「なんか、最近暇じゃないか?」




思えば、部活中に呟いたこの天国の一言が、今日の惨事の元凶だったのかもしれない。









最 高 級 の 暇 潰 し を 君 に










「うん、そういやそうだよねー」


何も考えずに、私は天国の言葉に同意した。最近部活のマネージャーのしごとにもなんだか慣れて来たし、

中学の時と違って、天国が忙しい所為で、健吾と3人で遊べないし。


正直、なんだかつまらなかった。


だけど、マネージャーの仕事は苦にはならないし、天国の試合姿見ているのも思ったより楽しいし、

まぁいいや、と投げやりに伸びをしようとした矢先に



「よーしみんな集合!!今から第1回脇役決定戦をするぞぉ!!」



なんとも甲高い天国の声が、グラウンドに響き渡った。

其処にタイミング悪くやってきたのが報道部のオールバックキャメラマン。



「はァ?何言ってんだよ天国」

「おお!丁度良いタイミングで来ましたね沢松くん!!」

「なんだよ、お前、まさか・・・・・」



反論虚しく健吾は天国に拘束された(天国はそれはもうなんの躊躇もなく)



「野球部の脇役っつったら・・・・・・・」

「猿野、何が始まるたい?」

「そうっすよね、大根先輩もっすね」



そしてぐるぐるとどっから持ってきたか縄で手を拘束する。

猪里先輩は、ひたすら不思議そうな顔をした。


「なんばしよっと?」

「気にしない気にしない!気にしたら世界の終わりっすよ!」

「あ、天国・・・・何する気?」



私の問いかけにまったく持って天国は答えようとしない。

それどころか、酷く楽しそうに笑って、私の横をすり抜けた。一体あいつは何考えてんだ?

鬼ダチとはいえ、アイツの行動は、いつになってもよく分からない。



何分かした後、天国は野球部全員をグラウンドの真中に呼び出した。

其処には、拘束された健吾と猪里先輩も座っている。2人とも何がなんだか分からないといった表情をしていた。そりゃそーだ。



天国は、ゴホンとヒトツ咳払いをして、どっかからBGMを持ってきた。

チャラッチャラチャラ〜と場にそぐわないリズミカルな音が流れる。

それに乗せて、天国は大声で言った。



「さーて、皆さんに集まってもらったのは、他でもない。脇役を決めようと思ったからです!」

「わ、わきやく?俺が?」

「はい、脇役候補の沢松君は黙るようにー」

「っておい待てよコラァ!」


健吾の反論空しく、天国はチャカチャカと動く。こういうときだけコイツは素晴らしいほど要領がいい。


「はーい、みなさんの目の前に硬球がありますよね?」

「た、確かにあるのだ」

「それで、コイツこそは脇役だ!と思う奴目掛けて・・・・・」

「目掛けて?」

「硬球を思い切り投げて下さ・・・・・ってのは冗談で」



いや、絶対狙っただろ、今。

そんな視線が天国に突き刺さる中、天国はもう1度咳払いをした。



「硬球を彼らの後ろにそっと置いてください」

「なぁ、猿野、これやって何の意味があるのだ?沢松とかいう報道部はいいとして、猪里は野球部の、しかもレギュラーだぞ?」

「ほっぺ先輩、そういう痛いツッコミはしないでください。それはきっとここにいない誰かが一番よく分かってると思うんで」

「・・・?分かったのだ」



いや、そこ納得するなよ、鹿目先輩。ってかなんでこの変なイベント起こってるのに、誰も突っ込まないんだ?

寧ろ其処突っ込むだろ?と何度も思ったが、やはり面白いことに目がない私は、それを口には到底出せそうもなかった。



皆思い思いに、硬球を置いていく。やはりというかなんというか、健吾はえらい量だった。だってアイツ野球部じゃないし。

猪里先輩もちょこりと申し分ない程度においてある。でも置く人はやはりいるようだ。



嘗てないほど地味なイベントだ、と楽観視していると、私のほうにぽいっと硬球が投げられた。

投げてきたのは、主催者天国。にやりとひどく楽しそうに笑っている。

私が硬球を持って佇むと、何故だか健吾も猪里先輩も急に此方をじっと見た。まるで、何かを懇願するように。

天国と、2人を交互に見て、合点がいく。


なるほど、此れを狙ってたのか。


随分前に、健吾と猪里先輩ってどっちが脇役か、と冗談めいて天国と話していた。

私はそんなのどっちでもいいじゃん、と笑って流していたけど、なるほどね。

あの時簡単に流したから、こうして今改めて選択してみろと言いたいワケか。



其処で二人をじっと見る。

健吾は、鬼ダチなだけ合って、到底私にとって脇役なんかじゃない。

じゃあ、猪里先輩は?と言われても、やはり部活のレギュラーとして活躍しているところを見ると、脇役じゃないといえるだろう。

だったら、どっち?






って、待てよ自分。

大事なこと忘れてないか。






それに気づいて、私は硬球を天国目掛けてぶん投げた。

いきなりのことだったので、ボールは天国の横をすり抜ける。

私は苦笑いをしながら、言った。








「悪いけどさー、天国」

「ん?」

「私にとっちゃーみんな脇役じゃないから、この硬球は受け取れないね」

!お前ってやつは!!」


沢松が目を潤ませていう。は苦笑した。


「あ、別に情けかけたからとかじゃないからね」


はそれだけ言うと、さっさと部室に戻っていった。

天国はため息を吐いて、沢松と猪里の縄を外す。


「やっぱ、アイツには適わねーや。折角こうしてセッティングしても、なにも靡きやしねー」

「ある意味、いい機会だったんだけどな」

「まぁ、は鈍感やけん、分からんのやろ」

「まー2人に想われて、アイツも幸せだな」

「ナニ分かった口聞いてんだよヴァカ天国」

「そうたい、慣れなれしいっちゃ」

「へいへい」



天国は、縛っていた縄を持ってきたリュックに詰め込んだ。

前から沢松と猪里先輩の気持ちには気づいていた。

釜を掛けたフリをして、の気持ちが今どっちに傾いているのか確かめようと、思ったのだが。


どうやら、裏目に出たらしい。


これで、がどちらかを選んだら、もう片方はを想うのを諦めるだろう。

そしたら、ライバルも減る。どっちに転んでも、都合がいい。そう安易に思っていたのに。

そう簡単に、現実思い通りにはいかない。


つまるところ、自分の都合のいいようにやったらダメだということだ。




「っはは、難しいもんだねぇ」




今回の策略はどうやら失敗の模様。

だけど、まあいい。の暇潰しくらいにはなっただろう。



辺りを照らす眩しすぎる太陽を一瞥して、天国は酷く楽しそうにに笑った。










→ 後書


先に謝ります、すいません(早 此れの何処が猪里VS沢松なんだっていう痛いツッコミがわんさか飛んできそうです。

そして天国がえらくおいしいとこ取りしております。まったくコイツはなんなんだ。動かしやすすぎだぞバカヤロー(酷

えー、大変長らくお待たせしました。拙い文ですが、受け取って下さると嬉しいです。99999HIT御礼、水上 空さんに送ります。


2005.9.3.




猪里スキーの私がVSものOK!という若葉さんの優しさに
甘えまくってしまいました。書くの大変でしたよね、ごめんなさいデス。
猪里君や沢松君は勿論のこと、猿野君が大活躍で…!
お腹いっぱい胸いっぱいvトキメキと感動を与えていただきましたv
リクエストに答えて頂き、ありがとうございました!