あー…だりぃ…ねみぃ…
うるせぇ…何で寝れねーんだ…畜生…

船の甲板でいつも以上に自主トレをして。
柔らかな風に吹かれながら
ゾロはいつも、眠りに吸い込まれる。
月の光が、日に焼けた逞しい体を照らして。
今日の波の音は、眠るには少し五月蝿かった。

いつもなら自主トレのあとはすぐストンと眠りにつくのに。
今日は何だか。
身体がが火照って眠れなかった。







〜子守唄〜







は何とかゾロを起こそうと、ゾロの隣に座って叫んでいた。
肩を揺さぶるが一向に起きる気配がないまま時間だけが過ぎていく。
「ゾロ!ゾロってば!!」
「…。」
「起きてよ!!目ぇ開けてってば!!ねぇ!」
「…聞こえてるよ。キンキンうるせぇから叫ぶな、耳元で。」


5分くらい、ゾロを呼びつづけてたから、きっと深い眠りなんだろうと思ってた。
いつものゾロは1度眠ったら、ご飯のときまで起きてこなかったから。
今回も当然深い眠りだと考えていたは、本当に純粋に驚いた。


「何だ。起きてたんだ?…なら返事してくれたって良いじゃない…。」
「返事するしないは俺の勝手だ。けどお前のやってんのは俺の鼓膜を破ろうとしてるとしか…。」
「ゾロがさっさと目ぇ開けないから、わざわざ高い声で呼んであげたんでしょー!!」
「お前…もっと自分の肺活量を考えろ。後は声の大きさもな。」
「…楽師だもの。声の大きさと歌の華麗さは誇りなの!!それをキンキン声って何よ!!馬鹿ゾロ!!」
いつも通り、とっては返す仲のよい口喧嘩。
いつもと違うことは後半のゾロの言葉にちょっぴりが傷ついたことだ。
今にも泣きそうな顔をするを見て、ゾロは驚いて目を見開く。
拗ねている姿も可愛いのだが…さすがに泣かれると対応しきれない。



がこのゴーイングメリー号のクルーになってもう半年が経つ。
次第に惹かれあって付き合いだした2人だが、ゾロは未だに泣いているをうまく慰めれた試しがない。
慌てるゾロを見かねて、いつもナミとロビンが慰めていたからだ。
当然、そのあとゾロは非難の言葉と罵倒の言葉を浴びせられるのだが。



「悪かったから…んな泣きそうな顔すんなよ…。」
「…。もういいよ。拗ねてないもん。」
「そうか。良かった。」
の笑顔につられて、ゾロもふっと笑う。
いつも見ている笑顔…月明かりの下で見ると余計に格好よく見える。
勝気な笑顔じゃなくて。本当の、優しい笑顔。
は、ゾロの顔から目が離せなかった。

「…で、何だよ。用事は…」
の頬を撫でながら自分の眠りを妨げた理由を聞く。
大体、が自分の起こすのなんて滅多にないから、よほど重要な事なのだと思っていた。
「あ、あのね……って言うか今気づいたんだけど。なんかゾロ…熱くない?」
は頬にかかるゾロの手を握り締めた。
ゾロのごつごつした手は、汗ばんでいた。
「は?んなことねぇよ。気のせいだろ。」
「うっすら汗かいてるし…」
「トレーニングの後だからな…」
「嘘でしょ。ゾロってば絶対熱ある!!」
そう言うが早いか、の顔がゾロの顔に近づく。
コツン。と音がして、ゾロとのおでこがくっついた。





―キス、されんのかと思った…





いつもはキスのとき大体目を閉じているから、ゾロはの顔をこんなに近くで見ることは少ない。
今のは、目を閉じてゾロの体温を計っているだけなのだが。
その証拠にいまだに
「う〜ん…やっぱり高いよ、これは…」
なんて、心配そうにつぶやく。
ゾロはその間ずっと目を開いていて。の動作一つ一つに見入っていた。


無防備なに鼓動が、跳ねる。
長い睫が、月明かりで白い肌に闇を落とす。
ピンク色に光る、小さな唇。





―我慢…できねぇな…クソッ…





瞬間、ゾロはを懐へと引き込み、深い、キスをした。


「…ふ…ぁ…ゾロ…」


の味。の感触。
ゾロは甘い幸福感に酔いしれていた。
流石にが辛そうにしていたので身体を開放する。
うまく息ができなかったのかケホケホと咳き込んでいる
その姿は、ちっちゃくて、頼りなくて。
ゾロは笑った。

「…いきなり何するのさ…心配してるのにぃ!ゾロのエッチ!!」
涙目で訴える
顔は真っ赤だから、そんなに怒ってはいないだろう。
「わりぃ。反省してるよ。」
「ほんとに!?」
「少しは、な。」
「…まぁ…いいや。でも!ほんとに熱あるからベッドでゆっくり休まなきゃ駄目!!」
「…わかったよ…」
勝ち誇ったように言うに、ゾロが逆らえるはずはなかった。





