細かい雪がさらさらと降り続ける今日。冬至。 一年で最も陽が短い日。 中庭にも校庭にも、いくらか雪が積もっている。 一面の銀世界。 亥の刻も間近になり、忍たまたちもそろそろ眠りに着く頃だが… 「あれ?」 浴場近くの庭に人影がひとつ。 こんな遅くに…しかも雪が降っていてこんなに寒いのに。 あんなところにいては風邪をひいてしまうだろう。 せめて屋根のあるところにと勧めるべく近づいて行くと、その人影が誰なのかわかってきた。 「風邪、ひきますよ?」 名前も呼ばずにいきなり声をかけたからか彼女は随分と驚いて、ずっと空を仰いでいた顔を素早くこちらに向けた。 「土井先生…」 「何をなさってるんですか?今夜はこんなに冷えるのに…」 「いえ、その…雪が降ってるから…」 「雪を見てたんですか?だったらせめて屋根があるところで…」 「そうですね…そうなんですが…」 「?」 言い難そうに、もう一度空を見上げる。 眼を閉じて…笑っているようだった。 細雪が彼女の頬を滑るように撫でては落ちる。 それを、楽しんでいるようだった。 「当たり前のことですけど…雪って冷たいんだなぁと思って」 どう見ても湯上りのその格好で、雪の中、雪を楽しむために立っていたらしい。 彼女らしいといえば彼女らしい。 彼女は、どんな些細なことにも感動して、何もかも楽しみに変えてしまう人だから。 「だけど、風邪をひいては元も子もないでしょう…」 私は彼女に近づき… 「せんせ…」 …ゆっくりと、抱きしめた。 「あ、あの…」 「ほら、こんなに冷えて…」 腰に手をやり抱きすくめ肩に顔を埋めると、私の耳が彼女の冷たい首筋に触れた。 首がここまで冷えているということは、一体どれほどここにいたのだろう。 ふと。 「あれ?」 彼女の髪から香ってきた、かすかな香り。 爽やかでほのかに甘い香り。 「なんですか?」 「なにか…香りが…」 「ああ、今日は柚子湯でしたから」 「柚子湯?男湯は普通でしたけど…」 「ああ…おばちゃんがお知り合いから柚子を頂いて来られたんですけど、食用に出来るほど綺麗ではないからって、お風呂に放り込んじゃったんです。でも数が少なかったので、女湯だけ」 「なるほど」 だけど、温もりを失って行く彼女の肌からは段々と香りが飛んで行き、勿体無い気がして、抱きしめる腕に力を込めた。 「せんせ、い…苦しいんですけど…」 「あっ…すみません…つい…」 「つい?」 「いや、えーと…肌が段々冷えていってるし、こうすれば温かくなるか…と…」 説得力があるようでない、問いに答えているようで答えられていない私の言葉に対して、 「大丈夫です。もう一度、お風呂は入るつもりでしたから」 と、さらりと返してのけた。 「そうですね。そのほうがいいです」 それじゃあ、と手を振り湯殿に向かう彼女に、私も手を振る。 しんしんと降り続く雪の中で今度は私が立ち尽くした。 まだほのかに鼻孔に残る柚子の香りを楽しみながら。 -------------------- 室町時代にクリスマスはありえないだろう、ということで、ひねくれて冬至夢を書いてみ…たつもりなのですが、 別にわざわざ柚子ネタ出さなくても、普通に冬夢でいける代物になってしまいました…。 まぁせっかく書いたので、いつものように限定夢にしてみました。 拍手、ありがとうございます。 とりあえず土井先生抱きしめてほしかったっていうお話。(結局そこか) こちら、一応フリー夢になっています。 ここに掲載されている間はご自由にお持ち帰りください。(でも執筆者の表記はお忘れなく) 忍び、偲ぶ。のしのぶさんの拍手フリー夢ですv 期間限定だったので、発見できたのは奇跡に近い…。 陰ながら応援しているサイトさんのフリーを見つけた時は 明らかに小躍りする私ですが、これには本当に悶絶いたしました…! 名前を呼ばれてるわけではないのに、どうしてこんなにときめくんですか…ッ! 優しく、控えめに甘い土井先生…格好良いです。 私もこんな夢が書ける人になりたい…。 |