誰にでも受け入れられないものがあるように。
私にだって苦手なものはある。
苦手なものは、どう足掻いても克服できない。
どうしても。
苦手は苦手で。
試しても、考える力は低下する一方だったから。
いつの間にか、試すことさえしなくなった。







〜甘くて苦いもの〜







「Lって、いつも紅茶だよね…。しかも砂糖いっぱいの…。」
「…いきなり何を言うんですか。」


ある日のお茶の時間、は幸せそうにケーキを頬張るLを見てつぶやいた。
Lは、気が付くといつも甘いものを食べている。
それは、ケーキだったりクッキーだったり、日によってまちまちだが。
が食べるものの5倍くらいの砂糖を使ったのではないかと思えるものばかりだ。
いつものように飲んでいる紅茶だってそうで。
ミルクはたっぷり。砂糖もたっぷり。
ストレートで飲んでいるところなんて見たことがない。



極度の甘党だ…。



それなのに、一向に太る気配が無い。
むしろLの身体には余分な脂肪なんてものが存在していないように見える。
にしたらまったく羨ましい体質である。


「…Lの甘党がどのくらいのものなのか知りたくて。」


コーヒーをすすりながら上目遣いにLを見る。
好奇心だけでいった言葉だったので、Lが気分を悪くしていないか怖かったのだ。
するとLは自分の紅茶のカップをじっと見つめ、何かを考える仕草をした。



「…これ、飲みますか?」



そう、カップを差し出す。
カップを差し出すLの顔は何処か不安げであった。


「う…うん…。」


その表情を見て、の表情も曇る。
カップを受け取ろうとした手に緊張が走る。
匂いを確認してから、一口啜る。



確認してから、口に入れるまではかなりの間があいた…。
口に入れた後もはしばし言葉を失い固まっていた。



「美味しいですか?にはちょっと向かないでしょう。」
「…。甘…。」
楽しそうに言うLとは逆にの表情は真っ青である。

「頭を使う仕事には充分な糖分が必要なんですよ。」
「それにしてもこれは甘すぎると思う…。」
「頭を働かせるんですからそのくらいは必要ですよ。」
「何かそれ私が頭使ってないみたいじゃない。」
「そんなこと言ってないですよ。」
「甘すぎても身体壊すよ…?」

Lのことを心配していっただが、Lからは思いもよらない言葉が返ってきた。
が普段コーヒーなんて呑むからそう思うだけですよ。これが普通です。」



絶句。



これが普通だというLという人物が、は一層分からなくなった。
それとは逆に、Lの言葉からはある事が分かった。


「L…コーヒー、嫌いなの?」


恐る恐るが聞くと、Lは誰が見ても(おそらく松田さんにも)分かるような不機嫌オーラを出し始めた。
瞬間、は固まる。
こういうときのLはとても、怖い。
Lは固まったを見ても不機嫌オーラを隠しもせず、言い放つ。


「あんなもの人間の飲み物じゃありません。」
「ちょっと位呑んでみたら…?」
「嫌です。」


同時にぷいっとそっぽを向くL。
普段は推理も物言いも目を見張るものがあるのに、こういう所は子供っぽい。
可愛らしいLの仕草にはいつも笑ってしまう。
どれだけLが不機嫌なときであったとしても、だ。
Lはそんなを見ると決まって、拗ねてしまうのだけれど。
にはそれすらも可愛らしく見える要素のひとつに過ぎない。





その後しばらくは、声を抑えて笑うと、拗ねるLという構図。
…傍目からしたらとても面白い構図が続いていた。





しばらくして、やっと笑いが収まってきたのかが自分のカップを取った。
ゆっくりとスプーンをまわす。
スプーンが光を反射して、キラキラ輝く。
はさっきと同じ笑顔で、Lにはそれが一枚の絵のようで。
に目線が惹きつけられたのが良く分かった。


目線が合ってからは一言、言った。
「じゃぁ、飲ませてあげるから。」
「え…」
おどろきに目をいつも異常に見開くL。
その瞳には、困惑の色しかなかった。
コーヒーに対する嫌悪感より、驚きが勝ったらしい。


