きっと明日からもあいつは、私の気持ちになんて気付かないで、 私の心をぐちゃぐちゃにかき乱していくんだろうなぁ。 恋多き男を好きになるなんて、一生の不覚だわ、 そう嘆いてみた所で、私の心に生まれた、 生まれてしまった気持ちは、なかったものになんて出来ないけれど。 〜PRETENSE×PRETENSE〜 基本、タケシは誰彼構わず優しくて、そんなところも好きなんだけど、 そんなんだから、もっと不安が増すのも事実で。 下手な鉄砲数打ちゃ当たる、なーんて、嫌なことわざがあるもので、 今すぐ、じゃないにしろ、本当に毎日順当に恋の花を咲かせるタケシに、 本当にいつか、タケシの恋心に応える人が現れてしまったら? 私以外の誰かが、タケシの魅力に気付いてしまったら? 私はその時、どうしたらいいんだろう。 精一杯背伸びして、大人の女性ぶって、良かったね、って笑う? 子供の特権、前面に押し出して、嫌だ、って駄々こねてみる? 自分ではどうしようもなくて、直ぐにタケシから、離れる? 選択肢なんて、私にはそれほど多く用意されていないのに、 そのどれもが、今の私には出来そうじゃなくて、 明日からの私にも、到底出来そうなものじゃなくて。 私は、いつだって、必死に新しい選択肢を見つけようとしてる。 ただ、ひとつだけ。 気がつかない振りをした。 私からの告白。 その選択肢だけは、あえて見ない振りをした。 それが一番してはいけないことのような、気がした。 「なぁ、…なぁって。…食わねぇの?」 「…えっ、」 「ピーカーチュ?」 目の前でブンブンとサトシが手を振っていた。 その隣で心配そうにピカチュウが視線をくれる。 どうやら、食事中に意識が飛んでいたみたいだ。 「が食わないなら、俺が食っちまうぜ?」 「ちょ、食べないなんて、そんなこと一言も言ってないでしょ!?」 「だってさぁ、冷めちゃったら不味くなふひゃろー?」 「あー!あたしのハンバーグー!!サトシの馬鹿ァ!!」 「もたもたしてるが悪いんだろー!?」 ひょいっと、いとも容易くサトシはあたしのお皿から ハンバーグを奪っていってしまって、 あたしのハンバーグは一瞬でサトシの口へと消えた。 「かーえーしーてーぇ!!あたしのハンバーグー!!」 「無理だね!もう喰っちまったもーん!」 どたばたとテーブルを挟んで言いあいをするあたしとサトシ。 ぎゃんぎゃんと盛大に騒ぐあたし達の傍に、今はピカチュウは居ない。 その事に気づいたのは、すぐ近くでパンパン!と手を叩く音が聞こえた頃だった。 「ほらほら、ふーたーりーとーも!喧嘩するなって!」 「「だって!」」 「だってじゃない!」 食卓で喧嘩するなよ、と怒気の篭った声で言ったのは、タケシだ。 勿論、手を叩いて注意を引いたのも。 その腕にはピカチュウが抱かれていて、どうやら心配したピカチュウが テーブルから離れていたタケシを連れて来てくれたらしいことが分かった。 「仲直りだ、2人とも」 「「………ごめん」」 ピカチュウたちにも心配されてた、それが心苦しくて、 あたしもサトシも、素直に謝罪の言葉を口にする。 まだ納得はしてないけど、取りあえずの仲直り。 タケシは苦笑を浮かべながら、あたしとサトシの頭を撫でた。 こうされると、逆らえないの知っててやってるから、たちが悪い。 「ほら、俺の分けてやるから。機嫌直してくれよ?」 「う、あ…ありがとう…」 先に食べ終わっていたサトシは、ピカチュウと散策に行ってしまった。 今此処に残っているのは、あたしと、タケシの2人だけだ。 喧嘩の原因は、と問われて、内容を告げると タケシは「何だそんなことか」と言うような態度で、 自分の分のハンバーグを半分に切って、あたしのお皿へと移してくれた。 スマートな優しさに、あたしはまた胸を締め付けられる。 タケシが優しいのは、当たり前のことなのに。 自分に向けられる優しさが、特別だと勘違いしてしまいそうだ。 「それにしても、どうした?最近考え事多いって、皆心配してるぞ?」 「…なんでも、ないよ?ちょっと眠かっただけ。ごめん。」 「…なら、いいけど。あんまり無理するなよ?」 そうやって、タケシはまた、あたしの頭を2,3度撫でる。 あたしはそれを振り払うことも出来ずに、タケシの笑顔を直視することも出来ずに、 ただ、大人しくそれを受け入れてる振りをしている。 