気になる人が、居ます。 いつも、彼は笑顔です。 それは、殆どが作りモノで。 私は、本当の笑顔が見たいです。 ある夜は、小さな星にお願いした。 お願いをした星は、小さく光って。 の願いを叶えてくれるかのように思えた。 〜言葉より確かなモノ〜 冬も近くなった早朝。 今日は日曜日。 は薄明かりの中、学校を目指していた。 男子テニス部のマネージャーであるは、部活に向かっているのだった。 青学男子テニス部ではこの時期、鍛錬の為と称して朝早くからの練習が行われる。 午後の練習量が減るのは嬉しいことなのだが、朝が苦手なにとっては結構辛い。 「ふぁ…ぁ。ねっむいなぁ…。」 目をこすって必死に起きようと頑張る。 と、そこに後ろから声がした。 「おはよう、。」 聞きなれたその声。 振り向かなくても誰だか分かる。 幼馴染だ。同じクラスの。 「タカおはよぅ…。タカはやっぱしゃきっと起きてんねぇ…。」 「が寝ぼけ過ぎなんだよ。」 眠たそうな幼馴染を見て、タカはふわりと笑った。 ふにゃふにゃと話すとは対照的に、タカこと河村隆は、しっかりと目が覚めている。 まぁ、寿司屋の息子だから当然といえば当然であるが。 歩きながら寝そうなの隣にタカはいつも並んで歩く。 歩行はゆっくり。に合わせて。 それでも、学校が近づくに連れて、は徐々に覚醒していった。 次第に会話も多くなる。 「タカさ、見たことある?」 「ん?何をさ?」 唐突な質問にタカの頭の上にはクエスチョンマークがつく。 「女の子に対する、不二君の笑顔。それもね、本当の笑顔。」 「あぁ…それは無いかも…。女に見せてるのは愛想笑いかな…と最近思う。」 「だよねー。ひょうひょうとしてるし二面性が…。」 「…それはそうだ。」 2人して笑って。 学校までの道のりをいつものように2人で歩いた。 学校に着くと、部室の前には既に着替えを済ました不二が居た。 いつもたちが着くころには、コートに居る不二だから、ここで会うのは初めてだった。 「おはよ、不二。不二にしてはのんびりだね、今日は。」 「おはよう、不二君!」 二人そろって笑顔で話し掛ける。 すると、不二は一瞬、ひどく驚いたような顔をした。 …が、次の瞬間にはいつもの笑顔に戻っていた。 「おはよう。タカ、ちゃん。いつも2人で来てるの?」 「「そうだよ。」」 同時に返事をする。 幼馴染だけあって息もピッタリだ。 「…そうなんだ。仲良いんだね、やっぱり。」 「そりゃぁ…」 タカが言い終わらないうちに、不二は言葉を被せた。 「じゃぁ、僕練習行くから。着替えたら、コートで。」 笑顔を貼り付けたまま、足早にコートへと去っていった。 不二が去ってから、は口を開いた。 「タカぁ。不二君なんか変じゃなかった?」 「…別に、普通じゃない?」 「そうなのかなぁ…。」 うーんと唸るを見て、タカはひっそりとため息をついた。 「(鈍感…。)」 まぁ、そんなを見ているのも楽しいから、放っておくのだが。 放っておくと決めたのに、不二になんとなく同情してしまうタカが居たのも、本当だった。 一方同時刻。 不二は実に面白くない気分を味わっていた。 そう、とタカの関係を誤解していたのだった。 「あー…練習…サボっちゃおうかな…。」 楽しそうな声とは裏腹に、不二は今にも泣きだしそうな顔をしていた。 コートに入ってすぐ、手塚に近寄ると、その日の練習を休むことを告げた。 手塚は相変わらず厳しい表情を崩さなかったが、心配しているのが良く分かった。 手塚の無言の優しさが、痛く、胸に刺さった。 帰り道。不二はとぼとぼと歩きながら、昔を思い出していた。 のことを、いつから好きだと自覚したかは覚えていなかった。 とは1年で同じクラスだった。席が近くだったことを覚えている。 テニス部に入部して、がマネージャーになってから。 クラスでも、たくさん話すようになった。 殆どが部活の話だったりしたけれど。 それでも嬉しかったのを覚えている。 いつの間にか。 やれることをやっているだけなのに、ファンクラブを作られていた。 寄ってくるのは、ミーハーな女の子たちで。 不二自身、それを知っていたから相手にはしなかったし、彼女も作らなかった。 彼女たちの理想を壊さないよう、頑張ってみたが。 出てくるのは作り笑いだけで。 上手く笑えなくなっていた。 「おはよう、不二君!」 明るい声が、遠く響く。 