大体にして、こいつは何を考えているのか。



ふぅ、と静かに呼吸をし、頭に酸素を送ってみたものの、
その答えは一向に見えてこない。
そればかりか、どんどん頭が痛くなるだけだ。

高校からの付き合いの私には未だにこいつ、田島が良く分からない。
野球の事を考えているって言うのは分かるけれど、
それ以外は、まるっきり見えてこない。


(たぶんバカだからだ!…よね?)


裏表のない性格だから、きっとこいつの行動自体が
こいつの心の中をそのまんま映し出しているのだろうけれど、
基本的に動物の本能のようなもので動いているのか、
考えが突拍子無かったりする。



だから、だからだ。

私がいつもいつもいつも、こいつに振り回されるのは。

いまだって、ほら。こんなにも。

私は、こいつに。







〜君と手を繋ぐ、みんなから、見えない角度で〜







私がそんな事を思ってるなんて知りもしない田島は、
今は授業中だっていうのに暇だ暇だと言ってたり、


(確かに古典は私も苦手だし、先生の声が、いい具合に眠りに誘うけども)


他の人にちょっかいをかけて先生に注意されたり、


(ちょっかいを掛けた人自体は無視してた、当然か)


挙句の果てに、今。

私の頭を悩ませるに至っている行動をしているという訳だ。







皆見てないから、恥ずかしがるなよ!







なんて小声で言ったかと思えば、
ニッコーっと最上級の笑顔で笑って、私の手をとって。
その上、握って離さなかったり。


田島の左手と、私の右手。
人が1人、通れるだけ空いた机の間で繋がっている。
寝ている人が多いとはいえ、今は授業中で。



「は、なしてよ、田島…。」

「ヤだよ、ゲンミツに!オレはと手ぇ繋ぎたい気分なの!」

「みんな、見るよ。センセも。」

「そっかぁ?」



見えないなんてわけ、無いじゃん。

だって、こんなに、静かな教室で。

聞こえるのは先生の板書の音だけだし。

話、してるのなんて、私と、田島だけなんだよ?



うーん、と、なにやら考え込んだ様子の田島は、
5秒と立たない間に、目を見開いて、それから笑う。
単純キングはすぐにこっちを振り向いて、私の手を取ったままに、


「じゃぁ、万が一バレてたら、後で一緒に怒られよーぜ!」


と、いっそ爽やか過ぎるほどに笑んだ。





ほんと、何考えてんだろ、マジで。
怒られないためにも、今この場で手を離そうよ田島クン。



そう思いつつ、だけど、私はこいつの手を振りほどく事ができない。



別に痛いほど強く握られてるわけでもないし、

それ以前にこいつは人の嫌がることはしないし、

きっと簡単にこいつの手を振りほどくことはできるんだけれど、

困ったなぁと思いながら、こいつの顔を見てみたら、

目があった瞬間、物凄く嬉しそうに笑うし、

目があう前から明らかに上機嫌で鼻歌なんて歌ってる。



そんな顔を、態度をされてしまったら、
私から、手を振りほどくなんて出来ないじゃないか。

(何だか捨て犬の前を素通りするような感覚だから)





チャイムがなるまで、あと少し。
そろそろ、寝てる人も起きはじめる。



振りほどかなきゃいけない手を、振りほどく前に軽く握り返してみたら
やっぱりこいつは憎らしいほど嬉しそうに笑っていて、
するりと手の向きを変えて、手の繋ぎ方を恋人繋ぎへと変化させた。

本当はその場で調子に乗るな、とでも言えば良かったんだけれども、
少しだけ照れた顔で、ラッキー!と呟いた田島を、
不覚にも、可愛いと思ってしまった私。
今回は大人しくこっちが折れてやろうかな、と思う。


(あ、でも男子高校生に向かって、可愛いなんて怒るかな、怒るよな)





チャイムが鳴って、しばらくしたとき、


っ!俺にもノート!ノート見せて!何も書いてねぇ!」


と、真っ白なノートを突きつけてきた田島にノートを貸しながら、
自分が左利きでよかったなぁと、
未だにあったかい自分の右手を見ながら、ぼんやりと思った。

取りあえず、顔が赤くならなかっただけ、よしとしよう。







***あとがきという名の1人反省会***
何か突発的に書きたくなった、おお振り田島君です。
(オメーいくつジャンル追加する気なんだよゴルァ)
田島君の無邪気な暴君っぷりはとんでもない
破壊力を持ってる、ゲンミツに!と水上は思ってます。
会話分・変換部が少なくって申し訳ありませんが、
お気に召していただける方が1人でも居れば幸いです。

それでは、ここまで読んでいただき有難うございました。

2008.09.27 水上 空