロが思ってる事は、独占欲の最終形なんじゃないかなって思います。 離したくない、閉じ込めたい。 それって誰でも思うことだと思うのですよ。 まぁ、本当に人を殺めたら問題ですけど。 と、とある本(朱雀やら青龍やら出てくる某漫画です/古)を読んでて思いました。 あれですね、誰かに殺されるくらいならいっそ私がってやつです。 そうしてずっと一緒にという我侭な愛ですな。 好きな人にここまで思われると…どんな気持ちなんですかねぇ? …この作品はもう…主人公さんの取り方にお任せします!!(泣 逃げさせてください、ゾロファンの人の視線が痛いんでっ!! …もういっそ苦情お待ちしてます!!(そんなもん待つな では、ここまで読んでいただきありがとうございました!! 2004.11.4 水上 空 |