私の大好きな人は嘘がそれはそれは得意です。 それに引き換え、私はそれほど嘘が得意ではありません。 冗談です、ちょっと見栄張りました。 私がついた嘘なんて、ゾロさんやルフィにすらすぐにバレてしまいます。 〜うそがつけない〜 「嘘なんて上手くなくったっていいじゃねぇか、な?ちゃん?」 そう言って、サンジさんは私の頭をクシャリ、と優しく撫ぜてくれます。 勿論、人を騙す、なんてあんまりいい気持ちではないし、 信頼している仲間に嘘なんてつきたくない、と思うのだけれど。 それでも、事実、私は1つだけでいいから突き通したい、 と思っている嘘があるのです。 だから、サンジさんの優しい手に撫でられているというのに、 ぶすくれた表情しか出来ないで居るのです。 現在進行形で、嘘をついています。 きっと、バレバレなんだろうけれど、それでも。 「ウソップさーん!」 「おう、か。どうしたよ?」 デッキに出ると、さっきまでギラギラ眩しかった太陽は、 ちょっと西に傾いていたらしく、目当ての人物は 光の反射に邪魔される事もなく、すぐに見つかった。 ひらひら手を振ると、魚釣り続行中だったウソップさんは その場で振り返り、手を軽く上げて答えてくれた。 邪魔したかなぁ、と思ったのだけれど、ウソップさんは 上げた手をそのまま手招きに変えてくれたので、 2人の間に開いた距離を、私は小走りで埋めた。 早く、ウソップさんと話したかった。 どうした?と首を傾げて尋ねてくれたウソップさんは とても優しい笑顔をしていて、私は反射的にその笑顔に 笑顔で返したくなったのだけれど、無理やりに表情を変えて、 真剣な眼差しで、ウソップさんに対峙した。 「嘘が上手くつける方法、教えて?」 「何でそれを俺に言うんだよ…」 「え、嘘上手だから、かな?チョッパーもルフィもいつも信じるじゃない?」 「キャプテンウソップ様の武勇伝は嘘じゃねぇー!」 「…じゃぁそういうことにしとく」 「全然信じてねぇじゃねぇか!!」 「あはは!」 「ったく…で、何でいきなり…つーか、嘘なんてついても良いことねーぞ?」 私の真剣な表情は、そう長く続かなかった。 ウソップさんの隣に居ると、どうしても心がフワフワして、 自然と笑顔になってしまう。 声を上げて笑ってしまって、それがとても幸せな事だと思ってしまって、 無理やり頭を振って、ウソップさんの問いかけに答える。 「どうしても…どうしても突き通したい嘘があるから…」 「ほぉーもそんなんあんのか。…ま、頑張れや」 ぽんぽん、サンジさんとはまた違う、ウソップさん独特の頭の撫で方。 大人の余裕っていうか、なんていうか。 私のことを子ども扱いしてるんじゃないかな、っていう感じのあやし方。 私のつきたい嘘は、1つだけしかない。 嘘をつきたい相手は、他ならぬ、ウソップさんだ。 そんな私の計画を知らないウソップさんは、真剣に、 私の問いに対する答えを考えてくれるようだ。 時折、うーん、と、腕を組みながら声を漏らして。 目を瞑ったウソップさんが首を捻る。 私のために、知恵を貸してくれようとする、 その真剣な表情を、私はずっと見ていた。 それから、何かを思いついたのか、ゆっくり目を開いたウソップさんは さも楽しそうに、に嘘のつき方の秘伝を伝授してやろう、と 自信ありげに瞳を輝かせて、笑った。 「秘伝?」 「嘘をつくときはなー…表情を隠したらダメだ」 「えー…でも私、すぐ表情に出てばれちゃうよ?」 「はは、素直でけっこー!」 にかっと、大口を開けて笑うウソップさんの笑顔が眩しい。 私は何一つ言葉を紡ぐ事もできずに、 その眩し過ぎる笑顔に、何一つ表情を動かす事もできずに、 ただ、ただ、その笑顔を胸のうちにしまいこんだ。 「表情なんてモンは、隠そうとすれば隠そうとするだけ無駄なんだ」 上手く、人を騙せるようになりたいです。 