手元では貰ったハンバーグがどんどん細切れになっていく。 「じゃぁ、俺、片付けしてくるから。食べ終わったら、皿持ってきてくれ」 「あ、うん。分かった」 何とか返事を搾り出して、無理やりに笑うと、既に歩き始めていたタケシは 少し困ったように笑って、そのままゆっくり背を向けた。 ぼうっとそれを見送るあたしに、少し進んで振り返って、また少し笑った。 そんなに、心配してくれるなら、傍に居てくれたらいいのに。 それをしないのは、タケシなりの気遣いだって分かるのに、 声をかけたら、直ぐにでも戻ってきてくれるって知っているのに、 それをしないのは、そんなことじゃ心に空いた穴は塞がらないって、知っているから。 振り向いてほしい。 タケシから、タケシ自身の意思で、振り向いてほしいから。 振り向いて、…振り向いて振り向いて、あ、今の無し。 …やっぱり、振り向かないで。 お皿の中の細切れのハンバーグ。 タケシお手製のデミグラスソース。 今日は少しだけ塩辛い。いつもは悔しいくらい美味しいのに。 機械的に食べ進めて、空っぽになったお皿。 ぐちゃぐちゃになったお皿の中身を見たくなくて、 コップに残っていたお茶を流し込んで、見なかったことにした。 お皿の中で、これまたぐちゃぐちゃの顔をしたあたしが、波打って、揺れる。 あぁ、なんて酷い顔。 波紋が、幾重も重なったけれど、声は出なかった。 ただただ波紋を見つめていると、とん、と、誰かが控えめに体に触れてきた。 ゆっくりそっち視線を移すと、そこにはあたしの相棒…シャワーズがいて、 大きな目に、大きな涙を浮かべて、心配そうにあたしを見ていた。 「なんで、…シャワーズが、泣きそうな顔、してるの…」 そうあたしが聞くと、シャワーズの空色の体が大げさなくらいびくっと震えた。 振動で大粒の涙が零れると、シャワーズは初めて涙の存在に気がついたようで、 慌ててごしごしと顔をこすって、涙を消した。 そうして、シャワーズは、一瞬心配そうな顔をして、それから。 困ったように笑ったかと思うと、あたしの頬を舐めて、涙の痕を消してくれた。 タケシと同じ、笑い方をして。 シャワーズの体を抱きしめて、あたしは一つ、大きく息を吐く。 シャワーズ、そんなあたしを、弱いあたしを、責めたりしなかった。 心配かけて、ごめんね。 そう呟くと、シャワーズは返事代わりにまたあたしの頬を舐めてくれた。 暫くそうして、シャワーズのひんやりとした体に寄り添って。 ようやく離れたあたしの腫れぼったい目を、シャワーズは無言で冷やしてくれる。 「見なかった、ことにしてね」 告げると、シャワーズは今度はにっこり笑って、首を傾げる。 「シャワ?」 何にも見てないけど?そう言ってくれてると分かる。 その気遣いが嬉しくて、シャワーズの背中を緩く撫でた。 あたしが笑ったのを見て安心したのだろう、 シャワーズは、軽やかな足取りでみんなの居る方へと駆けていった。 残されたあたしは、何事もなかったような振りをして、 タケシの元へ、汚れたお皿を運ぶために、立ち上がった。 シャワーズが居てくれてよかった。 シャワーズが冷やしてくれたお陰で、あたしの目は腫れないで済みそうだ。 泣いたなんて、気付かれないで済みそうだ。 〜PRETENSE×PRETENSE〜 気付かないフリ、見ないフリ 大人のフリして、笑ったフリ フリ向いてほしいのに、フリ向いてほしくないフリ 泣いてないフリ、平気なフリ 全部が、タケシへの、あたしの気持ち。 ***あとがきという名の1人反省会*** タケシくんを書いてるドリームサイトが見つからないので、 取りあえず自分で書いてみたものの、何だか切ない…。 好きだけど、タケシくんと両思いの主人公って想像できない(ぁ 登場する相棒、ギリギリまでどの子にするか迷いました。 最有力はポッチャマだったけど(ポッチャマLOVE)、 ヒカリちゃんの相棒だったので断念。シャワーズになりました。 あと、「PRETENSE」は、「見せかけ」とか「ふり」って言う意味です。 見栄を張って、そういう風に見せてるだけだよ、(だから気付いて) っていう想いをのせているつもり、で、つけました。 それでは、ここまで読んでいただき有難うございました。 2011.09.15 水上 空 |