いくつもの季節が移り変わる。 思い思いの色を付けていく。 それでも。 貴方なしでは。 ココロに色なんか付いていかないのに。 ココロに在るのは。 凍り付いて動かない、貴方への、想い。 涙も、凍ってしまった。 もう、流れはしない。 モノクロの景色に流れるのは。 鮮やかな、貴方の声。 言葉は、意味を持たない。 誰の声も、ココロには届かない。 ただ、それだけ。 〜しゅん、か、しゅう、とう。〜 春は流れて、人々は陽気に浮かれて。 街では花見祭りなる祭りが開かれている。 広場には特設会場。 通りには出店。 皆、新しい春を喜び、陽気に過ごす。 そんな中、人々の足は劇場へと向かう。 歌姫の公演の時間が迫っているのだ。 劇場はというとすでに人で埋め尽くされ、座るどころか立つ場所さえも見当たらない大盛況。 管理人の好意で開け放たれたドアに、皆群がる。 歌姫がステージに現れる。 歌姫の名前は、。 美しい容貌、長い手足。 そして、奏でられる美声。 歌姫は、すべてをその歌声で魅了する。 観客はおろか、動物たちさえも耳を傾ける、そんなメロディー。 甘く響くメロディーとは裏腹に。 の瞳は光さえ差し込まないほどの暗黒を映し出していた。 もう、何も、見えない。 暖かな春は。 立ち竦む私に、貴方を連れてなんてこなかった。 残していったのは、暗く濁った、景色だけ。 夏の暑い日差しが、甲板に突き刺さる。 そこに居るのはいつもと同じ。 よく寝る剣士と、五月蝿い船長。 見上げた先には、長鼻の策士に、動物船医。 船の中には美人な航海士、考古学者。 いつもと変わらぬ、船のメンバー。 前までそこに在ったはずの貴方は居なくて。 夜な夜な貴方の食事を作っては、1人で乾杯を繰り返す。 コックは毎夜、涙する。 コックの名前は、サンジ。 金髪の髪に、渦巻き眉毛。 傍らに酒を携え、煙草をふかす。 煙は緩やかに立ち上り霧散する。 涙しながら吸う煙草はいつもより苦く、口内を刺激する。 明け方の雨に消される火は、紅く、冷たい。 料理のときは敏感な舌先も。 冷たい灯火に晒されて、感覚を失っていく。 もう、何も、感じない。 激しく色付く夏は。 貴方に寄り添うことさえ許してくれなかった。 差し出したのは、涙と、苦い、思い出だけ。 秋の空に、山の紅葉が映えるころ。 放っておいただけの髪が、肩まで伸びた。 秋の風に吹かれて。 さらさら揺れる。 外見も、貴方が居たころの私でなくなった。 もう、貴方と一緒に居たころの私では居られない。 「サンジ…傍に居てよ…。あの頃と変わりたくないよ…。」 想いは色付くはずなのに。 貴方の笑顔はモノクロで。 貴方の声にはノイズがかかる。 色なんか、一向に付いていかない。 ただ、ぽっかりと。 ココロに、穴が開く。 1人きりの部屋で眠りに付けば。 毎夜、貴方の呼び声が聞こえる。 自分の涙に目を覚ませば。 どこからともなく、煙草の匂いが流れ込む。 気持ちを落ち着かせようとして出した声も。 掠れて、喉の奥に引っかかる。 もう、何も、聴こえない。 夕暮れが似合う秋は。 貴方を忘れることさえ許さなかった。 切り落としていったのは、伸びた、私の髪の毛だけ。 雪が、海上にも降り注ぐ。 甲板にはすでに日課の域に達したサンジのとの夜食会が行われていた。 だが、そこにの姿はない。 サンジは、1人、海に向かって酒を煽る。 その向かいには今日もまた、の好物が置かれている。 いつもは気を使ってほかの船員か近づかなかったが、今日は違った。 背後から、サンジに声をかける者が在ったのだ。 「サンジ。また、今日ものメシ作ったのか…。」 「…放っとけ。ルフィにゃ、関係ねぇよ。」 「…今、冬だぞ。中入れ。風邪引くぞ。」 「放っとけって言ってんだろ。」 自分を労わる声にも振り向くことなく返事をすると、ルフィも不機嫌な声を返した。 「うるせぇ。船長命令だ。メシ、食えなくなったら困るだろ、俺が。」 「…いい加減黙れ、消えろ。」 今度は振り返り、真正面からルフィを睨み付ける。 ルフィはその目をじっと見ていたが、ふっとため息を漏らすと、何かを投げつけてきた。 「…ちぇ…わーったよ。風邪、引くなよ。これ、やるからな。」 という言葉と一緒に。 投げつけられたそれは、瞬間サンジから視界を奪い、膝元に落ちる。 綺麗に畳まれた、厚手の毛布だった。 「…あぁ…。悪ぃ…。」 「それで、早く寝ろよ。」 それだけ言うとルフィは笑顔で船内に消えていった。 あー、寒ぃ。などと繰り返しながら。 サンジはルフィの行為をありがたく受けることにして、毛布を広げた。 すると、毛布の中から、一枚の紙切れが空を舞う。 見ると、そこにはぎこちない筆跡が並んでいた。 ―ちっと、遅くなるだろうけどな、クリスマスプレゼントだ。 次の春、の公演にぶつかる島がある。 うまく連れ戻さなかったら、ぶっ飛ばすから、覚悟しろよ。 は、うちの、大事な楽士で、仲間だからな。 ルフィ― 「ルフィのくせに、やってくれるな…。」 涙が、また新しく一筋伝った。 が、次の瞬間にはいつもの強いサンジの顔に戻っていた。 「…うし、明日はご馳走だな。」 そう、呟いて片づけをし、部屋へと帰っていった。 ルフィからのプレゼントは、大切にポケットに入れられた。 離れて3日で記憶の中の貴方の笑顔はモノクロになった。 優しい声に、ノイズがかかった。 思い出そうとすればするほど、記憶は手から零れていって。 忘れようとすればするほど、鮮明に浮かび上がる。 貴方を待つ日々は不協和音が鳴り響く。 嫌というほど、孤独を味わった。 何も、見えない。 何も、感じない。 何も、聴こえない。 もう私は。 貴方なしでは、生きられない。 そんな想いを、胸に抱いた。 しゅん、か、しゅう、とう。 ***あとがきという名の1人反省会*** 早くアップする予定だったんですが…すみません、メチャ遅かったです…(平謝り お待たせいたしました、ブランデーの続編です。 前作ブランデーでも書いたように、曲ドリとなっております。 今回はGOGO7188の浮舟がモチーフです。 某アーケードゲームに入ってる曲でもあります。 この曲水上 空は大好きで、ゲーセンに行くと一度は聴かなければ気がすみません(笑 今回の小説は、個人的に今まで書いた中でもお気に入りです。 まだまだ描写とかは未熟なんですが、書きたいものが書けたので満足です。(自己満足じゃねぇか その上ルフィが気を使ってるのって何か新鮮です。 本当はウソップとかにしたかったんですけど、どうにもこうにも話し方がつかめてい…(殴 ので、強制的にルフィになりました。(何でだよ それより、水上 空はルフィが文字が書けたのかどうかが気になってます(笑 きっとナミにでも教わったんでしょうね…むしろそういうことにしてください。(ォィ それでは、ここまで読んでいただきありがとうございました!! 2004.11.23 水上 空 |