さんさんと、照りつける太陽。
今日の天気は快晴。
さわさわと、髪を揺らす潮風。
ゴーイングメリー号は、次の島を目指す。

次の島は、まだ遠くて。
旅には終わりなんてなかった。
終わらせることはできるけど。
まだ、探し物があるから。
ゴーイングメリー号は、次の島を目指す。







〜オアシス〜







パタパタと軽い足音。
男部屋のドアを開け、目標の人物を見つけると、思い切りジャンプ。
「ルフィー!!今日もいい天気だよ!!」
今日も朝からゴーイングメリー号の中に、可愛らしい声が響く。
ボスン!!と大きな音を立てて、声の主はルフィのベッドにダイビングしたのだが。
当然、その下には寝坊常習犯の船長、ルフィが今日も気持ちよさそうな寝息を立てていた。
ルフィの一日は、押しつぶされることから始まるのだった。


「痛ってぇ!!…その起こし方やめろよー…。」
「だってルフィ、全然起きないんだもん。毎日起こすこっちの苦労も考えてよね。」
衝撃に飛び起きたルフィとは反対に、ゆっくりとは起き上がった。
といっても、ルフィの物言いに拗ねてしまったは、頬杖をついただけで、ベッドに寝転んでいるのだが。
「う…感謝してっけどよ…ゴムだって痛ぇんだぞ?一応…」
「…起きないのが悪いんだもん!!」


どんどん落ち込んでいくに、ルフィがこれ以上怒れるはずがなかった。
それでなくてもだけには、本気で怒ったことがなかった。
「俺が悪かったよ…。もう怒っちゃいねぇって。」
「…もういぃょ。許してくれてありがと、ルフィ♪」
にっこりと笑うにつられて、ルフィもニカッと笑う。
の笑顔にはいつも敵わなくて。
どれだけルフィが不機嫌でも、の笑顔はルフィの機嫌を良くしてしまう。
甘えて抱きつくの頭をポンポンと撫でて、そのままルフィはを抱き上げた。


「よし!!メシ喰うぞ!!」
「サンジ君が、今日はルフィの頼み聞いてお肉いっぱい使ってくれたよ!」
「ほんとか!?そりゃすげぇ!!」
「ってわけで、ルフィ、そのままキッチンへ出発!!」
「おう!!当たり前だ!!」
ルフィはを腕に抱えたまま、猛ダッシュでキッチンに向かった。





「メシメシメシぃ〜♪サンジ!早くメシ!!」
「ルフィ!ちったぁ静かにしろ!」
「肉、くれ。腹減ったぞ。」
「だからうっせぇ!!テメェだけメシ抜いてもいいんだぞ!!」
「…腹減んのはしかたねぇじゃねぇか…。」
いつもの通り、騒ぐルフィをサンジが嗜める…というか、怒鳴る。
いつ見ても、この絶妙なコンビは変わらなくて。
はそのたびクスクス笑ってしまう。


「おはよう、サンジ君。」
呼ばれた声に、サンジはふと振り返る。
「なんだ、ちゃんも一緒か。ルフィなんかに引っ付いてないで、こっちこない?」
おいでおいでと、キッチンでの料理に誘う。
さっきまでルフィの相手をしていたときの声とは段違いの甘い声。
当然目はハートなのだが。
しかしが何か言う前に、ルフィが口を開いた。



を抱く手には力がこもり、の頭を自分の胸に押し付ける。
「サンジ!!にちょっかいかけんなって言ってんだろ!!」
「ちょ…ルフィ痛いって…」
いきなりのルフィの行動にうろたえ、抗議をするがルフィは当然聞き入れることはなかった。
それどころか、二人の喧嘩はますますヒートアップしていく。
「ちょっかいかどうかはちゃんが決めんだろうが!!」
「俺には関係あんだよ!!ボケサンジ!!」
「痛いってば…ルフィ…ちょっと…」
「兄貴だからって過保護すぎんだよテメェは!!」
「当然じゃねぇか!!可愛い妹心配して何が悪ぃんだ!!」
「…ルフィィ!!離してよ!痛いんだってば!!」



頭の上で喧嘩をするルフィとサンジに腹を立て、が叫んだのは当然のことのように見えた。
おそらく、傍目には。
いきなりの怒鳴り声に体を凍らせたルフィがを急いで開放する。
目を向けた先には今にも泣き出しそうな顔をしたが居た。
…が、それに気付いたのはサンジだけで、ルフィは泣きそうなに気付いていなかった。
「あ…悪ぃ…息できなかったか?顔真っ赤だぞ、。」
「五月蝿い!!ルフィの馬鹿!!」
「悪かったよ、ちゃん…朝から喧嘩なんかして…。」
「…っもう知らない!!」


は二人に怒鳴ると俯いたままキッチンを走って出ていく。
ルフィもサンジも、のこんな怒鳴り方を見たのは初めてだった。
しばらく動けないまま呆然と立ち尽くす。
先に我に返ったのはルフィのほうで、慌てて、の消えた方向に叫ぶ。