「はい、目、閉じてね、L。」
「は…はい。」


Lに何か言われないうちに、は先手を打った。
にっこりと微笑むにLが勝てた試しは未だかつて無い。
素直に言葉に従い、目を閉じる。
カチャカチャとがスプーンを、かき回す音がLの耳に届く。
Lは視覚が奪われると、こうも不安になるのかと改めて実感する。
どきどきと、その一瞬を待つLだが、未だ、コーヒーが口へ運ばれる気配は無い。
スプーンの音からするに、味の調節をしてくれているのだろうが。
は、いつも決まってコーヒーはブラックだったので。





「(…死刑囚ってこんな感じで執行を待つんでしょうか…)」





と、おかしなことを考えてしまう。
思ってから、自分の思考に苦笑する。


しばらくして、
「できた!」
と可愛らしい声が響いた。
間を置かずにLの鼻孔をコーヒーの匂いがくすぐる。



「はい、あーん♪」



これにも素直に従って口を開ける。





…ゴクン…。





「美味しい?砂糖とミルク多めに入れてみたんだけど…。」
目を開けると、そこには不安げに首を傾げるの姿があった。


「…苦い…です…。」
「どれだけ甘党なのよ…。」


素直に感じたことを口にしたLに、は苦笑した。
Lは苦渋の表情で。
その顔を見て、または笑った。
しかしLが飲まない以上、それはが飲むしかない。
はL用に作ったコーヒーを飲んでやっぱり甘いなぁと顔をしかめる。
それでも、責任とばかりに飲んでいく。





「…じゃぁ、もう一回飲みます。」
「え、でも…。」


ガタンと音を立てて立ち上がると、Lはの方に向かう。
急に言われたLの言葉に驚き、顔を上げるとLの顔が間近にあった。
からカップを取り、口へと運ぶ。
ふいに、重なる影。
の身体の自由を一瞬に奪う。







「!?んん…っ…。」







深く重なる唇から、一筋のコーヒーが顎へとつたう。
Lの白い服に、新しいシミが広がる。
そうしてLとは何度も、仲良くコーヒーを分け合った。
コーヒーが無くなった後でも、Lはを放そうとはしない。
ただ、深く、優しく、キスを繰り返す。





「今度は、美味しいですよ、。甘くて。」
「…馬鹿…。」
にっこりと微笑むL。
かたやはこれ以上ないほど真っ赤だ。
その表情を見て、Lは笑みを深くする。


「また今度、こうやって飲ませてくださいね。」
「や、もうしないって。」


慌てて首を振るが可愛らしくて。
Lは、再びを抱きしめる。
今度は、自由を奪うのではなく。
包むように優しく。
そして、の耳元で囁く。


からなら、喜んで飲みますから。」
「…耳元で言うの反則…。」
「だから、またしてくださいね。」


の言葉を笑顔で交わし、抱きしめる腕に力を入れる。
が、抱きしめ返してくれた力が嬉しかった。







こうして、Lは苦手を(とても限定された条件で)克服したのであった。







コーヒーはやっぱり。
苦くて嫌いです。
でも、これからはが居るから。
苦いコーヒーも甘く変わりますね。
となら、コーヒーもケーキ以上に。
甘く、優しい味がしますよね。
苦手だったコーヒー。
少しだけ、好きになりました。
甘くて、苦くて。
なんだか不思議な気分です。







***あとがきという名の1人反省会***
さぁ皆さん、声をそろえて。
せぇのっ!!

甘あああああぁぃ!!(井○田さん風に叫

何でしょうねぇ、これは。
Lを壊すのに快感を覚え始めましたかね。(ぇ
いや、本当は水上 空がコーヒー飲めない人なので、この話が浮かんだんですけども。
あぁ、Lもきっと砂糖たっぷりのじゃないと飲めないんだろうなと(むしろどろどろの形状になってそうだ!!)。

口移しって、難しいけど好きな人とだと嬉しい。

そんな想いを込めた作品です。
主人公さんに気に入っていただけると幸いです。

では、ここまで読んでいただきありがとうございました!!

2004.10.25 水上 空