緊張に震えながら、携帯の通話ボタンを押す。
機械的な呼び出し音と、自分の鼓動がリンクする。
深呼吸をしつつ、その時を待つ。
何度経験しても慣れない。この緊張感にだけは。

暫くして、もしもし、とダブルスピーカー越しに聞こえた声は、
いつもどおり少しそっけない、それでも聞き馴染んだ『彼の声』だった。

出てくれた事にほっとしてるなんて気付いたら、
きっと、スイッチは不思議そうな顔をするのだろうなぁ。







〜CALL No. リナリア〜







「スイッチ、あのさ?」

『どうした、?』

「今度のお休みなんだけど、空いてる?」

『すまん、その日は先約が入ってる』

「あ、…そうなんだ、うん。分かった」


間髪入れずに返ってきた返答は、私の望んでいたものじゃなかった。
理解はすんなりできたんだけれど、どうしても受け入れがたくて、
一瞬言葉を失ってしまった。

その僅かな沈黙を、スイッチがどう思ったのかは私には良く分からないけれど。

私は極力明るい声で言葉をつないだ。
物分りのいい振りをして。


、その日に何かあるのか?』

「ん、遊園地のチケットもらったからさ、一緒にどうかなって思ったんだけど、
でも先約ならいいの。気にしないで?」

『そうか…』

「急でごめんね、ボッスンとかヒメちゃんにも聞いてみるからホント平気だよ」

『分かった。…なら別の機会があれば、そのときにでも一緒に出かけるか』

「うん、ありがと。じゃぁ、また明日ね」

『あぁ、また明日』


最後にお休み、と繋げて、電話を切った。
携帯を閉じた途端、ため息が漏れる。
緊張していた身体から、だらんと力が抜けて。
ベッドの上に肢体を放り投げて、枕に顔を埋めた。



遊園地のチケットをもらったのは本当だった。



もらってすぐ、スイッチの顔が浮かんで、一緒に行きたいと強く思った。
また明日だって学校で会えるのに、一緒に行きたいと思ったら
すぐに電話したくなって、その割に電話をかける勇気がなくて、散々迷って。


やっとの思いで、電話をかけた、のに。





…だめ、だったなぁ。





私とスイッチとの間には、同じ部活の仲間、クラスメイト、
そんな肩書きしかなくて、それが物凄くつらくて。

スイッチの中に、どこまで自分を映せるか、そればっかり考えているのに、
スイッチの中に、どこまで自分を残していいのか、躊躇ってばかりいる。

いっそ好きだと告げてしまえばはっきりするのかもしれないけれど、
何度その場面を想像してみても、全然うまくいくイメージが沸かない。



本当はさっきも、『先約って誰と?』って聞きたかったけれど、
私とスイッチとの間にある関係はあまりにも薄っぺらに思えて何も聞けなかった。
一大決心したくせにひた隠しにして、いい子ちゃんで居る道を選んだ。
ずるくて、汚くて、弱くて、…その上臆病だ、私は。
そんな私に、望む未来なんて、あるはずがない。



きっと、私は明日も何事もなかったようにスイッチの前で笑うんだけれど、
明日スイッチの顔を見たとき、声を聞いたときにうまく笑えるように、
今日は、今は、泣いてしまったほうがいいのだろう。



ごめんね、こんな私があなたを好きになってしまって。

明日はただ、あなたに笑顔で会いたいな。







CALL No. リナリア



私の恋を、知ってください、なんて、虫が良すぎるって知ってるけれど







***あとがきという名の1人反省会***
リナリアの花言葉は、「私の恋を知ってください」「幻想」です。
タイトルは考えるの苦手ですが、今回は
本当に考え付かなくて泣きそうになりました。

片思いの相手に電話かけるのって物凄く緊張しますよね。
相手の声しか情報がないから、不快に思われたらどうしよう、とか。
スイッチだと機械音声だから、余計読みづらそう、とか考えて
出来上がった作品です。片思いの辛さ、少しでも伝われば幸いです。

それでは、ここまで読んでいただき有難うございました。

2011.09.15 水上 空