「あ…おい!!!!メシは!?」


ルフィの声は遠く響くが、答えは返ってこなかった。







キッチンを出た後のは、ルフィが追ってこないことを確認すると、速度を落とした。
向かっているのは、女部屋だ。
ナミによって女部屋には男は入らないようにされている。
ここにさえ逃げ込めば、追っ手の心配は皆無だ。


「(今日はずっと部屋にこもってよう…)」
今日はもう、ルフィと顔を合わせられる自信が無かった。





そうして、女部屋に行く途中ナミと出会った。


、おはよ…ってどうしたのよ!?何があったの!?」


の顔を見たナミが、大急ぎでの元に駆け寄ってくる。
ナミは駆け寄るとすぐ、の頬を拭った。
…いつの間にか、涙が流れていた。

「……何があったの…?」

ナミの問いに、は答えなかった。
ただただ、涙が溢れて、止まらなかった。
の身長はは元から小さいけれど、今日はいつもよりももっと幼く、小さく見えたから。
ナミはが消えてしまわないように。
優しく、強く、抱きしめた。





ルフィとは、兄弟だった。
…とは言え、血は繋がってない、義兄妹だ。
ルフィがを拾ったのだ、文字通りに。
以来、二人は当たり前のようにいつも一緒に居て、離れることがなかった。
ルフィが海賊になるときにしたって離れようとはしなかった。


「ルフィ海賊になるの?置いてかないで…。」


今にも消え入りそうな声で、は言った。
堪えていた涙が堰を切ったように溢れ出す。
ルフィの出発前夜のことだった。
海賊王を目指す旅は、困難なものだから。
当然、置いていかれるものだと思っていた。
止めちゃいけないと分かっていたけれどはルフィの指をつかんで、精一杯の抵抗をした。
ポンポンと頭を撫でて、ルフィはの顔の涙を拭うと、あっさりと告げた。


「…置いてったりしねぇぞ?が居ねぇと元気でねぇかんな。」


いつものようにルフィは、ニカッと笑った。
その言葉が嬉しくて、その笑顔が嬉しくて。
せっかく拭ってもらった涙がまた、頬を伝った。
うろたえるルフィに抱きついて甘えると、ルフィは背中を黙って撫でてくれてたから。
自分の居場所を見つけたみたいで、嬉しかった。


拾われたときからずっと。ルフィが、の最も安らげる仲間で、場所であった。
いつからか、ルフィのことを好きと自覚するようになった。
ルフィが自分のことを妹としてしか見ていないことは分かっても、それでも止められなかった。
今日までその事実には向き合わないようにしてきたのだ。
傍に居られるだけで嬉しかったから。
だからこそ、先ほどのキッチンでのルフィの発言はをひどく打ちのめしていたのだ。



は、ナミに連れられて女部屋でココアを飲んでいた。
ナミに手渡されたココアのカップの温かさに、また、涙が滲む。
隣で、ナミはずっとの頭を撫でながら話を聞いていた。
余分な口を挟む事も無くただ、の話を聞いていた。


「…あんたたち…血…繋がってなかったのね…似てないから当然っていえば当然だけど…」


の話が終わって、ふいにナミがつぶやいた。
はもう言葉を綴ることができない様子で、ただ、ひとつ頷いた。

「…辛かったね…。」
「もう平気だよ…。ありがとう、ナミ。」

へへ。と泣き腫らした目で笑う。
見ているほうが辛い笑顔だったが、ナミは目を逸らすことなく受け入れた。
の表情が少し和らいだのを確認してから、ナミは立ち上がった。

「今日はゆっくり休んで、また元気な顔見せてね。。」
「…うん。疲れちゃったから、ちょっと寝る。」
「後で、ご飯持ってきてあげるからね。」
「はぁぃ。」

ナミの優しさに、はいつもの笑顔を返した。
をベッドに連れて行って、眠るまでの間優しく髪を梳いて。
ナミは部屋をそっと出て行った。



部屋から出た直後。ナミの耳には予想していた声が飛んできた。
…というか、随分前から気配はあったのだが。
今まで大人しく部屋の前で待っていたのが不思議なほどだった。
部屋のドアの隣に、ルフィはしゃがんでいた。
いつもは絶対に見せない、真剣で、不安気な顔で。


「ナミ!!大丈夫か!?あいつさっき泣…」
「五月蝿い、ルフィ。今、疲れて寝てるから。静かにしなさい。」
「う…悪ぃ…。」
「…ほんとなら、女部屋立ち入り禁止なんだけど。まぁ今回は見ないことにしてあげるわよ。」
「ほんとか!?ありがとう、ナミ!!」
「…のためだからね。あんたのためじゃないのよ。」
ご飯まだだから、と告げてナミは食堂へ向かった。
数歩進んだところで、ナミは立ち止まって振り返った。
ルフィはまだこちらを向いたまま立っていた。


「…あとでにご飯持っていってよね。」
「わかった!!」
一言だけ言い切ると、ルフィは驚異的な速さでキッチンへと駆けて行った。
「…ったく…静かにしろって言ったのに…。」
ナミは少し楽しげに笑って、キッチンへとゆっくり歩いた。
数秒後には、またルフィとすれ違ったのは言うまでもない。





