黒、朱に映え 八月三十一日。 今日は俺の誕生日。 別にパーティー開いて祝ってくれとは言わない。けど、正直この状況も無いと思う…… 「恋次〜新しい仕事。」 「なぁ…。今日…」 「ほらっ!無駄口叩いてると終わらないよ!」 十一番隊執務室には四席のと六席の俺だけ。 隊長も副隊長も三・五席も『訓練』と称して遊んでる。 「まったく。せめて月末決算ぐらい手伝ってくれれば良いのに…」 今日は月末で、死傷者数や昇華虚数・滅却虚数なんかを数えてリストを提出する日。 締切りは五時なので切羽詰まっているが、外でサボリ組が剣を振っているのか続々と怪我の届が新しく入ってくる。 書類業務の隊長代行を任されてるにしちゃ、たまったもんじゃねぇだろう。 まあ、俺だって、誕生日プレゼントが仕事なんて御免したい。 「「「すいやせん!新しく負傷届を!」」」 「………もうイヤ!!隊長達に一喝入れてくる!!!」 「程々にな…」 終にがキレた。 今回は禁酒令位じゃ済まないかもな… がシカトした隊士から負傷届を受け取り、一人で仕事を再開する。 「すみません。六番隊から調書の届けです。」 「おぅ。入っていいぞ。理吉か?」 「はい。お久しぶりです」 障子を開け入ってきたのは、やっぱり理吉だった。 朽木隊長の六番隊の新入隊士らしい。よく分からねぇが懐かれた。 「阿散井先輩。隊長代行はどちらに?」 「おぅ、久しぶりだな。ってか、恋次で良いっつったろ。はキレてるからな…もうちょい待った方が良いぜ。」 「そうですか。隊長代行も大変そうですね。」 「あぁ。ここ最近カリカリしてやがる。」 ―――パンッー… 「ぁあ〜してやったり!!」 勢いよくが執務室に帰ってきた。 行きはあんなにカリカリしていたが至福面下げて帰ってきた。 そして、ガシャリと手荷物を放った。 「「………?」」 「あぁ。これ?隊長達から没収して来た。」 そこに放られたのは間違いなく斬魄刀が四本。 隊長達だってさすがにこれは抵抗しただろう…それでもは無傷だ。 の力量をまじまじと見せつけられた気がする。 「あの、隊長代行!調書をお届けに参りました。」 「ありがと。」 「あと、お話が有るのですが…その、今日の事で……」 「………あ〜恋次ゴメン。ちょっと出ても平気?」 「ぉ、おぅ…」 返事はしたものの……… 待て、待て、待てぇ!! なんだ今の二人の表情は!! は、はにかみ笑いだし、理吉は満面の笑みだし、お前ら『そういう仲』だったのか?! 「キャッホォ〜イ!!上がり〜!!!」 あれから、のペースは早かった。上機嫌だし、鼻歌まで歌ってやがった。 でも、今度は逆に俺がカリカリしちまって、ミスも所々有ったが仕事に没頭した。 そうしてないと、『二人が何を話してたか』それだけを考えてしまう。 「どうした恋次?終わったのに浮かない顔して。」 「別にっ……」 別にじゃねぇよ。の顔が見れねぇ。 を自分より下端に持ってかれるなんて。 「じゃ。私はコレを総隊長に提出してくるね。」 「お願いします…」 「あ、恋次。今日はまだ仕事が残ってるから帰るなよ?」 「え?いつもは、これで終わりじゃ……」 「今日は有るのです。残念!!」 『残念』 まったくだ。今日に限ってこれだもんよぉ… 十分ほど経った頃、先程去っていったの気配が近付いてきた。 「たっだいまぁ恋次!!」 「おかえりなさい。」 「………ぷっあはは!なんか、こうゆうの夫婦みたいだね?!」 「…なっ!な、な、何言ってんですか!!」 「きゃはははは!恋次ってば、何処からが髪だかデコだか分かんないよ!!」 突拍子もない発言にあからさまな反応をしちまった。 好きな女にそんな事言われたら赤くなって当然だろうが!!! 騒がしい二人だけの執務室に、誰かがやって来た。 「あの、さん。