それは空耳で、振り返っても誰も居ないのに。 待っているのは絶望だけと分かっているのに。 不二は、歩くのをやめて振り返った。 そこには、誰も居なかった。 しかし、不二の眼に写った景色は、無人ではなかった。 と、タカが。 2人で、楽しそうに歩いてくる姿があった。 2人で、自分に笑いかける姿があった。 2人で、ふたりで、フタリデ…。 気が付くと、その場にうずくまっていた。 眼には涙。冷たい感触に気付いて苦笑する。 「いつからこんなに弱くなったんだろ…。」 不二の弱音は、風に乗って響いたのに。 誰にも聞かれる事はなかった。 着替えを済ませたとタカがコートに着くと、そこに不二の姿は無かった。 不二は家に帰っていったという。 「体調が悪いから家で休息を取る事にするよ。」 と、一言手塚に言い残して。 「不二君…どうしちゃったんだろう…」 ドリンクの用意をしながら、ポツリとはつぶやいた。 は、不二のことが好きだった。 テニス部に入って、席も近かったことから急激に仲良くなった。 一見、人当たりの良い不二の中に、影を見つけたのは、いつの頃だったか。 いつも笑っているはずの不二が、本当に笑っていないと感じたのは、いつだろうか。 目で追っていたのは、いつからだろうか。 そんなことが思い出せないほど。 は不二から目が離せなくなっていた。 好きだと気付いたのはごく最近だ。 自分でも確信は持てないけど、多分あの時。 「不二君てさ、笑わないよね。」 「え?」 部活の片づけ中。 急に、ふられた話に、不二は咄嗟に反応ができなかった。 見抜かれてるとは思っていなかったからだ。 「笑顔、作り笑いと愛想笑いばっかりだもん。」 「そう?自分では良く分からないな。」 そういって不二は微笑んだけど、には哀しそうな表情にしか見えなかった。 「先輩!!ドリンク飲みてぇな、飲みてぇよ。早く―!」 桃城の絶叫とも言えるような声で、は現実に引きもどされた。 ドリンクを持って、部活に戻る。 後で、様子を見に行ってみようと、心に決めた。 今日の練習メニューを終えて、は部員への挨拶もそこそこに、コートを後にした。 不二のお見舞いに行くことにしたのだった。 が言うより先に提案したのはタカだったので、タカも一緒に行くこととなった。 ピンポーン… 玄関のチャイム音に、不二は目を覚ました。 実際に寝ていたわけではなく、頭の中はフル回転していたのだが。 機械的なチャイム音に、現実へ引き戻されたのだった。 そういえば今日は誰も居なかったな、と思い出し、急いで応答を返した。 「…はい、不二です。」 『不二君?です。手塚部長から聞いて、お見舞いにきたよ♪』 「ちゃん?今開けるから待ってて。」 突然のことに驚きながらも、不二は玄関に急いだ。 と会うのが辛くて、部活を休んだ訳だが、この訪問は正直嬉しかった。 複雑な思いが胸を突き刺すが、会える嬉しさの方が勝った。 階段を駆け下り、一気に玄関へと走る。 深呼吸をひとつして。ドアを開けると、今度はちゃんと、そこにが居た。 …ただ、その後ろには、タカが居た。 「不二君、体調大丈夫?心配したよ、いきなり居ないんだもん。」 「本当だよ、無理するなよ?」 心底、心配そうなとタカの表情。 心配をかけてしまったことに多少の罪悪感を感じる。 だが、タカと一緒に居るを見て、また不機嫌になっていく自分も居る。 タカの言葉にさえ、苛立ちを覚える。 ただ、心配してくれているだけなのに。 「不二君?」 「ちゃん、タカ。悪いけど帰ってくれる?」 もう、止められなかった。 キツイ言葉。多分表情もかなり厳しいだろう。 こんな事言いたくないのに。 「え…。」 「気分悪くて、迷惑なんだ。僕なら大丈夫だから、さっさと『ふたりで』帰って。」 傷つけたくなんてないのに。 「…。迷惑だったね、ごめんね。」 は精一杯の笑顔で一言、そう言った。 さらに何か言いたいように見えたが、一向にその言葉は出てこなかった。 「ばいばい、不二君…また、明日ね。」 走り出すを見送る。 目元がキラリと光ったのは、見間違いだろうか。 謝らないで、僕が悪いのに。 そんなに優しくしないで。 哀しませてるのは僕なんだから。 そんなことを、ぼんやり考えていた。 バキィッ!! 途端、激しい、音。熱い、頬。 タカに殴られたと気付いたのは、地面に倒れてからだった。 