ルフィがご飯を持って部屋に入ると、一番奥のベッドでは規則正しい寝息をたてていた。
ベッドの近くにあったテーブルにサンジ特製のご飯をおいて。
ルフィはベッドの横に座った。


…泣くなよな…困るだろ…。」


ため息とともに、吐き出した。
布団からこぼれていたの小さな手を握って。
ルフィはの寝顔を独り占めしていた。







それから2時間ほどたったころ。は目を覚ました。
起き上がって周りを見る。
ルフィは相変わらずベッドの隣で、の手を握っていた。

「おはよう、。」

長い間傍に居たのか、ルフィは頬杖をつきながら、少し不機嫌そうな顔をしていた。

「…おはよう。…ルフィ…ごめんね、怒ってない?」
「…。怒ってねぇ。だけど、心配はしたんだからな。」
「ごめん…。」
「…は何で怒ったんだよ…?」
今度は、優しい、労わるような顔。
「それは…」


ルフィの顔を直視できなくて、は視線を下に向ける。
―ルフィが、妹なんて言うから…。
今度は、もう涙は零れなかった。代わりに、身体が細かく震えている。



「俺が、妹って言ったのは、理由でもないとの傍に居れないからだぞ。」



いきなり、の言えなかった言葉の答えをルフィは返した。



鈍感なルフィが気づいてるとは思わなかった。
あからさまに驚いた顔をしていると、ルフィはニカッと笑った。
「ちっちぇえ頃から一緒だからな、のことは、俺が一番知ってんだぞ?」
「気づいてるとは思わなかったよ…。鈍感ルフィなのに。」
「ちぇ。信用ねぇなぁ。」


少し、拗ねたように笑ったルフィ。
明るく振舞ってくれるのが嬉しかった。


「…あのさ、ルフィ。」
「何だ?」
「意味分かって言ってる?」
「分かってるって。」
「分かってないよ!」


言ってすぐにベッドに突っ伏そうとした。

でもそれより早く。

ルフィの指が。

の顎を捕らえて、触れるだけのキスをする。



もちろん、唇に。





「…ちゃんと…分かってんじゃん…珍しくて調子狂うよ…。」
は顔を真っ赤にして、微笑んだ。
光を浴びて、キラキラ光って見えた。
「だから、俺が護ってやるから、俺から離れんなよ、。頼むからさ。」
ルフィの顔も、真っ赤に染まって。


兄妹は、これから少しだけ、違った関係になる。


ずっと一緒だから、怖くない。


二人だから、大丈夫だ。







次の日。
パタパタと軽い足音。
男部屋のドアを開け、目標の人物を見つける。
「ルフィー!!今日もいい天気だよ!!」
今日も朝からゴーイングメリー号の中に、可愛らしい声が響く。
は、ルフィのベッドに飛び込まなかった。
その代わりに。







ちゅ。







頬に口付けると、ルフィはゆっくり目を覚ました。

「…俺その起こしかた気に入ったぞ。」

ニカッと微笑むルフィの顔はほんの少し、ピンク色で。

「じゃぁ、毎日こうやって起こしてあげるよ。」

と、も微笑んだ。







さんさんと、照りつける太陽。
今日も天気は快晴。
さわさわと、髪を揺らす潮風。
ゴーイングメリー号は、次の島を目指す。


でも、私はオアシスを見つけた。
枯れた心の砂漠に、たった一つだけ。
ずっと近くに在ったけど、とても遠くて。


でも今はもう。
オアシスを求める旅は、しなくて良いんだね。





オアシスは、ルフィだった。
愛だった。





次の島は、まだ遠くて。
旅には終わりなんてなかった。
終わらせることはできるけど。
まだ、探し物があるから。
海賊王に、なるんだから。
仲間と、一緒に。
心は、ひとつに。
ゴーイングメリー号は、次の島を目指す。







***あとがきという名の1人反省会***
ルフィを書くことが出来ました!!
水上 空は大体学校の先輩に文章を読んで頂いて完成させるんですけども。
その先輩にも

「ルフィは悲恋かと思ってたから意外…。」

とか言われてしまいました(笑


イレギュラーなことをやるのって楽しいです。


そして、妹ネタ書いてみたかったんです。
…でも、初の妹ネタがルフィっていうのはどうなんでしょうね…(苦笑


過保護でヘタレなルフィはうちの兄貴がモデルです。
まぁ、ルフィのような恋愛感情はないですけども。(あったらヤヴァィし。
家から遠い学校に通うことを話したら、話した日に止めに来る兄貴です。
結婚もしたんですからお嫁さんより妹を大切にするのはどうかと思います。

お兄様、勝手にモデルにしてしまいましてごめんなさい。
この小説間違って読んでも、喜んで抱きつきにこないで下さい。(真剣


あとこの小説でのお気に入りはナミです(キッパリ
格好いいです、はっきり言って。
こんな友達欲しいです。憧れます。

ナミに慰めてもらい隊に入隊希望です。(ないっつの


長くなった上身内話まで入れてしまいましたが、ここまで読んでいただきありがとうございました!!

2004.12.14 水上 空