準備が整いました。」 理吉だった。 一気に気分が冷めた。 何だよ。残業は俺に任せて、デートかよ。 「あ、ホント?」 「はい。」 「よし!恋次!」 うなだれ、机に戻ろうとした俺の手をが掴んだ。 「残業片付けに行くぞ!」 「………はぁ?」 は、サッサと走りだして振り返らない。 何処に行くのかと尋ねたいのは山々だが、スピードに追いつくので精一杯だ。 早すぎる…理吉はもう、とっくに置いて行かれた。 「!早すぎる!」 「おっと。済まんかった。」 急停止する。 走っていた勢いに任せて頭からすっ転んだ。 「………急に止まんじゃねぇよ!!!」 「あぁ。すまん。だが、受け身ぐらいとれよ。」 俺は怒ってるってのに、は白っとしている。 差し出された手が顔に近付き………デコピン……… 「恋次はその顔が良いな。悩みが有るなら訊くぞ?うじうじ悩んだ顔はあの場に似合わんからな。」 「別に…悩んでなんか…大体、あの場って何処っすか?」 執務室か? そりゃ、横で眉間に皺寄った奴が仕事してたらイヤだけど… 「ふぅ。悩みが無いならまあ良いか。『あの場』に行くぞ!」 今度はちゃんと、俺の手を握って引き起こしてくれた。 「…なっ!!!」 「あと、少しだからな!!」 違う!違う!!繋いだまんまの手だよ!! の異常なスピードで走らされて約十分。 「着いたよ。」 着いた先は、行きつけの飲み屋だった。 「…ここで、残業やんのか?」 「そだよ。入るぞ。」 全くもって意味が分からねぇ。 飲み屋の二階にある、宴会場に案内された。 「ほれ。恋次が先に入れ。」 は、ヒラリと俺の後ろに廻り俺の背を押した。 「わっ!ちょ…分かりましたよ…」 襖の取手に手を掛け、引いた。 ―――パンッ、パッ。パンッ… 「「「「「ハッピーバースデー!恋次!」」」」」 「…なっ!」 「嬉しい?」 後ろから笑顔でそう訊いてくるの方が嬉しそうだった。 「ぇ?…残業は?」 「今日の残業は、自分の誕生日パーティーを楽しむ事です!!」 「おら、恋次!良い酒用意したんだぜ!」 「ほら、一角さん呼んでるよ。行ってきな。」 「ぉ、おぅ…」 「おら、飲めぇ!!」 うわっ止めてくれ!! いきなり酒が瓶ごと口に突っ込まれた。 「コラ!一角さん、無理やりは駄目ですよ。」 「じゃねぇか!!お前も飲め!」 「お断りしておきます。」 あ、一角さん逃げた。 も、そんなに強く言わなくったって。 黒い笑顔で一角さんを説教したは、俺の隣に腰を下ろした。 そのまま手近にあった酒を手にし俺の酌を取った。 「ねぇ。嬉しい?祝ってもらえるのは。」 「ぁあ。流魂街に居た頃はそれどころじゃなかったしなぁ…」 「そっか………」 は、中流とは言え貴族の出だ。 流魂街がどんなもんかなんて話にしか聞いた事は無いだろう。 「恋次、来年も祝ってあげるね。」 「あぁ。頼むわ。」 「うん。恋次、手、出して。」 「ん?ほれ。」 俺は方へ手を投げ出した。 「はい。誕生日おめでとう。」 その手に乗せられたのは、柔らかい和紙に包まれた何か。 「開けても良いか?」 「どうぞ。」 ガサガサと封を解くと中からは黒地に金糸をあしらった髪紐だった。 「漆黒と金色は、朱に映えるのよ。」 「……俺の為に?」 「じゃなきゃ恋次に渡さないよ。折角誕生日祝うんだから、形に残るもの贈りたくてね。」 「あのさ。…すげぇ嬉しい。大事にするから。」 「うん。もち。」 の心を得た訳ではないけれど… 今はただ、隣に感じるの温かさと、もう一度和紙に包んだからの贈り物で十分だと思う。 「写真提供:clef」 相互リンクさせていただいてるバベルの塔の暁様から 到底処女作とは思えない文章力…! 私も素敵な文章が書けるように頑張らねばねば…! これからも相互サイトさんとして仲良くしてくださいねーv |