じんわりと鉄の味がする。どうやら口内を切ったようだ。 「を、泣かすな。」 声の方を見上げると、タカは険しい表情をしていた。 相当怒っているのであろう。 普段が温和であるから、タカのこんな表情を見たのは不二も初めてであった。 凄みを増したタカに多少怯みながら、不二も睨み返す。 「タカには関係ないだろ…」 「が好きなら、を泣かすな。嫉妬して、にあたるのは止めろ。」 「…原因に言われたくないんだけど?」 唾を吐き捨てると、想像以上に血が出ているらしく、唾の落ちた場所は赤く染まった。 立ち上がり、タカの眼を真っ直ぐに見る。 途端、タカはふっと笑った。普段の温和なタカに戻る。 「俺にとっては、大切な『幼馴染』だ。 を泣かす奴は、例えが好きな奴でも許さないからな。」 ばつが悪そうに、殴って悪かったよ。なんて笑いながら頭を掻く。 そんなタカを、不二は呆然と見ていた。 「不二。、追っかけてやってよ。公園に居ると思うからさ。」 「タカ…」 お前は?と言いたかったけれど、言葉が続けられなかった。 不二が言葉にするより早く、タカが口を開いた。 「俺にとっては一生幼馴染だし。どっちかって言うと兄妹みたいな感覚なんだよ。」 タカは、不二の背中を叩いて、続けた。 「が来て欲しいのは、不二だよ。」 その言葉を聞いて、不二は走り出した。 途中で、不二は立ち止まり、振り返る。 「…悪い。タカ、ありがとう。」 不二は、笑っていた。心の中は、穏やかだった。 「早く行けって。」 タカに送り出されて、不二は再び、駆け出した。 公園に着くと、はブランコに乗っていた。 きぃきぃと、小さな公園に淋しい音が響く。 「ちゃん…。」 後ろから、声をかける。 びくんと震えるの肩。 ゆっくりと振り返った彼女は、泣いていた。 涙は、出ていなかった。 顔も、哀しそうには見えなかった。 それでも。 眼が赤かった。 「不二君…さっきはごめんね。」 申し訳なさそうに、顔を背ける。 「気にしてない。僕が悪いんだ。」 「急に押し掛けたのは、こっちだし。不二君は何にも悪くないよ。」 「違う。」 「違わないよ。」 にこりと笑うはが痛ましかった。 ズキリと胸に刺さる哀しそうな作り上げられた笑顔。 もう、こんな顔させたくなくて。 自分のいやなところも全部、さらけ出してしまった。 「俺が、嫉妬なんてしたから、悪いんだ。全部本心じゃないんだ。」 「嫉妬って…」 「タカに。」 「何でタカに嫉妬な…」 「ちゃんが、好きだから。」 は、軽く笑って視線を逸らした。 「嘘じゃなくて?」 「嘘じゃないよ。僕と…付き合ってくれるかな。」 長い沈黙の後。 「そんなの…もちろんだよ。」 微笑んだは、とても綺麗で。 不二も、つられて笑った。 次の日から、の登下校の相手が変わった。 タカは幸せそうな2人を少し離れた位置から見守る。 2人を見守るタカは、嬉しそうだった。 相変わらず、とは仲が良いが、不二に睨まれないように気を配っている。 大切な2人を、すれ違わせるのはごめんだから。 そう、タカは思った。 不二は、本当の笑顔を取り戻した。 にだけ、向けられるその笑顔は本当に魅力的で。 特別の笑顔が、凄く嬉しかった。 ―お星様、お願い聞いてくれて、ありがとう。 「何か言った?」 「不二君が大好きだ―って言ったのっ。」 そう言うと、不二君はまた、笑って手を差し出す。 を抱きしめて。髪を優しく梳いて。 飛び切りの笑顔を、に向ける。 不二君の笑顔は、言葉よりも、信じられるよね。 だから、大好きだよ。 不安も、悩みも、全部受け止めてあげるから。 ずっと、私にだけ、その笑顔見せてね。 ***あとがきという名の1人反省会*** はい、ということで不二ドリでした!! 今日原作をブック○フで読んでいて、(買えよ 「不二の笑顔の裏には何か絶対隠れている…!!」 そう思って書きました。 不二は心を許した人にしか本当の笑顔なんて見せないんじゃないかと。 菊丸ドリのときは黒い笑顔だったので、今回は白くしてみました。 タカさんは、割と気に入ってます。 でも彼のキャラでは欠かせないバーニングが書けていないので、 ぜひとも次回書いてみたいなぁなんて思ってます。 熱い男って格好良いです。兄貴ー!!って感じで。(叫ぶな それでは、ここまで読んでいただきありがとうございました!! 2004.10.20 水上 空 |