上手く、ウソップさんに嘘をつけるようになりたいです。 「表情が消えちまったら訝しがられるだけだぞ」 「そうなんだぁ…」 私の大好きな人には、大切な、たいせつな女の人が居ます。 「ま、オレはの嘘くらいはすぐ見破れっけどな!」 「なんたって嘘つくの大得意だもんね、ウソップさん…」 ははは、と、自分でも驚くほど綺麗な笑い声が出た。 あぁ、これが、ウソップさんの言っていた秘伝なのかも。 ウソップさんの表情は、さっきまでと変わりない。 上手く笑えてる、のかな、私。 「なんだと!?キャプテンウソップの話は…!」 「はいはーい!嘘じゃないよ、わかったよ!」 ウソップさん直伝の秘伝が、生きてる。 いま、私の、この一瞬の笑顔の中に。 そんな気がした。 無理して笑っている、そんなことも感じなくなってる。 心が壊れてしまったのかもしれない。 ありがとね、と言って、さっきとは逆へ、船の中へ戻る道を歩く。 次第にウソップさんが遠くなる。とおく、なる。 「ウソップさん、」 「んぁ?まだなんか用か?」 ウソップさん直伝なんだから、もしかしなくてもばれてしまっているでしょうね。 それでも、気がつかないフリをしてくれているのだったら、 それがウソップさんの優しさ、なのかもしれない。 ウソップさんは、私が名前を呼んでも、振り返らなかった。 嘘は突き通したかった。 でも、もう、顔が持たない。 「私…ウソップさんが、…きらい、だいっきらい…!」 無理して作っていた笑顔は、未だ私の顔に張り付いたままだったけど、 頬を伝った雫は、ぱたぱた、とその場に音を立てて落ちていった。 「お、おい、おまえ…!」 ただ、ウソップさんを困らせたくないだけなんです。 好きだ、なんて伝えたら、ウソップさんはきっと困ると思って。 気付いて欲しかったけど、気付いて欲しくなかったんです。 ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい、 我侭でどうしようもなくてごめんなさい、 嘘をついてごめんなさい、ほんとに。 船内に駆け込む前にウソップさんに腕を掴まれて、 逃げ道をなくされて、ただただ、笑顔で泣きながら謝っているなんて、 なんて私は馬鹿なんだろう。どうしてこうなってしまったんだろう。 困らせたくなくてついた嘘なのに、やっぱり困らせてしまった。 なんて本末転倒な奴なの、私。 ウソップさんは、何も言わなかった。 掴んだ腕は離してくれなかったけれど、いつもみたいに 頭を撫でる事も、背中を摩る事もしなかった。 ただ、私の腕を掴んだまま、顔を少しだけ赤くして、 私の喉から、謝罪と嗚咽が止まるのを待っていてくれた。 素直になりたい。 なってみてもいいですか。 私に望みはないとしても、まだ、やり直せますか。 まだ、さっき言った言葉、酷い言葉、撤回してもいいですか。 「ウソップ、さん…」 「ごめんは、いいぞ。聞き飽きた」 今度は嘘じゃなく、ほんとう、を。 ウソップさんに伝えてみてもいいのでしょうか。 「の嘘は、もう見破ってるから、…まぁ、ホントのこと、言ってみれば?」 やっぱり、ばれていた。 困らせたくないけれど、ウソップさんから、許可も出た事ですし。 私は、ひとつ、大きな深呼吸をして。 あーぁ、やっぱり私は、 うそがつけない ***あとがきという名の1人反省会*** えーと、アレだよね、ウソップもどきとしか言えないね。 ホントはもうちょっとアレな感じにアレしたかったんですけど それはちょっとアレな気がしてアレしてしまいました(何言ってんの!? 悲恋にして切ないのが書きたかったんだよ、 それでも自身が拒絶してしまったのか、ウソップさんが 追いかけちゃったんですよ!助けて!私キモい! …あ、いつもですね、わかります。すみません。 それでは、ここまで読んでいただきありがとうございました。 2009.07.11 水上 空 |