真っ暗で足が踏み出せなかった。

そのまま暫く止まっていたけれど、
目が暗がりに慣れるまでは待っていられないから、
ソロソロと、壁を伝って前へ進むことにした。







〜GIVE ME!×GIVE YOU!〜







さすが、お化け屋敷、というべきなのか。

凄く怖い。出来れば今すぐ逃げ出したい。
入ってから、何度そう思ったのか良く分からなくなってきた。



田島くんに、やっぱり無理、って言えば良かった、なぁ。



周りからはいかにも、って感じの、雰囲気満載の音楽が流れてくるし、
いつ何が起きるか分からない、何が飛び出すか分からない、
そんな空間にいるんだ、って思ったら、のどがカラカラになってしまった。
慌てて、ツバを飲み下そうとしたけれど、緊張のせいで上手くツバも出ない。

ようやく暗闇に目が慣れたのは、かなり歩いた後だった。
ココまではなんとか、ビックリするようなことは起こってない。





これから、なん、だ。





そう思って引き返したくなったけれど、
ふと横を見たときに、ちゃんの横顔がぼんやり闇に浮かび上がった。

ちゃんもさっきから小さな音がする度、オレと同じように肩をこわばらせて、
それでも前に進んでいたんだ。
そういえば、入るまで凄く嫌がってた。怖いって。





「怖くない、怖くなんか…ない…大丈夫…だいじょう、ぶ…」





ちゃんが呟いた言葉は、そのまま暗闇に溶けていった。
言葉尻が少しだけ震えていて、…何だかおまじないにしろ、思い込みにしろ、
あんまり効果がなさそうで、やっぱり女の子なんだな、可愛いなぁと思った。


(でもきっと同じことオレがしてたら、もっと言葉は震えてた気が、する)


ホントは、花井くんとか、泉くんとか、田島くんとか。

もっと頼りがいのある人と一緒に回れたら、ちゃんも
こんなに怖がる必要もなかったんじゃないかな、と思うと、申し訳なくなる。

オレ、ビビリだし。
上手くちゃんを励ます事もできない。

でも、何とかしてあげ、たい。










「あ、のさ…その、え、っと…」

「ひゃぁあ!?な、何、なに、かな、…三、橋くん…!?」


隣を歩くちゃんに思いつきで声をかけたら、ビックリしたみたいで、
キミは今日一番、肩を跳ね上げていて、悪いことしちゃったかもしれない。

だけど、伝えたいことは伝えて、と前にちゃんが言ってたことを思い出して、
もう一回、勇気を振り絞ってちゃんへ言葉を紡ぐ。
気味の悪い音楽よりも、自分の心臓の音の方が大きいくらいだ。



「オレ、がんば、るよ!だ、から、、ちゃん!一緒にがんば、ろォ…!」



言えた!

詰まりながらだけど、言いたい事、伝えたかった事、ちゃんと。




言う間、ギュ、とつぶっていた目をゆっくり開くと、
目をまん丸にしたちゃんの顔が見えて、
やっぱり余計なお世話だったかも、とオレは目を逸らしたくなる。


でも逸らす直前。


ほんの一瞬だけれど、ちゃんの顔が綻んだのが見えた。

いつもみたいに笑ってくれたんだ、って思ったら、ちゃんの顔が見たくなって、

逸らしかけた目をもう一度ちゃんに向ける。





「ありがと、三橋くん!じゃぁ、一緒にがんばろうね!」





最上級の笑顔を見せてくれたちゃんはと言うと、
オレのほうにピッと手を伸ばしてくれてた。

恐る恐るちゃんの手に自分の手を重ねると、
そのままちゃんは嬉しそうに笑ってオレの手を握る。

それだけで、ココが今まで怖かったのが嘘みたいな気になるんだから、
どうもオレの頭の中はすごく現金にできているな、と思ったけれど、
ちゃんの小さな手も震えてなんていなくて、
多分さっきまで冷たかったはずの手は、徐々にあったかくなってきている。



じんわり、あったかさがオレのほうに伝わってきて、

ちゃんからもらったあったかさで、オレの手もあったかくなって。



だから、重ねたまま、握られたままだった手を、今度はオレからも握り返した。

それだけで、もう怖いのはどこかに飛んでしまった。

ちゃんと一緒だから、大丈夫!

怖いけれど、ちゃんと一緒なら、絶対絶対大丈夫。





冷たかったお互いの手があったまったら、

こんな暗がりとはもうおさらば、外はすぐそこのはず!







の熱をに!の熱をに!







(おっす!おつかれー!)
(大丈夫か2人ともー)
(大丈夫!三橋くんが手、繋いでてくれたから!)
(う、ひっ!?)
(ありがとね、三橋くん!)
(ううん、オレこそ、あり、がと!)








***あとがきという名の1人反省会***
ときメモGS2やってて、まさか三橋夢を書くとは(笑
色々と末期な感じの私に、お付き合い下さり有難う御座います。
怖がりイメージの強い三橋くんはきっと
お化け屋敷ダメだと思います。それでもきっと
一緒に入った子に勇気付けられたりしながら頑張るはず!
一緒にがんばろ!を三橋くんに言って貰いたかったのです。

それでは、ここまで読んでいただき有難うございました。

2009.04.18 水上 空