それからはというと。
ゾロをベッドに押し込んでから、船内を休むことなく走り回っていた。
キッチンで氷枕を作っているとき、後ろから声がかかった。


ー!そんなところで何してるんだ??」


振り返るとそこには、船医のチョッパー。
片手にはナミに買ってもらったという飴を持っている。
この可愛い船医は、今日も愛らしい笑顔をに向けてくる。
いつもならここで頭を撫でてあげるのだけど、今日はそんな余裕がなかった。

「氷枕、作ってるの。ゾロが熱出しちゃって。」
「ゾロがぁ!?珍しい事もあるんだなぁ…じゃぁ、風邪薬あとで持ってくから待ってろ!!」
言うが早いか、ばたばたと去っていくチョッパー。
「ありがと、チョッパー。お願いね…!」
小さな後姿に叫ぶと、
「まかせろぉー!!」
と、遠くで頼もしい声が響いた。



「ゾロっ!氷枕と、サンジ君特製お粥だよ。起きれる?」
勢いよく扉を開けると、ゾロはすでに深い眠りに落ちたあとだった。
しまったと思いつつも、ゾロの様子が気になって慌てて駆け寄る。

「…凄い汗…。…うわ、さっきより熱い…。」

はあまりの熱の高さに思わず顔をしかめた。
さっきまで歩いていたのが不思議なくらいだ。
ゾロの顔の汗を拭いて、氷枕をセットする。
とたんに、シュゥゥ…と氷が溶け始める。

「普段から…あんまり頼ってくれないよね、ゾロは…。」
ベッドの隣で頬杖をつきながら。は一人つぶやいた。





その晩。はゾロの眠るベッドの横で休むことなく看病を続けた。
途中、チョッパーやサンジがを気遣って交代を申し出たのだが、は笑顔で断った。
「たまには、頼られてみたいから。」
と。
は、ゾロの隣で、ずっとゾロの手を握っていたから。
チョッパーもサンジも、無理しないよう声をかけて、部屋を出て行った。
今、二人を離してはいけない気がした。





カラン…という音でゾロは目を覚ました。
部屋の中が真っ暗で、目が慣れるまでに時間がかかった。
おでこの上には氷嚢。頭の下には氷枕があるらしい。
熱はまだ下がっていないようで、氷が溶ける音が耳に届く。

「…さっきよりだいぶ楽だな…」
身体を起こして周りを見ると、ベッドの横には自分の手を握り締めるの姿があった。
その隣には、お粥と、手紙と、薬方。


―サンジ君が作ってくれた特製お粥&チョッパーのお薬だよ!
食べれたら食べて、早くよくなってね!




「…今日は世話になってばっかだな……ありがとう…」
そうして、これ以上心配をかけないためにもと決めて、ゾロはお粥を口に運んだ。


「…このままじゃお前が風邪引くぞ…ったく…。」
ふっと吐き出すように笑いながら。
ゾロはの肩に布団をかけた。
口調はいつものゾロだったが、顔は優しさに溢れていた。





「お前ほど上手くはねぇけどな…。」






思いついたようにつぶやくと、ゾロは歌を歌い始めた。





―眠れ、眠れ。母の胸に。
眠れ。眠れ。母の手に。―





こんなもんしか返せねぇけど、は笑ってくれるかな。
俺が疲れたら、今度はちゃんと言うからさ。
お前の声で歌ってくれよ。
俺のための、子守唄。







***あとがきという名の1人反省会***
…え、何でゾロが唄ってるの!?
何で、何でですか!?誰か教えてくださいぃ!!(無茶言うな
ほら、あれですね。
ささやかなお礼ですよ、ゾロから、サユさんに愛をこめて♪

でも水上 空のイメージの中で、ゾロって歌下手そうなんですよ。
…だってゾロですよ!?唄うまいとか有り得なくないですか?
戦闘以外は苦手そうです。


…すみません、調子乗りました。(反省


ゾロファンの方、石とかウィルスとか投げないで下さい…(土下座
で、苦手なものを自分のためだけにしてくれるって何か良いじゃないですか。
あぁ、愛されてるなーって実感できて。

水上 空の脳内では、ゾロが唄ったことでサユさんが起きちゃってるんですけど。(ぇ
そして、真っ赤なゾロをからかっていると思われます。(そこを書けよ

まぁ…頼り、頼られの関係って良いですよねぇってことで。
余り萌えないかもしれませんが、お許しください。(ペコリ

では、ここまで読んでいただきありがとうございました!!

2004.10.15 水上 空